■ランナウェイズ (監督:フローリア・シジスモンディ 2010年アメリカ映画)
オレがロック・ミュージックを聴き始めたのは中学生の頃、今はもう遠い昔の70年代になる。オレはデヴィッド・ボウイやエルトン・ジョンが好きだったが、オレよりも早くロックを聴いていた友人は主にディープ・パープルやキッスを聴いていた。そんな友人がある日「これエロいよな!」とロック雑誌のグラビアを開いて見せてくれた。そこには金髪の少女がコルセットとガーターベルト姿でマイクを握り、大股開いて歌う姿があった。流行りモン好きの友人はデビューしたてのこのバンドのレコードを早速買い、オレに聴かせてくれた。ハードな演奏に乗って「チェチェチェチェチェチェチェリーボーム!」とシャウトする歌声が聴こえてくる。そのバンドの名はザ・ランナウェイズ、下着姿の金髪の少女の名はシェリー・カーリーといった。
映画『ランナウェイズ』はこの同名バンドの伝記映画となる。ヴォーカルのシェリー・カーリーの伝記を元に、同じくメンバーだったジョーン・ジェットが監修を務め、シェリー・カーリーにダコタ・ファニング、ジョーン・ジェットにクリステン・スチュワートがそれぞれ配役されている。この二人が実際のバンドの二人と実によく似せられており、子役のイメージの強かったダコタ・ファニングがダーティーなロックンローラー役を演じているのが見所だ。物語の方はロック少女だったシェリー・カーリーが名うてのプロデューサー、キム・フォーリーに見出され、さらにクラブに遊びに来ていたシェリー・カーリーがスカウトされ、ガールズ・ロック・バンド「ザ・ランナウェイズ」が結成されるところから始まる。
実を言うとロック・バンド、ザ・ランナウェイズに特別思い入れがあるというわけでもない。シェリー・カーリーの挑発的な容姿にはさすがに目を奪われるものがあったし、大ヒットしたシングル「チェリー・ボム」はキャッチーなメロディを持つロック・ミュージックだとは思ったけれども、その頃好んで聴いていた音とは毛色が違っていたし、こう言っちゃなんだがビジュアル先行の一発屋といった雰囲気をしていて、当時はそういう音楽はなるべく避けておこうと思っていたからだ。しかしそんなオレが『ランナウェイズ』の公開が決まった時、「これは観に行かなければ」と思ったのは、オレがロック・ミュージックを聴き始めた70年代のロック・シーンの懐かしい匂いが、そこここに横溢していたのを感じたからなんだろう。
映画冒頭の、バリバリにデヴィッド・ボウイ・フリークなシェリー・カーリーにまず驚く。部屋中に張られたボウイのピンナップ、そして学校での"なりきりボウイ・パフォーマンス"。ここでシェリーが歌うのは、ボウイの名作アルバム『アラジン・セイン』の中の「レディ・グリニング・ソウル(薄笑いソウルの淑女)」。実際、シェリー・カーリーのランナウェイズでのパフォーマンスも、ボウイを意識したものだったらしい。そういえばジョイ・ディビジョン=イアン・カーティスの生涯を描いた『コントロール』(アントン・コービン監督)も同じく『アラジン・セイン』からの曲、「ドライヴ・インの土曜日」から始まるのではなかったか。『アラジン・セイン』とは「a lad insane」="気の狂った若者"の意味があるそうだが、ボウイの曲は10代の憂鬱と狂気、エキセントリックなものへの願望を描いた映像に実によく似合う。そしてこの辺から、ザ・ランナウェイズが、単なる"カワイ子ちゃんバンド"ではなかったことがうっすらと浮かんでくる(さらに『ランナウェイズ』も『コントロール』も同じくストゥージズ/イギー・ポップ、さらにセックス・ピストルズの曲が使われているのが面白い)。
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それにしても、何故今、ザ・ランナウェイズなのだろう。監督のフローリア・シジスモンディについてはよく知らなかったのだが、doyさんのブログ「THE KAWASAKI CHAINSAW MASSACRE」の記事「フローリア・シジスモンディ」によると、もともとは写真やPVを手がける女性ビジュアル・アーチストなのであるらしい。1965年生まれのフローリア・シジスモンディが、ティーンの頃ザ・ランナウェイズを体験していたと単純に想像することも出来るし、先程書いた『コントロール』の監督、ロック・フォトグラファーでもあるアントン・コービンが、ボウイの写真を手がけたことがあり、さらに音楽的な意味においてボウイの子であるジョイ・ディビジョンの映画を撮ったことも考えると、意外とこういったビジュアル・アーチストは、「ボウイ的なるもの」に洗礼を受けたミュージシャンに対して強い親和性を感じるのではないのだろうか。ちなみにフローリア・シジスモンディにもボウイPVが存在する。
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