夜間中学―トリコじかけの世の中を生き抜くためのニュー・テキスト / 根本 敬 (著)

夜間中学
特殊漫画家である根本敬による雑文集。根本敬が特殊な漫画家なのは、ヘタウマな絵でエログロを描いているからではない。根本が和姦強姦問わずセックスを描いてもそれは単に交尾であり、内臓の接合でしかない。根本が描く暴力と死と死体と死体損壊にも深い意味はない。リカちゃん人形の首をもいでもそれを残虐行為と呼ばないようなものだ。すなわち根本が描いているのはエログロでさえない。徹底的な無思想と果てしなく殺伐とした味気なさ。暗喩も比喩も無いただの生と死、正気と狂気。よくできた便所の落書き精子も血もラブジュースも”液”って意味じゃ同じだろ、みたいな醒めた価値観。根本の漫画は、歯糞をせせってみたり、腋の下や足の裏の臭いを嗅いでみたり、吐き出しそうになった痰を間違って飲み込んでちょっとした塩味を確認してみたり、ケツを拭いたちり紙に付いたウンコの色をボーっと眺めてみたり、そんな、なんとなくやってるんだけど、意識してやってるわけでもないし、それが好きで好きでやってるわけでもないが、ケダモノとしての感覚で安心したり納得したりする部分に訴えてくる。人間は糞ションベンはするが、だからといって汚いもんだと言うわけではない。ただ、糞ションベンはしないのよ、なんて気取ってくれるんなら、いつでも殺伐とした生温かい目で見てやるぜ、という漫画なのだ。
今回はそんな根本が文章でやはりテイストレスな日々の雑記を書いているが、そこはそれ、やはり異能な人間は見る所が違うなあ、と改めて思わせてくれる。