不成仏霊童女/花輪 和一 (著) ぶんか社コミックス  ISBN:482118088X

ラブクラフトが日本に生まれ、H・R・ギーガーのセンスで漫画を描いたら。それが花輪 和一である。
花輪 和一の漫画は中世日本を舞台にした幻想怪奇譚が主であり、題材として人間と異形との遭遇、ないし異形への変容、融合が描かれるが、底流には人間の怨念と因業の深さがテーマとなっているのだと思う。しかもそれが尋常じゃなく歪んでいる。
幻想怪奇譚とはいえ、恐怖よりも絶望感や深い諦念が物語全体のトーンとなっており、時としておそろしく救いようの無い物語もある。逆にその絶望から抜けだし、魂の救済を描く作品もあり、妙なバランスが取れている。どちらにしろ、登場人物はかなり突き放して描かれており、結果がどうなろうと、作者はあまり興味がないような気がする。
むしろ作者が力を入れているのは、人間が“非”人間に変容する過程の圧倒的にグロテスクな描写だ。花輪漫画の登場人物たちは時として、虫と融合し、魚類に変身し、野良犬と合体し、爬虫類へ化身しようとする。そしてその時、人間という存在はそれら生物の下に位置し、人間性そのものが否定、蹂躙されるのだ。その虚無感と救いようの無さは、あらゆる人間的要素を嘲笑う。なにしろ登場人物たちは、人間でなどいたくないのだから。
そしてもうひとつ、花輪漫画は精神的肉体的に追い詰められ、心を病んでいく人々の魂の地獄を描いた物語でもある。しかしそのアプローチが歪んでいて、本当に地獄に落ちてそれでお終いだったり、「ひたすら仏性に帰依し、神性にすがれば救済がある」というまともに見えるが実はかなりカルトでサディスティックな修行を強要する物語へと展開して行ったりする。今作なんかでは、「呪いOK」「怨念OK」であり、「罪の無い子供を殺す奴は地獄に落ちるのが逆に救い」とか、ひたすらまともとは言えない論理が展開していくあたりに逆に凄みを感じる。
ところで今回の単行本には作者には珍しく現代が舞台になった「在美(ゾンビ)」というタイトルの作品があるが、これが今回一番凄惨な話だった。富士の樹海で自殺している人間を探し、絶命寸前で救い上げ、そして洗脳、調教し、奴隷として売り払うのを商売にしている男の話。凄まじくないですか。作品内では首吊り自殺者の絶命までの段階を事細かく説明してたりします。
花輪 和一の作品にははっきり好き嫌いが分かれるでしょうが、彼が日本の漫画界の中で怖ろしく個性的であり、また、唯一無二の孤高な作風を持つ漫画家であることは確かです。