国立新美術館で『テート美術館 - YBA&BEYOND 世界を変えた90s 英国アート』を見てきた

先日の日曜日は六本木にある国立新美術館で開催されている『テート美術館 - YBA&BEYOND 世界を変えた90s 英国アート』を見に行きました。

この美術展はXで開催されているのを知ったのですが、内容を一目見て「うわっオレの好きそうなアートばっかじゃん」と目に♡マークが浮かんじゃいましたね。実は2月からやっていたようなんですが、来月の11日までの開催と知って慌てて見に行くことになりました。

六本木は久しぶり!国立新美術館も久しぶり!ってか国立新美術館、家から遠いんでほとんどハイキング状態です……。

というわけでまずはこの展覧会の概要などを:

本展は、1980年代後半から2000年代初頭にかけて制作された英国美術に焦点を当てる企画です。サッチャー政権時代(1979-90年)を経験して失業率が悪化するなど緊張感漂う英国社会では、既存の美術の枠組みを問い、作品の制作や発表において実験的な試みをする作家たちが数多く登場しました。 当時「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)」と呼ばれた作家たち、そして、彼らと同時代のアーティストたちは、大衆文化、個人的な物語や社会構造の変化などをテーマとし、絵画、彫刻、写真、映像、インスタレーションなど多様な手法を用いて独創的な作品を発表してきました。 約60名の作家によるおおよそ100点の作品を通じて、90年代の英国美術の革新的な創作の軌跡を検証します。

【公式】 テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート

フランシス・ベーコン《1944年のトリプティク(三幅対)の第2ヴァージョン》1988年

入館そうそうフランシス・ベーコンのメッチャ有名な作品がドドーンと出迎えてくれて既に法悦状態!フランシス・ベーコン、禍々しくて好きですねえ。

ギルバート&ジョージ《裸の目》1994年

続いてギルバート&ジョージの《裸の目》、うわあこれも有名作じゃないですか!男の裸の肉体とそれを凝視するようなまなざしの生々しさ!

ダミアン・ハースト《後天的な回避不能》1991年

ホルマリン漬け動物死体の展示で有名なダミアン・ハーストのインスタレーションも不穏でよかったですねえ。

デレク・ジャーマン《運動失調―エイズは楽しい》1993年

映画監督デレク・ジャーマンのペイントがあるとは知りませんでした。これ、エイズに侵されながらも生を肯定しようとして描かれたのらしく、とても凄味のある作品だった。

ヴォルフガング・ティルマンス《あなたを忘れたくない》2000年

ティルマンスのこの作品、好きなんですよねえ。タイトルからいろんなことを想起できますが、見ていて何かとても切なくなってしまう。

サラ・ジョーンズ《ダイニングルーム(フランシス・プレイス)Ⅰ》1997年

富裕層の倦怠と無関心を描いたサラ・ジョーンズのこの作品なんかも、実に英国っぽいですよね。

コーネリア・パーカー《コールド・ダーク・マター:爆発の分解イメージ》1991年

今回の展覧会で一番凄かったのがこの作品。自宅の物置を英国陸軍に依頼して爆破し、その破片を天井から吊るして「爆破の瞬間」を再現したもので、作品自体も4m四方もあるという巨大なインスタレーションなんですよ。単に「破壊・暴力」だけに留まらない、いろんなことを想起させる素晴らしい作品ですよね。

ダグラス・ゴードン 《指示(ナンバー1)》 1992年

そしてこの展覧会で最も胸を締め付けられた作品がこれです。壁にテキストが貼ってあるだけなんですが、そのテキスト『You can't hide your love forever.(君は君の愛を永遠に隠しておくことはできない)』という言葉が、見る者の心に一つの【指示】として、直線的に突き刺さってくるんです。僕も、僕の愛を永遠に隠しておくことはできない。あなたを愛している、とつい誰かに言ってしまいそうな、強烈なメッセージの込められた作品でした。

帰りにTシャツと目録も購入。美術展目録なんて最近ほとんど買わなかったので、今回いかに楽しめたかがうかがえるというものでしょう。

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『愛はステロイド』『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』など最近配信で観た映画あれこれ

