エレクトロニカ界隈の音に復帰した。

Rival Consoles

ここ2年ほどジャズばかり聴いていたのだが、最近「もういいかな」と思えてきて、長い間遠ざかっていたエレクトロニカの音に急に舞い戻ってしまった。

ジャズも最後の方はビル・エヴァンスばかり聴いていた。これは生活面でいろいろ疲れが出ていたからだ。ただ、繊細な音ばかりに浸っていると、これもこれで飽きてくるし、「疲れた疲れた」と言い続けても仕方ないので、そろそろ気分を変えてもいいのではないかと思い始めた。

そんな矢先、久しぶりに古巣のエレクトロニカを聴いてみたら、予想以上に気分が上がってきた。「おお、これだ。これを求めていたんだ」とばかりに、ブランクの間にリリースされていた作品を片っ端から試聴し始めた。すると「あれもいい、これもいい、やっぱりエレクトロニカ最高じゃん」と、単純明快に復帰してしまったというわけである。

というわけで、最近聴いたエレクトロニカを並べてみることにする。ただし、試聴して「これはいい!」と思っても、アルバムの詳細やアーティストの背景をほとんど知らないことが多い。そこで、LLMに補完してもらいつつ、あくまで個人的な覚え書きとしてここに記録しておく。

なお、特に気に入った・おすすめできるアルバムには【今日の1枚】と付けることにした。エレクトロニカ界隈については、今後もこのスタイルでブログに記録していくつもりなので、ご了承ください。

Landscape from Memory / Rival Consoles 【今日の1枚】

イアン・リー・ウェストによるソロプロジェクトの本作は、緻密な電子音で人間の記憶や感情の風景を描き出す、極めて内省的なエレクトロニカだ。本作では、これまでの構築美に加え、より流動的でオーガニックな響きが強調されている。冷ややかなシンセの粒子が、いつの間にか体温を感じさせる温かな和音へと溶け合っていく過程は、まさにリスナーの脳裏に忘れかけていた景色を投影するかのようだ。ダンスミュージックの枠を超え、現代音楽やアンビエントの文脈でも評価される本作は、静寂の中でじっくりと耳を傾けることで、その深淵な世界観を堪能できる一枚である。

Great Doubt / Astrid Sonne【今日の1枚】

デンマークの音楽家アストリッド・ソンネは、本作でヴィオラと電子音の融合をさらに推し進め、初めて「歌」を大胆に導入した。しかしそれはポップスへの接近ではなく、不確かな感情を象徴する断片的な表現として機能している。「疑念」というテーマが示す通り、明確な答えを出さずに揺れ動く心の機微を、音の空白を活かしたプロダクションで見事に描き出した。クラシックの素養と前衛的なセンスが、静謐な緊張感の中で共存する本作。ミニマルなビートの隙間に漂う彼女の声は、聴き手の内面に深く静かに浸透していくような、パーソナルで美しい響きを持っている。

The Revival, Vol.2 / Franky Wah【今日の1枚】

英国のプログレッシブ・ハウス・シーンを牽引するフランキー・ワーによる本作は、90年代のレイヴ・カルチャーへの深い敬意と、現代的なエネルギッシュな音像を融合させた傑作だ。高揚感溢れるピアノ、壮大なシンセ、そして力強く突き進むビートが一体となり、ダンスフロアの祝祭的なエネルギーを余すところなくパッケージしている。単なるノスタルジーに留まらず、アンダーグラウンドの熱量とメインストリームのキャッチーさを両立させる彼のセンスは圧巻。深夜のクラブから開放的なフェスまでを想起させる、圧倒的な生命力に満ちたダンス・アルバムに仕上がっている。

choke enough / Oklou【今日の1枚】

フランスのプロデューサー/シンガー、Oklouによる本作は、ハイパーポップ以降の感性とドリーム・ポップの幻想美が交差する一枚だ。彼女の作る音は、霧が立ち込める真夜中の庭園のように神秘的で、デジタル加工された歌声は驚くほどの透明感と切実さを湛えている。重層的なシンセとミニマルなリズムが彼女の声をやさしく包み込み、現代を生きる若者の孤独や憧憬を鮮やかに描き出す。ベッドルーム・ポップの親密さと、壮大なサウンドスケープが同居する本作は、没入感溢れるエモーショナルなポップ・ミュージックの到達点と言えるだろう。

