Bing Boring / Pet Shop Boys


"But I thought in spite of dreams,You'd be sitting somewhere here with me." (だけど僕は 夢がどうであろうと 君がどこかそばにいてくれるだろうと思ってた)/ "Bing Boring" Pet Shop Boys

ビーイング・ボアリング」。ペット・ショップ・ボーイズのビデオクリップの中では、この作品が一番好きだ。
プールから上がり、全裸の青年が犬と一緒にトランポリンを始める。映像は全てモノクロだ。輝くような肉体。プールにはなぜか縞馬。背後にはソテツと海。モノクロでなければ、どこまでも青い色なのだろう。
バス・ルームの中で泡だらけになって抱擁しあう男女。笑顔。キス。見繕いをする若者たち。パーティーの始まり。ファッションはクール。階段の踊り場でステップを踏む黒人青年。ダンス。ダンス。紙ふぶき。ダンス。自転車に乗るチンパンジー。シャンデリア。疲れて居眠りする奴。拍手。歓声。キス。もう一度ダンス。
雨の中、裸の男女が、抱き合いながら、濡れた地面を転がってゆく。歓喜の中にある彼らに、雨の冷たさは感じない。そして、雨に打たれ、くるくると回る傘のショットがモンタージュされる。水しぶき。くるくる回る傘。エンド・クレジット。
青春期の最も美しい瞬間を永久保存したかのような、鮮烈でしかしどこか切なくノスタルジックな映像。
「僕らは決して退屈な存在になんかならなかった。」この歌詞は作家F.スコット・フィッツジェラルドの妻ゼルダフィッツジェラルドの言葉からインスパイアされたものだと言う。
映像は何処を切り取ってもファッション誌の1ページを思わせるようにエレガントだ。そして、優れたファッショナブルさとは、ソフィティケートされたエロティシズムなんだと思う。
艶めかしくも美しいこの映像を撮ったビデオ監督はブルース・ウェーバー。ロバート・メイプルソープを彷彿させるホモセクシャルで官能的な映像を得意とするファッション・カメラマン。80年代にカルバン・クラインの一連の広告を手がけ、アンダーウェア姿の美しい男たちのポートフォリオで一躍有名になる。現在も世界各国のヴォーグ誌で活躍中とか。
PSBの最近発売されたビデオ・クリップ集「POP ART」(ASIN:B0000D8RSY )ではこの様な「美しき若者たち」というコンセプトを中心に据えたビデオ・クリップが数多くあり、PSB独特のゲイ・テイストを堪能できる。
曲は90年に発売された彼らの5枚目のアルバムになる「ビヘイヴィアー」(ASIN:B00005GL31)からのもの。それまでダンサンブルなエレ・ポップでスマッシュ・ヒットを飛ばして来た彼らだが、このアルバムでは一転して内省的な内容になっている。
「ウェスト・エンド・ガールズ」で「ウェスト・エンドは世界の果て」と歌ってデビューしたPSBの曲には、そのきらびやかなディスコ・ビートとは裏腹の、奇妙な虚無感と寂寞感が満ちていたように思う。逆に、この遣り切れない思いを刹那的な打ち込みのリズムで踊ることで忘れ去ってしまおう、それがPSBというロック・グループ(オレは彼らはロック・グループだと思う)の基本コンセプトだったのではないだろうか。
しかし、PSBは4thアルバム「イントロスペクティブ」(ASIN:B00004SZBC)のラストの曲、「イッツ・オールライト」で、そのタイトル通り、「イッツ・オールライト」と世界を肯定することを宣言したのだ。オレはこのアルバムのこの曲で持って、PSBというバンドの存在理由は解消したのだ、と感じた。
だからこそ、続いて発表されたこのアルバム「ビヘイヴィアー」は、内省的に為らざるを得なかったのだ。そしてその後のPSBはベスト・アルバムを発表し、愉快なゲイ・ディスコ路線へと突入する。