猫を拾う

会社の事務所の裏で、生まれたばかりみたいな子猫が3匹、みゃーみゃー鳴いているのを見つける。
1匹はトラ、2匹はクロ。本当にちっちゃくて、よちよちは歩いてるんだが、オレが近寄っても逃げ方も判らず、腰を抜かして引っくり返ったりしている。試しに1匹捕まえて手の中でむにゅむにゅして見る。その間も、これらふにゃふにゃのぱやぱやな連中はみゃーみゃーぴーぴーと鳴いてるんであった。
これだけ小さいのに親猫がいない。親猫に捨てられたのかもしれない。
しかし仕事中でもあったし、何も出来る事はないので、連中はそのまま放って置くことにした。
それでだ。
俺の会社に出入りしてる手配師*1の社長が、その猫を見つけてしまったんだね。「おおぅ、子猫がいる!」とか言ってね。
この社長、今年55歳なんだが、えらくパワフルな男でね。昔はソープランドを経営してたらしいんだが、いまはフィリピン人労働者の斡旋をしているんだ。「ソープ経営してた頃は、毎日が新人の味見でしたよ!」とか言ってる、限りなくリアリズムに満ちた人だ。この社長、最近離婚した離婚した、でも円満離婚なんだ、と騒いでいたんだが、そんな話をした3日後にこの人の事務所に行ったら、なんか机の脇に水商売風の若いフィリピン女性に抱きついてるこの社長の写真と、赤ん坊の写真が貼ってあったのね。「何だよ、社長、離婚してもう遊びまわってんのかよ」とオレはからかってやったんだよ。そうしたら、「遊んでんじゃないよ!これオレのニュー奥さん!で、小っちゃいのはオレのベイビー!」とかぬかしやがんだよ!そうかよそれで離婚かよ!そして3日後に結婚かよ!で、なんなんだよその屈託のなさというか悪びれなさは!人間にはもうちっと内省ってもんがあるんじゃねーのかよ!?
とかいいつつ、この社長に関しては、結局はキャラ勝ちなんだよな。豪放楽天な性格は正直嫌いじゃないんだよね。こんなオヤジだから、ま、しゃーねーか、根元敬風東北弁で言うのなら「さすけねが」って感じ。まあ女にとっちゃ敵なのかもしれないけど、所詮は他人の事なんで、実際の所オレは面白かった。
で、猫なんだが。
社長、早速、小猫を捕まえて、3匹とも段ボール箱に突っ込んで、猫と遊んじゃってるんだよ。で、彼の雇ってるフィリピン人労働者の諸君も、猫とじゃれては「ニャオニャオ」とか言ってんのよ。「社長、どうすんのこの猫?ここで飼うつもり?」とオレが訊くと、「うん!持って帰って飼い主見つけてくるよ!」という返事。なんだ、女を食い物にしてる割には優しいじゃん、と思った。
で、次の日、子猫を持って帰っていた社長に「猫どうした?飼い主見つかった?」って訊いたんだ。
そしたら、「うん、飼い主見つかんないから保健所に預けてきた!」とか言ってやがるんだよ!…え?保健所っすか?すると猫達の末路は…。
まあ考えようによっちゃ合理的な判断なんだけどさ。親猫のいない子猫は放って置いても同じ末路かもしれないし。
でもさ、…なんか嫌なオチじゃない?

*1:職業安定所などの公的機関を通さないで自由労務者などを雇用者に紹介し、斡旋料を取る者。/goo辞書http://www.goo.ne.jp/