愛はステロイド (監督:ローズ・グラス 2024年イギリス・アメリカ映画)

映画『愛はステロイド』は、トレーニングジムで知り合った二人の女性の愛が、とんでもない方向へと暴走してゆくスリラー作品だ。アメリカ南西部、ジムで働くルーは、ボディビルを目指すジャッキーと激しく恋に落ちる。しかし、ルーの犯罪一家の父親の影が二人を飲み込み、愛は暴力と破滅へ加速してゆく。出演はクリステン・スチュワート、ケイティ・オブライアン、エド・ハリスほか。監督ローズ・グラスは『セイント・モード/狂信』で注目された気鋭のイギリス人監督。クィアの視点から、ジャンルを大胆に横断する作風が特徴だ。

男性中心・父権社会における女性の生きづらさと、抑圧の中の性愛というテーマは切実であると同時にありがちになる危険性がある。ここをどう料理するのか?という点を興味の中心として観ていた。まず、主人公の一人が女ボディービルダーという設定が異彩を放つ。やがて物語は行き過ぎた「反撃」へと加速し、主人公二人は追いつめられてゆく。この辺りまでは普通にスリラー展開なのだが、最後の最後で完全に呆然としてしまった。予想の斜め上をいく、「なんだこれは」と言いたくなるような突き抜け方。ユーモアすら感じさせるほどに奇妙で、グロテスクで、でもどこか解放的。まさに「怪作」と呼ぶにふさわしい作品だ。

ローズ・グラスは、クィア・ロマンスとノワール・スリラーを融合させながら、ステロイドのように膨張する愛と怒りを描ききった。クリステン・スチュワートのクールで内省的なルーと、ケイティ・オブライアンの肉体派ジャッキーのケミストリーも圧巻。エド・ハリスの恐ろしくもカリスマ的な父親像が、すべてをねじ曲げる。よくあるフェミニズム・ストーリーかと思いきや、肉体改造、ステロイド、暴力、家族の呪縛が絡み合い、予想不能のブラックユーモアとカタルシスを生む。観終わった後、しばらくお口ポカーンとさせられるような、稀有な体験を与えてくれる一本だ。


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愛はステロイド

愛はステロイド

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モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン (監督:アナ・リリー・アミールポアー 2022年アメリカ映画)

12年間精神病院に隔離されていた少女モナ・リザ(チョン・ジョンソ)は、突如として他人を操る超能力を発揮し、施設から逃亡する。刺激と快楽に満ちたニューオーリンズの街で、シングルマザーのストリッパー、ボニー(ケイト・ハドソン)やストリートの男たちと関わりながら追跡を逃れようとする彼女だが、警察は執拗に彼女を追い詰める。監督・脚本は『ザ・ヴァンパイア ~残酷な牙を持つ少女~』で注目されたアナ・リリー・アミールポアー。 

う~ん、正直、期待していたほどパッとした作品じゃなかった。まず、主人公が何者で、なぜ「モナ・リザ」という名前で、なぜ長期間精神病院に入れられていたのか、そしてなぜそんな超能力を持っているのかがまるで描かれず、最後まで謎のまま放置されているのが気になった。監督は意図的に謎のまま残したらしいが、そうしたスタイルが自分には合わなかった。そもそもそんな強力な能力があるなら、12年も病院に大人しく入院せずに、さっさと抜け出せばよかったのでは?と疑問に思えてしまう。

超能力の使い方も過度に暴力的で、痛々しさばかりが目立ち、本当にこれは必要?と思わされる。病院脱出後もアンダーグラウンドの人々との交流ばかり描かれ、どんよりとした暗い雰囲気が延々と続くのも重苦しく息苦しい。ラストも投げっ放しで、観終わって「結局なんだったの?」という虚しさが残ってしまった。雰囲気やビジュアルが高評価な作品らしいが、物語の掘り下げが足りない部分で評価できない作品だった。


