カアカアカア

オレの職場の近くにはカラスが結構いるらしく、カアカア鳴いているのがよく聴こえる。このカラスの鳴き声を以前9月29日のオレの日記で紹介した手配師の社長がよくマネをしている。マネ、というか、カラスが「カアカア」と鳴くと社長もそれに呼応して「カアカア」と鳴くんである。カラスが「カアカア」。社長も「カアカア」。
そんな事が暫く続いた後、外から「カアカア」と聞こえて来るとカラスではなく社長の鳴き声のほうに聞こえてしまい、「いや、今のはカラスのはずだな」などと妙な胸騒ぎを覚えつつ心の中で訂正するようになった。やはり事務所の外で人が始終「カアカア」と叫んでいる環境というのは何か基本的に間違っているような気がする。
しかし最近、社長の「カアカア」が聞こえない。どうもカラス自体が居なくなったらしく、カラスの「カアカア」に呼応すべき社長の「カアカア」が無くなった、というのが真相であろう。
ただ、慣れというのは不思議なもので、「カアカア」が聞こえないと今度は淋しくなったりするのである。理不尽である。暴力を振るう恋人となかなか別れられない女の心情と同じぐらい理不尽である。
そしてオレはその静寂を埋めるべく、自ら「カアカア」と鳴いてみる。「カアカアカア」。…鳴いてみると、これが結構気持ち良い。「カアカアカア」。そうか、そうだったのか。虚ろになった心に最も響くに相応しい音。それは、カラスの鳴き声だったのである。
カアカアカア。
そして、オレは、解き放たれたのである。