Hallucinating Love / Maribou State【今日の1枚】

数年ぶりのリリースとなった本作は、マリブー・ステイトの代名詞である「オーガニックなエレクトロニカ」がさらなる進化を遂げたことを証明している。ソウルやジャズの要素を巧みなサンプリングとエディットで昇華させる手腕は健在だ。アルバム全体を貫くのは、タイトル通り「幻覚のような愛」を感じさせるメロウで多幸感に満ちた空気感である。柔らかなホーンの響きや温かな歌声が、洗練されたビートの上で軽やかに踊る。日常を鮮やかに、そして優しく彩る本作は、リラックスタイムから旅のサウンドトラックまで、あらゆるシーンに寄り添う洗練された大人のための電子音楽だ。

DJ-Kicks: Eris Drew

エリス・ドリューによる本作は、彼女が掲げる「マザービート」哲学とアナログ・レコードへの愛が凝縮されたミックスだ。90年代ハウスやレイヴの精神を軸に、緻密なスクラッチや流れるようなターンテーブル捌きで繋がれる楽曲たちは、どれも生命力に溢れ、ダンスミュージックが持つマジカルな解放力を再認識させてくれる。ハードコアなブレイクビーツから多幸感のあるハウスまで、時代を横断しながらも、全体としてポジティブなエネルギーに満ちている。単なる楽曲の羅列ではなく、聴き手を異次元の祝祭へと連れ出してくれるような、物語性に満ちた珠玉の構成が光る。

『Iké Boys イケボーイズ 』『カッコウ』など最近配信で観たホラー/ファンタジー映画

『Iké Boys イケボーイズ』

Iké Boys イケボーイズ (監督:エリック・マキーバー 2022年アメリカ映画)

Iké Boys イケボーイズ

Iké Boys イケボーイズ

  • クイン・ロード
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1999年末のオクラホマ州を舞台にしたファンタジー・コメディ。 日本の特撮・アニメに憧れるオタク高校生二人と日本からの留学生ミキ(比嘉クリスティーナ)は、幻のレアアニメDVD「行け!虹の世紀末大決戦」を鑑賞中に謎の光に包まれ失神、目覚めると彼らは超能力を獲得していた!?という物語。なにしろ特撮を含めた日本オマージュが満載で、観ていて照れ臭くなるほど。劇中では手作り感満載の特撮ヒーローやSFアニメが登場し、釈由美子岩松了が出演、金子修介監督がキャストとして登場し、樋口真嗣監督が劇中アニメのナレーションを担当、サントラまで日本の90年代ポップスが使われている。低予算映画のせいもあってか物語にしても絵作りにしても拙い部分が多々あるにせよ、非常に愛すべき作品だった。現代的なファンタジーというのはこういうものなのではないかとすら思わされた。オクラホマのオタク高校生たちが世界を救うって、それだけで胸が熱くなるじゃないか。


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カッコウ (監督:ティルマン・シンガー 2024年ドイツ・アメリカ映画)

カッコウ (字幕/吹替)

カッコウ (字幕/吹替)

  • ハンター・シェイファー
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両親の離婚後、父・義母・義妹と共にドイツのアルプス山奥のリゾート地へ移住した主人公が、不気味な存在を目撃する、というホラー映画。タイトルが『カッコウ』なので「托卵がテーマのホラーなんじゃないの」と思ったらあまりにもそのまんまだったので拍子抜けしてしまった。「変な映画」と呼ばれているらしいけど、「変」なことをやりながら結局上手くまとめられなかったんじゃないか。ラストもなんだか煮え切らなくて締まらなかった。ただし映画に登場する男たち誰もが性犯罪者にしか見えないという点が逆にホラーだった。