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韓国 奇想×ホラー×寓話短編集『呪いのウサギ』を読んだ

呪いのウサギ / チョン・ボラ (著), 関谷敦子 (翻訳)

呪いのウサギ

ライバル会社の策略によって自殺に追い込まれた親友。呪物を作る一族の男が復讐のために作ったウサギは、ライバル会社のすべてをかじり尽くしていく。 哀しき復讐譚の表題作をはじめ、排泄物が意志を持ち話しかけてくる「頭」、避妊薬を飲み続けた副作用で妊娠した女性が父親候補を探す「月のもの」、パートナー・ロボットとの奇妙な関係性を描く「さようなら、【愛/いと】しい人」、黄金の血を流すキツネによって大儲けした男の生涯「【罠/わな】」、ビルを購入した若い夫婦が次々とトラブルに襲われる「楽しい我が家」など。 孤独に寄りそってくれる“恐怖”と、その先に待つ美しく甘美な破滅を描いた、韓国の奇才による異色短篇集。国際ブッカー賞最終候補作。

韓国を代表する作家・翻訳家であるチョン・ボラの短編集『呪いのウサギ』を読んだ。2017年に刊行されたこの短編集は、2022年に国際ブッカー賞最終候補(韓国人作家として短編集では初)となり、世界的に注目を集めた。収録作は全10篇。作風はホラー・幻想・寓話をベースに、復讐・身体のグロテスクさ・社会の闇・欲望を描いてゆく。それぞれをざっと紹介してみよう。

「呪いのウサギ」は、呪いの道具を作る一族の老人が、親友を自殺に追い込んだ相手への復讐として、ウサギ型のランプを作って送り込む復讐譚。韓国ノワール映画を見ているような、暗く執拗な残酷さが印象に残る。「恨(ハン)」の文化を持つ韓国ならではの作品だ。

「頭」は、トイレから突然現れた「頭」が女性主人公に「お母さん」と話しかけてくる、グロテスクで不気味な物語。経血や排泄物から形成されてゆく「頭」という汚らわしさも相まって、相当にいやらしいホラーだが、根底には女性が自らの身体性に抱く疎ましさが描かれているように思う。

「冷たい指」は、事故で記憶を失った女性が、暗闇の中で冷たい指に導かれるように歩き続ける幻想的ホラー。何もかも曖昧な世界で自分が誰かすら分からない不安は、京極夏彦の短編世界に通じるものを感じた。「月のもの」は、避妊薬を長期間飲み続けた副作用で妊娠してしまった(!?)女性が、父親候補を探すはめになる不条理なドタバタ劇。これも女性の身体性と、女性が直面する旧弊な社会規範を寓話的に描いた物語だろう。

「さようなら、【愛/いと】しい人」は、人型パートナーロボットとの愛と別れを描くSF寄りの物語だが、やや平凡だったか。「【罠/わな】」は、黄金の血を流す不思議なキツネを捕らえて大富豪になった男の生涯と、その代償を描く欲望の寓話。次第に狂ってゆく男と、崩壊してゆく家庭の描写は、こちらも韓国ノワール映画を思わせる残酷さだ。

「傷痕」は、洞窟の怪物への生贄として育てられた男の過酷な運命を描く、本短編集で最も長い作品。寓話的な味わいを持つが、やや抽象的に書かれ過ぎていて今ひとつ乗り切れなかった。「楽しい我が家」は、念願のビルを購入した若い夫婦に次々と不気味なトラブルが降りかかるホームホラー。トラブルの不快さが実に生々しく、韓国の住宅事情を垣間見られる点も興味深い。結末にも驚かされた。

「風と砂の支配者」は、砂漠の王国を巡るファンタジー作品。御伽噺的な構成や高い幻想性、独特の雰囲気など見どころの多い作品だが、詰めが今ひとつ足りず、もう一捻りあればさらに良くなったろうにと思わせる惜しい一篇。「再会」は再会と孤独をめぐる幽霊譚。これも悪くないのだが、やはりもう少しひねりが欲しかった。

