スリラー映画『ザ・メニュー』は決して宮沢賢治の『注文の多い料理店』ではなかったッ!?

ザ・メニュー (監督:マーク・マイロッド 2022年アメリカ映画)

その料理店に来た客は……髪をとかし履き物の泥を落とされ、金属製のものを全て外され、顔と手足にクリームと酢の匂いのする香水を塗らされ、そして最後に体中に塩を擦り込むように要求された……いったい客たちの身に何が待っているのか!?レイフ・ファインズ、アニヤ・テイラー=ジョイ主演のスリラー映画『ザ・メニュー』の始まり始まり!……ってそれは宮沢賢治の『注文の多い料理店』やないかいッ!?

えー、とてもつまらない冗談で失礼しました。というわけでレイフ・ファインズ、アニヤ・テイラー=ジョイ主演のスリラー映画『ザ・メニュー』です。孤島のレストランにやってきた客たちがとっても怖い目に遭っちゃう!?というスリラー、というかこれもうホラー映画ってことでいいんじゃないですかね。なるべくネタバレ無しで書いていこうかと思います。

【物語】有名シェフのジュリアン・スローヴィクが極上の料理をふるまい、なかなか予約が取れないことで知られる孤島のレストランにやってきたカップルのマーゴとタイラー。目にも舌にも麗しい料理の数々にタイラーは感動しきりだったが、マーゴはふとしたことから違和感を覚え、それをきっかけに次第にレストランは不穏な空気に包まれていく。レストランのメニューのひとつひとつには想定外のサプライズが添えられていたが、その裏に隠された秘密や、ミステリアスなスローヴィクの正体が徐々に明らかになっていく。

ザ・メニュー : 作品情報 - 映画.com

陸地から遠く離れた孤島に建つ超高級レストラン「ホーソン」。天才シェフ・スローヴィクが仕切るこの店では今日も究極にして至高のフルコースメニューが供されます。予約すらまともに取れないこんなレストランにやってくるのはセレブたちばかり。で、スローヴィクは料理を1品出すごとに「これは大自然のアレのコレをソレしたものなのです!」とかなんとか能書きを垂れるんですね。「地球がッ!生命がッ!エコがッ!サステナブルがッ!」とかなんとかもっともらしくてなんだか意識高そうでとりあえず言っておけば時流に乗ってるぜオレカッコいいぜ的な文言も付けくわえたりしてね(あ、サステナブルは多分言ってないな!)。

そして客たちも「おお!これはアレのソレ!しかし隠し味はコレ!私たちは《い・の・ち》を食べている!」とかなんとか分かったような分かんないようなとりあえず分かったふりしとけば頭よさげに見えるしオレカッコいいぜ的な文言をほざきながら有難がって半ベソかきつつ料理を食ってるわけなんですよ。

で、実際出てくる料理はですね、いわゆる「分子ガストロノミー」みたいなものなんですが、もっと言うならば料理というよりも料理という概念、コンセプトとしての料理、料理の名を借りたシェフの精神の高次な表現なんですね。概念を食っても腹は膨れないと思うんですが、セレブの皆さんは別にお腹が減ってこのレストランに来ているわけではなくて、「セレブしか入ることの出来ない超高級レストランの究極にして至高のフルコースメニュー」というステータスを食いに来ているともいえるわけです。

ウザイ強調表現を乱舞させながら何を言いたいのかというと、この映画『ザ・メニュー』は、これら全部を虚仮にし笑いものにし、血と死と殺戮と炎の中に放り込んでしまえ!ということを目的とした映画なんですよ。要するに全部皮肉なんですよ。まあ結構怖いシーンも沢山あるんですが、ホントはこの映画、コメディ映画なんじゃないですかね?

まあ実のところ物語には狂人とバカしか出てこない上に、途中でネタ切れ起こして同じ事の繰り返しになりウンザリさせられました。狂人とバカって物事ををご破算にするしか能がないんで、この組み合わせで物語作ったって面白くなるわけがないんですよ。こんな役立たずな脚本ながら主演のアニヤ・テイラー=ジョイが安定の大活躍をしていて、孤軍奮闘の戦いを見せてくれる部分でなんとか救われるんですが、それにしてもなんだよあの歯切れのよくないラストは。どちらにしろオレ、戦おうとするヤツのいない話って基本的に嫌いなんですよね。

 

 

『RRR』の次に観るべきインド映画は『マスター/先生が来る!』だッ!!

マスター/先生が来る! (監督:ローケーシュ・カナガラージ 2021年インド映画)

畳みかけるような超絶パワーに満ち満ちたインド映画『RRR』の大ヒットは皆さんご存じだろう。『RRR』を観てインド映画の凄まじさ、面白さをとことん味わうことができただろうが、そんな中で「インド映画ってよく知らないけれど、『RRR』みたいな面白い映画って他にあるのかな?」と思われた方も多いのではないだろうか。そんな方々に朗報だ。今現在ロードショー公開されているインド映画『マスター/先生が来る!』こそが「おもしろインド映画ロス」に悩まされている皆さんが今観るべき映画、そして観て決して後悔しない映画なのだ!