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ラストサマー:リターンズ (監督:ジェニファー・ケイティン・ロビンソン 2025年アメリカ映画)

ラストサマー:リターンズ

ラストサマー:リターンズ

  • マデリン・クライン
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5人の友人たちが事故を隠蔽するが、1年後「去年の夏、何をしたか知っている」と脅迫が届き、殺人鬼に狙われ始める、というスラッシャーホラー。「おおあの『ラストサマー』のリメイクか、あの映画面白かったよなあ」と思って観始めたらなんとその正式続編だったのでびっくりした。つまり『ラストサマー』(1997)の27年後の設定なんだね。とはいえ内容が結局再話になってしまっている点で新鮮味に欠けていたし、主人公女子に全然魅力が無くてげんなりした。あと、真犯人がすぐ分かってしまうのも難。


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V/H/S/ ビヨンド (監督:ジェイ・チール他 2025年アメリカ映画)

V/H/S ビヨンド [Blu-ray]

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  • ジェイ・チール
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V/H/Sシリーズの7作目。SFホラーに特化したファウンドフッテージ・アンソロジー。エイリアン侵略をテーマに、UFO遭遇、脳食い異星人、寄生・改造された人間、宇宙船内部の恐怖などが描かれる。全6話の構成だが、こうして何か感想を書こうにも「つまらなかった……」の一言しか出てこないので困惑している。えーっとスカイダイビング中に宇宙人に襲われるってのは新しいかも(『Live and Let Dive』)。あとインドを舞台にしたグログロエイリアンモノも珍しかったかな(『Dream Girl』)。


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映画『アウトローズ』:潜入か、闇落ちか?狂犬デカと天才強盗が仕掛ける“究極の二重奏”

アウトローズ (監督:クリスチャン・グーデガスト 2025年アメリカ映画)

前作『ザ・アウトロー』で、観客の度肝を抜いた衝撃のラストから数年。執念の男、ビッグ・ニックが帰ってきた。今回の舞台は、歴史と陰謀が渦巻くヨーロッパだ。

物語はアントワープ空港での鮮やかなダイヤモンド強奪から幕を開ける。実行犯は、世界最強の強盗集団「パンテラ(Pantera)」。その中心にいるのは、前作でニックを完全に出し抜き、姿を消したあのドニーだ。警察隊に化けて獲物をさらう鮮やかな手口は、かつての敵であるニックへの意趣返しのようでもあり、一気に物語へと引き込まれる。

そこに現れるのが、ボロボロになり、警察バッジを失い(自称・休職中)、家族にも見捨てられたニック。彼はドニーを捕まえるのではなく、なんと「俺も仲間にしろ」と強盗計画への参加を志願するのだ。ここで誰もが思うはずだ。「これ、最初から潜入捜査だろ?」と。

しかし、今作のニックは明らかに一線を越えている。マフィアとの命がけの交渉では相手を煽り、暴力を振るい、およそ「正義の味方」とは思えない狂犬ぶりを披露する。果たしてこれは高度な演技なのか、それとも孤独に耐えかねた男の本気の闇落ちなのか。その境界線が曖昧になっていく過程のヒリヒリ感こそ、本作最大の魅力だ。

原題にある「パンテラ」とは、実在の窃盗団ピンク・パンサーを彷彿とさせる、軍隊並みの規律を持つプロ集団。ドニーはこの組織に身を置いているが、盗んだダイヤが恐ろしいマフィアの所有物だったことから事態は急変する。それが、物語を世界最大のダイヤモンド取引所での巨大強奪作戦へと加速させていく。

ちなみに、劇中のターゲットとなるフランスのダイヤモンド取引所は創作であり、モデルはベルギーに実在するアントワープ・ワールド・ダイヤモンド・センター(AWDC)だろう。かつて「史上最大の宝石強盗」が起きた場所をモデルにしているからこそ、本作の強奪作戦には手に汗握るリアリティが宿っている。