全体的に奇想×ホラー×寓話とバラエティに富んだ作風で、作者の多彩さをうかがわせるが、逆に作者自身の個性が今ひとつ掴みにくいという難があった。個々の作品の完成度にもむらがあり、書き込みの足りなさから惜しいと感じさせる部分も散見された。もう少しブラッシュアップすれば、より充実した作品集になっただろう。個人的にはホラー作品のB級な味わいが楽しめたし、寓話作品には光るものを感じたが、ファンタジー作品は少々弱く思えた。

 

Placid Angles、Sun Electricなど最近聴いたエレクトロニカ界隈

Placid Angles (John Beltran)
Canada / Placid Angles (John Beltran)【今日の1枚】

2026年2月13日にOathからリリースされたJohn BeltranのPlacid Angles名義による4thアルバム『Canada』は、約63分の11曲構成で、ベテランDetroitプロデューサーの円熟味が極まった感動的な傑作だ。昨年カナダを訪れ、その壮大な自然と人々に触発された作品らしく、lushなパッド、夢見るようなシンセライン、スケッタリング・ブレイク、儚いヴォーカルサンプルが織りなす音世界が、IDM、lush techno、yearning ambient、deep houseを自由に行き来する。

オープニング「Sainte Anne」の優美な導入から「I Want What I Want (feat. Sophia Stel)」のtrip-hop寄りメランコリー、「Wildfire (with Yushh)」のセクシーでsaxophoneが絡むafterhoursグルーヴ、「Hero BK」のブレイクビート・エナジー、そしてタイトルトラック「Canada」の雄大な8分スケールまで、風景のような広がりと感情の深みが圧巻。Tom VRら次世代アーティストとのコラボも自然に溶け込み、Beltranの影響力(Lone、Four Tet、Skee Maskらに影響を与えたサウンド)を現代的にアップデートしたハイディフィニションな仕上がりだ。

PitchforkやFirst Floorで高評価の通り、fragile yet unbreakableな美しさと、クラブ/リスニングの両立が秀逸。Placid Anglesシリーズの集大成であり、2026年のelectronic/ambientシーンで輝く一枚。Detroit technoの遺産を優しく進化させた、静かに心を揺さぶる名盤だ。

Episodes / Sun Electric

2026年2月27日にDe:tunedからリリースされたSun Electric(Tom Thiel & Max Loderbauer)の新アルバム『Episodes』は、約34分の6曲構成で、ベルリン・デュオの30年以上のキャリアを象徴する静謐で深遠な傑作だ。レアな1960年代Subharchordシンセを基調に制作され、ambient technoの枠を超えたshifting moodsと繊細なsonic texturesが全編を貫く。

「Episode I」のゆったりとした浮遊感から始まり、「Episode II」「Episode III」へと続く流れは、微妙に変化するパッドと微分音的な響きが織りなすhypnoticな旅。後半の「Episode V」「Episode VI」では、より内省的でexperimentalなレイヤーが加わり、まるで異世界の風景を漂うような没入体験を提供する。The Designers Republicによるアートワークも相まって、視覚と音の統一感が美しい。

長年のファン待望のオリジナル・フルアルバムとして、Sun Electricの変わらぬ「不思議で素晴らしい」サウンドを現代的に昇華。DJ MagやChoon Reviewでも高評価の通り、クラブの余韻から深いリスニングまで対応するタイムレスな一枚。ambient techno / progressive electronicを愛する人にとって、2026年序盤の必聴名盤。静かに心を満たす、極上の電子音楽だ。

Written into Chenges / Avalon Emerson & the Charm 

2026年3月20日にDead OceansからリリースされたAvalon Emerson & the Charmの2ndアルバム『Written into Changes』は、約37分の10曲構成で、元DJ/プロデューサーが本格的に花開かせた「大人になったdream pop」の傑作だ。変化をただ受け入れるのではなく、大きく翼を広げて抱きしめる――そんなテーマが、季節を巡る歌詞、ローマ神話や星々のイメージ、儚い喜びと喪失感で鮮やかに描かれる。

