お泊り

昨日は会社の後輩の「う」の家へお呼ばれして出かけた。
「う」は坊主頭に雪駄と原色のトレーニングウェア、金のネックレスと尖がったサングラスがマイルドにフィットした筋肉質の男で、駅前でウンコ座りしてたらまず間違いなく誰も目を合わせようとしないタイプのファッションを好む好男子だ。紺色の金網つき宣伝カーがあまりにも似合う彼は、一見ある種の暴力的な結社の構成員の方のようにも見えるが、オレ的には高野山で修行してきたが好色で破門され山から下りてきた破戒坊主、というイメージのほうがあっていると思う。実際の彼は会社の有能な営業マンで、暴力的な行為には一切縁が無く、たまに使えない後輩にやんわりとバチキやゲソパン食らわせる程度の指導行為しかしない人道主義者だ。ちなみに趣味は喧嘩の仲裁。仲裁と言うか、喧嘩している連中の所に彼が現われて「あにやってんのよ?あん?」とか一言言うと大概やばいものを感じて喧嘩する気が失せるのだと言う。彼は平和主義者でもあるのだ。さすがオレの後輩だけある。
家では彼の下町美人の奥さんがもてなしてくれた。もともと気風のいい粋な奥さんだったが、現在御懐妊中で、オレの知ってる頭の回転の速そうなはしっこい瞳が、すっかり母親の優しげな瞳に変わっているところが物凄く印象的だった。彼女、ビートたけしの後輩なんだって。
後輩「う」の好きな話題はやはり下町の風情や祭りの話だ。ホームレスやある種の暴力的な結社の構成員の方の話題にも詳しく、吉原などの遊郭の今昔についての造詣も深い。人間が江戸っ子なのである。かく言うオレも、地方出身者ではあるが、もはや人生の半分以上を過ごしている東京と言う街は好きだ。そしてゴミゴミした下町の家並みも、少し煤けて地味な下町の人たちも嫌いではない。いや、好き嫌いではなく、ここで生きる、というのは、そういうものを受け入れる、ということなんじゃないかと思う。
「う」とは暫く酒などを飲みつつ、最近調子が悪いとか云う彼のパソコンの調子などを見てあげる。見ると確かにあれこれ具合の悪い事になっている。度重なる「う」のエロサイト訪問に、彼のパソコンは訳の判らない常駐ソフトやオートダイヤラースパイウェアでみっしりと埋め尽くされていた。そんなのをボチボチ消しながらあれやこれやディレクトリを弄くってるうちに、何か誤って音声が出なくなってしまう。
取り合えず一泊することにしていたので、彼の家で寝せてもらい、翌朝再チャレンジ。どうしたもんかねえ、とかドライバなどを確認していたが何とか苦労して直す事に成功。「何か音声の確認出来るファイルある?」とか訊くと、「う」はこれがある、とか云ってエロサイトから山のように落としてきた本ナマ動画のファイルをクリックする。爽やかな朝のしじまに響き渡るAV女優のあはんうふん言う声。「やったな」「直ったよ」「完璧だね」あれがこれにズコズコになってる動画を見ながらオレと「う」は硬い握手を交わす。横で見ていた奥さんも「よかったわねえ」と嬉しそうだ。
一仕事終えてすっきりしたオレは朝食まで戴いて「う」家を後にした。また遊びに来てください、と「う」。「今度は1000円で吐くまで飲める下町の飲み屋を案内しますよ」。1000円で吐くまで、って、それ、安けりゃいいってもんじゃないだろ!