「沖縄」という日常〜ホテルハイビスカス

ホテルハイビスカス 
ホテル・ハイビスカス [DVD]
オレは沖縄という土地は素晴らしいところだと思っているが、なにぶん観光嫌いなので行きたいとは思わない。たぶん一生行かない可能性大である。沖縄をはじめとする南国の島々にも楽園幻想じみた物など持ってない。…にも拘らず、やっぱり沖縄っていうと紋切り型の観光イメージしか持ってなかったりする。
この物語、簡単に説明すると沖縄版サザエさんである。3世代同居の家族の、よくある日常だけが淡々と描かれていく。ドラマじみたものもあるにはあるが、極端な事もなく、ありふれた物といえるかもしれない。しかし、退屈かもしれないが、日常とはえてして退屈なものなのだ。
ここで描かれる沖縄の家族の日常は、どこまで現実的なのかオレにはわからない。ただ、ニュアンスが上手く伝わるのならリアリティにはこだわる必要は無いし、それが映画的方便というものだろう。だからオレは、この映画をとりあえず「沖縄で生まれて、そして生活してゆくこと」の映画として観た。沖縄出身の方から言わせればとんでもない、なんてこともあるのかもしれないけど、この映画には、デフォルメはあっても粉飾は無いと見たので、オレとしては勝手に「沖縄の日常」と決め付けて書く。沖縄の方ご迷惑だったらすいません。
沖縄を舞台にしているが、観光的なシーンは皆無に近い。海さえ殆ど写さない。南国風の植物や花もあまり写ってなかったような気がする。ガジュマルはあったけど。つまり、そういう事が目的の映画じゃないのだ。
ところでオレは北海道出身である。しかも稚内という日本の一番北の土地の人間だ。この、日本最北端出身の人間が、南端に近い沖縄という土地の映画を観て、なぜかその光景に奇妙な懐かしさを覚えたのだ。なぜなんだろう。殆ど車の通りの無い道。明らかに本州と違う植生。あまり密に建っていない民家。乾いている空気。高い空。人なつこい人々。ゆったりした方言。米軍の基地とフェンス。(俺の子供の頃まで、稚内には米軍キャンプがあった。そして今では自衛隊駐屯地のフェンスがある)この映画がもちろん沖縄のごく一部しか写していないことはわかる。しかし逆に、映画内に限って言えば、挙げていけばこれだけの共通点を見出す事ができる。これは本州の(北海道風に言えば「内地の」)どの土地でも有り得ない事だ。この奇妙な懐かしさは、実はそういった見てくれだけではないのだと思う。この映画の伸び伸びとした雰囲気が、自分に田舎のことを思い出させたのかもしれない。
ただ自分にとっては、懐かしさは懐かしさでしかなく、それ以上でも以下でもない。そもそも「懐かしい」という感情で何か行動するのは居心地の悪さをおぼえる。オレは今東京に住んでいるが、この街は好きである。そして、田舎や田舎暮らしに憧れだの安らぎだの癒し(嫌いな言葉だ)だのを感じたりはしない。この映画の素晴らしい点を上げるとするならば、今いるこの場所で幸せになろう、ということなんだと思う。沖縄は素晴らしいところだから、みんな観光に来てください、というお話じゃないのだ。だからこの映画を観て幸福を感じた人は、自分の手元足元で自分の幸福を探すべきなのだ。沖縄という楽園のような、自分の楽園をね。
ところで終盤で描かれる「魂の抜けた話」はおそろしく幻想的だった。この章だけを膨らませてもう1本の映画が作れるんじゃないかと思ったぐらい秀逸だ。ここだけ、オレはカギカッコつきで「沖縄」という異邦を感じた。
そして、もちろん沖縄を好きになったオレは、沖縄にはやっぱり行こうなんて思わないのだ。やはり、好きなのなら、一生住み着くぐらいの愛が無けりゃあ、その土地に失礼だと思うからだ。
(DVD貸してくれた沖ちゃんありがとう)