オープニング「Eden」の輝くシンセとキャッチーなメロディから「Jupiter and Mars」のエフォリックなポップ、「Happy Birthday」の親密な内省、そしてタイトルトラック「Written into Changes」への流れは、電子音と生々しい感情が溶け合う美しさ。BullionとRostam Batmanglijの共同プロデュースにより、前作よりスケールアップしたサウンドは、lo-fi indie popとeuphoric danceの境界を優雅に往復する。

Pitchfork 8.1、Beats Per Minute 84点と高評価の通り、クラブ育ちの彼女が織りなす「spectral love songs」は、明るく動きに満ちながらも人生の儚さを優しく突きつける。2026年春の心に響く一枚で、indie pop / electronicファン必聴の成長と深化を感じさせる名盤だ。

No Way To Control It / DMX Krew

2026年3月9日にShipwrecからリリースされたDMX Krew(Ed Upton)の新アルバム『No Way To Control It』は、約54分の12曲構成で、30年近く続く彼のキャリアを象徴する奔放で遊び心満載のelectro/IDM傑作だ。Shipwrecらしいアナログ感とデジタルグリッチが融合したサウンドは、クラシックな808/909ドラムマシン、酸っぱいシンセライン、ファンキーなベースを基調に、予測不能な展開が連続する。

オープニング「Dangerous Dungeon」のダークで跳ねるelectroビートから「Sonic Escape Route」「Interrupt」の高速グリッチ、「I Wonder Why」のメロウなメロディックハウス寄り展開、「Ghost Fish」の浮遊感、そして「Final Comedown」「The Outlaw」への流れは、まるでコントロールを失ったまま踊り続けるような高揚感に満ちている。後半はより実験的でポップな要素も顔を出し、DMX Krewらしいユーモアとダンスフロア指向が絶妙にバランス。

長年のファンには懐かしくも新鮮で、electro/house/IDMの境界を軽やかに横断する自由さが魅力。RAやBandcampで早くも高評価を集め、2026年の電子音楽シーンで「コントロール不能な楽しさ」を体現する一枚。クラブからヘッドフォンまで幅広く楽しめる、クセになる名盤だ。

I Look At Her And Light Gose All Through Me / Photographic Memory

2025年5月30日にdeadAirからリリースされたPhotographic Memory(Max Epstein)の2ndアルバム『I Look At Her And Light Goes All Through Me』は、約36分の18曲構成で、ロサンゼルス出身アーティストの情感豊かなインディーロック/プロデューサー・テープ的傑作だ。ギター中心のローファイな響きと電子的なレイヤリングが融合し、hazy slowcoreの系譜を継ぎつつ、feature-richでgenre-agnosticなサウンドに進化。恋慕、喪失、日常の光と影をテーマにした sincere な歌詞世界が心に染みる。

オープニング「Emo tour track」の短く切ないギターから「I Heard You」(WispのNatalie Lu参加含むコラボ曲)への流れは、lo-fiで親密な雰囲気から徐々に広がる。散在する短曲群が織りなすアルバム全体は、まるで写真のアルバムをめくるような断片的で詩的な印象。Pitchforkでも「guitar albumとproducer tapeの両面を持つ」と評され、散漫さと誠実さが共存する独特の魅力が光る。

前作からの成長を感じさせる長尺作として、2025年のインディーシーンで静かに支持を集めた一枚。ヘッドフォンでじっくり浸るのに最適で、lo-fi rock、bedroom pop、alternativeファンに刺さる情感の塊。儚くも温かな光が全身を貫く、心地よい名盤だ。

(※この記事はLLMで作成しています)

韓国 SF・奇想短編集『おふとんの外は危険』を読んだ

おふとんの外は危険 / キム・イファン (著), 関谷敦子 (翻訳)

おふとんの外は危険 (竹書房文庫)

