■スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団 (監督:エドガー・ライト 2010年アメリカ映画)
■それはシャバかったッ!?
シャバいぜシャバいぜシャバくて死ぬぜ!!映画『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』は惚れた彼女と付き合うために彼女の7人の元彼を倒さなければならない、ということになったシャバいセーネンのお話なんだぜ!このスコピル、監督があのエドガー・ライト、ボーイ・ミーツ・ガールなお話にロック・ミュージックとド派手なエフェクトを駆使した奇想天外なゲーム・バトルが盛り込まれ、小ネタの効いたユース・カルチャー満載の映画に仕上がっているんですが、オレ最初に原作のコミック読んで少々出来上がりに不安を抱いていたことも確かだったんですよね。
原作コミックはブライアン・リー・オマリーによる、日本語版は全3巻の作品なんですが、これがねー、ちょっとチャラ過ぎるんだわ。22歳でニートでロック・バンドとかやってて毎日ふらふら生きてるくせに何故かモテモテ君で、物語冒頭では女子高生と付き合ってるんですが、物語が進んでいくうちに過去も結構あれこれ女の子と付き合ってたことが分かってきて、しかもラモーナに一目惚れしたしたらさっさと女子高生を捨てて、そのラモーナとも何の困難もなくあっさり付き合えて、元カレとの荒唐無稽な戦いを別にすればもうリア充中のリア充って言っていいぐらいノホホンと生きちゃってるんだわ。
■原作はつまんなかった!
もうねー、好きなことやって好きな彼女と付き合えて好きな生き方してて、何の葛藤も不安も苦悩も無い、実にお気楽な人間なんですよスコット君は。ロックンローラーなのになんでこんなシャバいの?ハングリーさが無いの?22歳のセーネンともなればもうちょっと悩んだり壁にぶつかったり社会から凹まされたりとかあるでしょうが普通。それがもうまるで無い。しかもそれまで付き合ってた女子をあっさり捨てられる冷淡なヤツでもあるんですよ。そしてそんなスコット君のたった一つの障害であるラモーナの元カレ軍団との戦いも、なんでか毎回スコット君の勝ちでね。こんな適当で好き勝手に生きてるヤツが、さらに戦いまで強いって、それちょっと出来過ぎちゃーうんかと。人生においては戦わないから負けた事が無く、恋愛においては振られたこともあるけど次々にカノジョを変えられて、荒唐無稽なバトルでは根拠も無く無敵って、いったい何ナメくさってるのこのお話?というのが原作の感想ですね。おまけに絵は下手だし、バトルが行われるのは唐突で、何故戦わなければならないのかの説明は無く、それ以外のドラマはといえば男女がくっついたり離れたり、あとはダラダラグダグダとどうでもいいような日常生活のあれやこれやが描かれるだけで本当に退屈だったんですわ。
でもね、本国ではこのコミック、そこそこウケているらしい。それで、オレみたいなおっさんの持つセーシュン像というのが、現在のワカモノと乖離しているからなのかもしれないと思ったんですよね。つまり年寄りの冷や水でしかない、と。セーシュンが屈折である、孤独なモンである、タクシードライバーのトラビス君みたいなモンである、そして何かハングリーであったり、現実と遮二無二戦ったりするモンである、というオレの考えが、もう前世紀的な古臭いもんなのかもしれないってね。それは、今のワカモノは彼らなりに孤独だったり戦ったり苦悩したり屈折したりはしているけど、少なくともオレのようなおっさんよりは、生き方が軽やかで、もうちょっと器用で、すぐ暗くなったりしない明朗さを兼ね備えているのかもしれない、そういうことなのかもしれない、と思ったんですよね。これはひとえに、コミュニケーションというものの在り方捉え方が、インターネット世代の彼らというのは、おっさんのオレよりは巧みだからなのかもしれない、なんていうことをちょっと思ったんですよ。
■経験値稼いで1UP!
そんな不安を抱えながら観たこの映画なんですが、これがもう、素敵な魅力に溢れた大傑作だったんですよ!この映画の成功は、ひとえに監督エドガー・ライトの、原作の解釈と、映像化するときにどれとどれを描くべきかという取捨選択の巧みさ、そしてその編集の仕方が勝っていたからに他ならないでしょうね。まず原作ではあっさり彼女を捨てる一見冷淡にも見えるスコット君が、映画では意外と二股していた時期についてちょっぴり葛藤していたことですね。それ以外の日常生活も、実にヘタレで、女の子以上に女の子っぽいヘニョヘニョしているヤツなんですよ。つまりダメ野郎というのがはっきり描かれていて、しかもダメ野郎なりの感情の機微が描かれていたことですね。原作みたいな根拠の無い自信たっぷり野郎じゃないんですよ。そして映画ラストではこの二股行為についての彼なりの解答をきちんと言及している。葛藤と苦悩があって、そして成長している、ってことなんですね。決してシャバくてチャラいだけではなかったんですよ。
さらに原作では唐突過ぎるゲームなバトル・シーンを、映画では少しも違和感無く描ききっているんですね。これはゲームの効果音やゲームっぽいゲージを出現させたり、バンド演奏場面での視覚効果などのゲーム的なくすぐりが、映画冒頭から観客に刷り込まれるようになっていたからでしょうね。原作でもそれはあったことはあったんですが、映画の視覚・音響効果のほうがより分かりやすくて説得力があるんですよ。そして何故スコット君はゲームみたいに戦わなければならないのか?という謎を、逆にこれはゲームだから戦うんだ、ということで観客に納得させちゃうんですね。さらにこのテンポがまたいい。たたみかけるようなスピーディーさで音楽とバトルが映画の中で応酬しまくっているんです。この音楽シーンとバトルシーンだけも楽しいぐらいなんですよ。また映画の中で随所にちりばめられた笑いのセンスもエドガー・ライト独特のものでしょう。この笑いのポイント、タイミングがまた絶妙なんです。
スコット君とラモーナの恋愛模様、そして二人の過去に存在したそれぞれの恋の落とし前というものを、現実的にではなく、あくまでハイパーリアルな空想的なものとして描こうとしたとき、そこにゲーム画面という手法を導入した、というのが実はこの映画なんですよ。恋愛とその障害になるもの、それにまつわる困難と葛藤、それを乗り越えたときの勝利の高揚、というある種の生々しい感情を、ゲーム・バトルの眩いまでのSFX画面に置き換えたということなんですね。それにより、映画はより一層ファンタジックでイマジネイティブな物語として完成したんですね。個々人の瑣末な現実は、一見地味なもののようでも、本人にとっては、それは山あり谷ありのドラマティックなものだったりしますよね。恋愛ともなればそれはさらにひとしおの筈です。そしてそれを思いっきりデフォルメし、華々しくエキサイティングな映像として描いたもの、それがこの『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』だったんです。
■スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団 予告編
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