物語は前作の激烈なアクション展開から一転、緊張感あふれる強盗シーンをメインに据えて進んでいく。前作の熾烈な銃撃戦を期待しすぎると肩透かしを食うかもしれないが、綿密な計画のもとに潜入していくサスペンスは、シリーズの新たな醍醐味といえる。もちろん、後半に用意された壮絶な銃撃&チェイスシーンも必見だ。

知略のドニーと、暴力のニック。「どうせ潜入捜査だろう」というメタ的な予想を抱きながら観ている我々ですら、中盤以降の予測不能な展開には翻弄されるはずだ。二人の間に芽生えるのは奇妙な友情か、それとも破滅へのカウントダウンか。前作のファンはもちろん、泥臭いクライム・アクションに飢えているなら、この「パンテラ」の牙からは逃げられない。

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映画『ダウントン・アビー:グランドフィナーレ』:古き時代との別れ、新しき時代への船出

ダウントン・アビー:グランドフィナーレ (監督:サイモン・カーティス 2025年イギリス映画)

グランドフィナーレを迎えた『ダウントン・アビー

ダウントン・アビー』が遂に終わる。

20世紀初頭のイギリス貴族クローリー家とその使用人たちを物語の中心に据え、急激に変わりゆく時代の中で階級を超えた信頼と愛情を描き続けてきたTVドラマ『ダウントン・アビー』。2010年のシーズン1から世界的な大ヒットを記録し、2015年のシーズン6で華々しい終幕を迎えたが、その興奮は2作の映画——『劇場版 ダウントン・アビー』(2019年)と『ダウントン・アビー 新たなる時代へ』(2022年)——を生み出し、世界中のファンに熱狂的に迎え入れられた。

そして今回公開された映画『ダウントン・アビー:グランドフィナーレ』(2025年9月米公開、日本2026年1月16日公開)で、物語が真に終了することが宣言された。本作の舞台は1930年。1912年に始まった物語がその18年後を描くことで、真の大団円を迎える。放送開始から15年以上が経ち、登場人物たちの成長とともに、私たちファンも歳を重ねてきたことを思うと、深い感慨を覚えずにはいられない。

離婚という「社会的死」、そして強い女性たちの時代

今作の端緒となるのは、長女メアリーの離婚スキャンダルである。現代の価値観では「離婚」がそれほどの大問題とは思えないが、1930年代のイギリス貴族階級にとって、それは恐るべき背信行為だった。社交界からの追放、王室関連行事からの締め出し、社会からは家名を汚した者として糾弾される——上流階級の女性にとって離婚は、まさに「社会的死」を意味した。

とはいえ、このスキャンダルは、当時の旧弊な社会制度を描きながらも、第一次世界大戦後の女性地位向上により、離婚制度が少しずつ見直され、女性側から積極的に離婚を選択するケースが増え始めたことを示している。

思えば『ダウントン・アビー』は、貴族制度の斜陽化とそれに伴う生活の変化を描きつつ、男女平等の萌芽をも描いた作品だった。クローリー家の女性たちは、誰もが強い意志と変化への柔軟性を持ち、時代を生き抜こうとする姿が印象的だ。今作のメアリーの離婚は、社会的逆風を恐れぬ高らかな宣言でもある。

新しい価値観の使者たち

もうひとつ、そんなメアリーを支えた存在として見逃せないのが、アメリカ人とゲイたちだ。映画版『新たなる時代へ』で登場したアメリカ人俳優ガイ・デクスター、そして実在のイギリス人俳優ノエル・カワードを思わせるキャラクター。彼らはイギリスの伝統など意に介さず、アメリカ人としての、あるいはゲイであることによる独自の価値観を持っていた。彼らの存在が、メアリーに「価値観は相対的なもの」と教えてくれるのだ。