「おふとんの外は危ないから出ないで」 ある日、突然ふとんの声が聞こえるようになった。ふとんだけではなく、椅子の声もボールペンの声も紙コップの声も――。 不思議で楽しい表題作をはじめ、科学者がマクドナルドで宇宙の終末を知る「万物の理論」、整形がエスカレートし人体改造さえも当たり前になった未来で、手術を重ね変わり続ける恋人との関係性を描いた「君の変身」、面白い話をすればおいしいスパゲティができる鍋を囲む夕食に招かれた小説家が恐怖を味わう「スパゲティ小説」、透明ネコが最高だった話「透明ネコは最高だった」ほか、「Siriとの火曜日」「#超人は今」「セックスのないポルノ」「天国にもチョコレートはあるのか」など、12の奇想短篇を収録。

キム・イファンは2004年に長編デビューしたベテラン韓国SF作家だ。レイ・ブラッドベリ『火星年代記』に衝撃を受けて作家を志し、インターネット投稿から活動を開始。数々のSF賞を受賞し、短編「君の変身」は世界9カ国で翻訳されるなど国際的な人気を誇る。今回紹介の『おふとんの外は危険』はデビュー17年目にして初の短編集。日常の小さなズレからAI・人体改造・宇宙まで、ユーモアたっぷりで読みやすく、ほんのり心温まる余韻が特徴だ。

「おふとんの外は危険」はある朝、ふとんのみならず部屋中のモノたちから話しかけられるという不条理掌編。ふとんの中から出ていきたくない!という誰でも思う気持ちをほんわかファンタジーとして描いていてクスリと笑わされる。「Siriとの火曜日」は新型人型ロボットのモニターとなった男を描くが、ありがちなテーマと見せかけてラストに意外な展開を持ち込む点が新鮮だ。「バナナの皮」は深夜営業カフェで不思議な白い箱をもらった男の顛末を描くショートショート。オチは予想がつくがピリッと効いている。

「#超人は今」はテロ事件に登場したスーパーヒーローを巡り、その是非とそもそもスーパーヒーローとはなんなのかを問いかける作品。切り口のよさが斬新な物語に仕上げている。「運のいい男」は突然周囲から異常な親切を浴びるようになった男の1日を描くブラックユーモア作。こんなに運がいいのはなにか裏があるからでは?と思わせながら、ラストでそう来たか!とニヤリとさせられる。「セックスのないポルノ」はノンバイナリーの仮面夫婦の心情を描いた作品だが、私には今ひとつ読み解けなかった。

「魔導書」はドラゴンを倒した騎士が手に入れる魔導書の謎を描いた作品で、これも思わぬラストが効いていた。「万物の理論」は天才科学者がついに「万物の理論」を解き明かすが……というお話。グレッグ・イーガン的に始まりつつ、P・K・ディック的な急展開を迎え、最後がカート・ヴォネガットで締められるという、SFのフルコースを堪能できる傑作だ。「スパゲティ小説」は魔法の鍋を巡り「美味い料理か死か?」を選ばされる小説家のサバイバル・ファンタジー。ミステリ的味つけも良いスパイスとなっており、作者の非凡をうかがうことができる。

「君の変身」は究極の人体改造を扱うボディーホラー系SF。"整形大国"と称される韓国の社会的文脈と無縁ではない作品だろう。「天国にもチョコレートはあるのか」はヨハネ、ペテロといった名前が登場するので旧約聖書を題材にした物語かと思わせながら、次第にSF的な世界が広がってくる。SFテーマとしては平凡だが独特の切り口がいい。

「透明ネコは最高だった」は引きこもりの主人公が透明ネコと暮らすことになるという物語。しかしこの透明ネコ、喋るし家事はするしお金はくれるしで、本当にネコなのか?とは思うのだが、引きこもり主人公に安寧を与える謎の存在にネコという人格(猫格?)を与えたのだと思えば腑に落ちる。つまり生活に不安を抱える主人公が架空の人格と対話することで心の平和を得るという「癒し」についてのお話なのだが、これは冒頭のタイトル作「おふとんの外は危険」と通じるものがある。

SFや奇想、ミステリ的味付け、ファンタジーなど多彩なテーマを取り扱うが、全体的に「傷ついた主人公が自らを見つめ直し現実を取り戻す」といった構成が多かったように思う。それ以外の作品でも作者の心優しさをうかがわせて、情感豊かで、鋭敏な感性の光る短編集だった。