電話

月曜の夜に電話が来る。「どーよ仕事のほうは。」土曜日、なんだか居た堪れなくなって電話したんだが、留守電のまま放置になってた俺だったんであった。「あの日は家族と食事だったのよー。うまくやってるのよー。」と豪気な彼女。「どこで?」と訊くと「居酒屋ぁー」。居酒屋は家族の食事って場所じゃないと思うが家族とうまくいってんならいいか。「留守電の声、暗かったよー」当たり前だ。月曜から陸の孤島で薮蚊やゴキブリ相手に淋しい左遷生活だ。おまけに電話掛けた相手からは放置プレイだ。「異動先どう?」「オレは大人だし男だからな。オンナの前で仕事の愚痴なんか言わないんだ。言わないぞー、仕事の愚痴なんかー!」と言いながら半べそかいてるオレ。既にダメダメなんですけど…。
「この間言ってた映画って、『ビューティフル・ライフ』じゃなくて『ライフ・イズ・ビューティフル』じゃないのか?」「あーそうだそうだ!」「お前さー、『人生で一番好きな映画』とか言っといてタイトル間違えんなよー」「うーうー」。
ライフ・イズ・ビューティフル』はビデオ屋でレンタルして観て見た。前半コメディで後半悲劇の映画。これってパターンとしては「笑わせといて泣きで落とす」藤山寛美松竹新喜劇の世界じゃないか?とか思った。でもあいつはこういうベタな大衆性が好きなんだー、って発見できたのが面白かった。
火曜の夜に自分から電話する。「ねむーい!」「なにやってたの」「犬の散歩。」深夜にするなよ。
「ところで『巨人の星』の主題歌の『思い込んだら〜』って、『重いコンダラ』じゃないからな。」「え。違うよ。コンダラだよ。」「いや、あれはお笑いに良く使われるネタなんだよ」「違うよ。コンダラでいいんだよ」「なに?」「私も最初、『思い込んだら〜』って、思ってたんだけどさ。TVでやってたんだよ、『重いコンダラ』だって。」「いや、だから。それがお笑い番組だったんだって」「違うよ。コンダラでいいんだよ。友達もみんな言ってるよ」「…あのな、それ、お前を担いでるんだよ」「…違うよ。コンダラでいいんだよ。」「だからさ、あれは、単なるローラーなんだって。」「いいんだよ。あのローラーのことをコンダラっていうんだよ。」「がーーーーーっ!!!お前強情すぎ!」「そうよ。私強情よ!」、お前、信じすぎ。
「『ライフ・イズ・ビューティフル』より好きな映画あったの忘れてた。」「なに」「『アメリ』。」「お前アメリと自分を重ね合わせまくって映画観てただろ」「ちがうもん。あんなに可愛くないもん」そうじゃなくて、アメリ程度にユニークって言いたかったんだが…。
なぜか最後に怪談話になる。「私霊感強いんだよ」「…え?見たことあんの?」「うん。友達んちで。変な影が見えたのよ」「…影って、どんな?」「なんか、いまどきこんな奴いないだろってぐらい凄いリーゼントした男のひと」「…それ、ホントにその人がいたんじゃないのか?」「違うよ。」「凄いリーゼントってどんな?」「氣志團ぐらい。」「…だったらそれ、ホントに氣志團のヒトが居たんだよ!」どこが怪談だ!