それは同時に、「古い世界たるイギリス」と「新しい世界たるアメリカ」の対比をも浮き彫りにする。これは、クローリー家当主ロバートの妻コーラがアメリカ人女性だったという当初の設定から既に匂わされていたテーマだ。史実においても、19世紀末から20世紀初頭にかけて、英国貴族男性と富裕層アメリカ人女性の結婚が顕著だった(約10%にのぼるという)。当時の農業不況で収入が激減した貴族たちが、莫大な持参金を持つアメリカ人女性を「救世主」として迎え入れたのだ。そしてコーラがもたらした新たな価値観が、娘たちに受け継がれ、クローリー家が時代の荒波を生き延びてきたのではないか——そう思わずにはいられない。

それぞれの旅立ちへ

その後、物語の主要人物たちは引退し、あるいは新たな人生を歩み始めることで、『ダウントン・アビー』の世界から次々と旅立っていく。思えば映画版『新たなる時代へ』での先代伯爵夫人ヴァイオレットの哀切な退場がその始まりだったのだろう。そして『グランドフィナーレ』のタイトル通り、全ての登場人物に豊かな幕引きが用意され、物語世界が厳かに終わりを迎えてゆく。

変わりゆく時代の中で、それは避けられないことであると同時に、祝福として受け入れるべきものでもあるのだろう。

しかし、それでも人は時に、古い世界に帰りたくなる。新しさに疲れたとき、古きものが心を癒すように。そのとき、ダウントン・アビーは、私たちをいつでも暖かく迎え入れてくれるに違いない。

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エリック・マコーマックの不条理怪奇小説『ミステリウム』を読んだ

ミステリウム / エリック・マコーマック (著), 増田 まもる (翻訳)

ミステリウム (創元ライブラリ)

ある炭鉱町に、水の研究をする水文学者を名乗る男が現れる。以来、その町では墓地や図書館が荒らされ、住人たちは正体不明の奇怪な病に侵され次々と死んでいく。伝染病なのか、それとも飲料水に毒でも投げ込まれたのか? マコーマックらしさ全開の不気味な奇想小説。巻末に柴田元幸氏のエッセー「座りの悪さのよさ」を再録。

スコットランド生まれのカナダ人作家エリック・マコーマック(1938-2023)は怪奇であると同時にシュールで不条理な作風の作家だ。いわゆる「奇妙の味」の小説を書く作家だと言っていい。どの作品もおぞましく、非現実的で、最後まで真っ当な説明がなされないといった部分において、あたかも悪夢をそのまま物語にしたような薄気味悪さに満ち溢れているのだ。

そのマコーマックの『ミステリウム』は長編小説となる。英国と思われる国の寒々しい炭鉱町で不可思議な破壊行為が行われ、続いて町民たちが謎の奇病に罹り次々と死んでゆく。主人公となる新米記者は町で巻き起こる災害の謎を解くため派遣されるが、取材を続けるほどにこの町の抱える迷宮めいた過去に囚われてゆくのだ。

マコーマック小説にしては超現実的要素は皆無で、しかも事件の謎を追うミステリ小説形式の構成なのだが、主人公によって掘り起こされる証言の数々がどれも異様であり、腐臭めいた厭らしさに満ちていて、そのグロテスクさが実にマコーマックらしい。

また、町人たちを襲った疫病の症状とは、言語中枢に異常をきたし、異様な喋り方をしながら最後に消耗して死んでゆく、といったものなのだが、病理としての原因は全く説明されない。それら住民の狂った会話を聞かされ、ただただ不快で薄気味悪い気分にさせられるだけなのである。

また、マコーマック小説の常として、物語内物語という入れ子構造を成しているが、綴られるそれら小さなエピソードが本編に関わるのかどうかも判然とせず、常に居心地の悪さを感じさせる部分もマコーマック流だ。そして最後まで読み終えて、これは長い長い悪夢だったのではないかとやはり思わせるのだ。

《参考:これまで読んだマコーマック小説の記事》
隠し部屋を査察して / エリック・マコーマック - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ
この怪奇で、不思議に満ちた人生/エリック・マコーマックの『雲』を読んだ - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ
不気味な物語。/『パラダイス・モーテル』エリック・マコーマック - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