ヒロシマめざしてのそのそと / ジェイムズ・モロウ(著)、内田昌之(訳)
本書は2009年にシオドア・スタージョン記念賞を受賞した中編を、2025年に待望の単行本化した一冊。太平洋戦争末期、アメリカ海軍が極秘に進めた「もう一つの」日本降伏作戦を描く、ブラックユーモアと切実な反戦メッセージが交錯する異色SFだ。
主人公はB級モンスター映画のスター俳優、シムズ・ソーリー。海軍から突然舞い込んだ依頼は「巨大トカゲの着ぐるみを着て、日本の外交団の前で街を破壊する演技をしてほしい」という途方もないもの。実は海軍は体長400mの火を吐く怪獣「ベヒモス」を生物兵器として開発していたが制御不能。そこで本物の怪獣の代わりに、着ぐるみによる特撮デモンストレーションで日本を震撼させ、原爆を使わずに戦争を終わらせようという設定だ。
物語はソーリーの回想録形式で進み、1945年の秘密基地での奮闘と、1984年のホテルで回想を綴る現在が交錯。特撮映画の内幕や怪獣映画愛、個性的な脇役たちが織りなす軽妙な会話が、ヴォネガットを思わせるユーモアを生み出す。着ぐるみの中で「生涯最高の役」に挑むソーリーの姿は滑稽でありながら、どこか痛切だ。古典怪奇映画や特撮映画へのオマージュは見事で、それらに対する膨大なリサーチと言及には感心させられた。
しかし全編に横溢するシニカルさが作品の熱量を抑え込んでしまい、エモーションに乏しく感じた。ゴジラを彷彿させる400m級生物兵器というアイデアはホラ話として面白いが、プロットがちぐはぐで上手く活かせていないとも感じた。そもそも当時ギンギンになっていた大日本帝国が、着ぐるみによる特撮デモンストレーションを眺めた程度でビビりちらかすだなんて到底思えない。そういった点でかなり白けてしまった。
もしこの「怪獣ショー」が成功していたら、広島・長崎は回避できたかもしれない、という作者の祈りは十分伝わるのだけれども、設定の無理さと全体の冷めたトーンが、物語への没入を妨げていた点が残念な作品だった。



