【物語】名門大学教授のJDは、腕っぷしの強さと行動力で学生たちに人気だったが、彼が実施を主張した学生会長選挙で暴動が起こったため、責任をとることに。教授職を辞し、新たに地方都市の少年院に赴任したJDだったが、その少年院は地元ギャングのバワーニに支配され、少年たちが犯罪と暴力に染まる劣悪な場所だった。JDは少年たちの更生のために立ち上がる。

マスター 先生が来る! : 作品情報 - 映画.com

主役であるJDを演じるのはインド:タミル語映画界のスーパースター、”大将”ことヴィジャイ。単に「スーパースター」と書いても伝わらないかもしれないが、現地での彼への熱狂は神懸かりと言っていいぐらい凄まじい。日本でも何作か主演作が公開され、DVDやオンデマンドで観ることができる(筈)。ヴィジャイの敵役バワーニ役を演じるのがこれまた「タミル民の宝」と評される個性派俳優ヴィジャイ・セードゥパティ。監督は先頃日本でも公開された『囚人ディリ』のローケーシュ・カナガラージが務める。

さて今作の主人公となるJD、これがもうなにからなにまで破天荒な大学教授。頭はよく腕っぷしも強い優男だが、酒好きでアル中気味なのが玉に瑕。今日も今日とて酔い潰れて学校に行けない所を、生徒たちが賑々しく歌と踊りで鼓舞し、自分も気持ちよくなって踊りながら出勤だ!なんなんだね君は!?ところがすわ暴力沙汰ともなればたった一人で暴漢どもをちぎっては投げちぎっては投げ、魔人の如き無敵さを見せつける!いったいどんな大学教授なんだね君は!?物語はそんなヤンチャで破天荒過ぎる教師が少年院に赴任させられる所から始まるのだ。

一方、暴力と殺人を繰り返して暗黒街を牛耳り、悪逆の限りを尽くす男が登場する。奴の名はバワーニ。奴は少年たちを酒と薬漬けにして手足として操り、非道な行為に手を染めさせる卑劣漢だった。JDの赴任する少年院は、実はそんなバワーニの魔の手に陥っていたのだ。それを知ったJDはバワーニを叩き潰すために闘志を燃やすんだ。こうして冷酷極まりない暴力団ボスとヤンチャな剛腕教授との血で血を洗う抗争を描いたバイオレンス・ストーリーの始まり始まり!というわけなんだね。

ローケーシュ・カナガラージ監督の前作『囚人ディリ』でもその暴力描写は凄まじいものがあったが、この『マスター/先生が来る!』における暴力シーンもまた情け容赦ない。カナガラージ監督の描くバイオレンスは重く、熱く、暗い。こってりとしつこく、そしてじわじわと暴力の興奮をスクリーンに叩き付けてゆくのだ。冒頭にJDが演じる見栄えのいいアクションなんて実はおふざけみたいなもの、後半に行くほど展開するアクションは重量級となり、相手を叩き潰す快感が、観る者の脳髄に痺れるように響き渡るのだ。カナガラージ監督の映画は恐るべきことに、観ている者に暴力衝動を誘引するのである。

また、この作品がこれまでのヴィジャイ主演作品とは一味違う仕上がりになっている部分も注目すべきだろう。実のところ、オレがこれまで観たヴィジャイ主演作品は「完全無欠のカリスマスーパースターが快刀乱麻にトラブルを解決する」という、ある意味ジャニーズタレントが水戸黄門をやっているような予定調和に満ちたものだった。しかし今作において、主人公JDはアル中というメンタルの弱さを持ち、それによって失敗し、その後も決して万能ではないことによる危機に陥れられる。そういった、「決して万能はない、弱さを持つ主人公」を演じたことにより、ヴィジャイ主演作として画期的な作りとなっているのもまたこの作品なのだ。

ヴィジャイ主演作品

ヴィジャイ・セードゥパティ主演作品

ローケーシュ・カナガラージ監督作品

SFマガジン12月号:カート・ヴォネガット生誕100周年記念特集号を読んだ

SFマガジン 2022年 12 月号 [雑誌]

カート・ヴォネガット生誕100周年記念特集 監修:大森望  

世界中で愛される作家、カート・ヴォネガット。1922年11月11日にインディアナ州インディアナポリスで生まれ、2007年に没したヴォネガットは『猫のゆりかご』『タイタンの妖女』『スローターハウス5』など多くの傑作を残した。その足跡を生誕100周年のいま振り返る。

カート・ヴォネガットといえばオレの青春時代に最も熱中して読んだ作家のひとりで、その作品の幾つかは終生忘れ得ぬものとして心に刻みつけられている。とはいえ、そんなカート・ヴォネガットの事を知らない方もいらっしゃるかと思うので、ここにWikipediaの記事を抜粋しておこう。

カート・ヴォネガットKurt Vonnegut、1922年11月11日 - 2007年4月11日)は、アメリカの小説家、エッセイスト、劇作家。(中略)人類に対する絶望と皮肉と愛情を、シニカルかつユーモラスな筆致で描き人気を博した。現代アメリカ文学を代表する作家の一人とみなされている。代表作には『タイタンの妖女』、『猫のゆりかご』(1963年)、『スローターハウス5』(1969年)、『チャンピオンたちの朝食』(1973年)などがある。ヒューマニストとして知られており、American Humanist Association の名誉会長も務めたことがある。20世紀アメリカ人作家の中で最も広く影響を与えた人物とされている。

10代の頃のオレはSF小説ばかり読んでいた子供だったが、彼の小説を初めて読んだとき、そこにSFを超えた別個のものが存在していることに気付かされた。実のところカート・ヴォネガットはSFの手法を借りた文学小説を書いていた人で、そういった形式の文学を「スリップストリーム文学」と呼ぶらしいのだが、とにかく、荒唐無稽なSF冒険活劇を読んでいるつもりだったのに、人間とその人生への限りなく深い洞察が飛び出してきて驚愕してしまったのだ。だからある意味、初めての海外文学体験がカート・ヴォネガットだったと言えるかもしれない。

こうしてカート・ヴォネガットに傾倒したオレは彼の作品を片端から読みまくったが、彼の人類社会に対する悲観的な態度と真正さを訴える口調の強さが気になってしまい、いつしかあまり熱中して作品を追う事が無くなってしまった。とは言いつつ、日本で読むことができるカート・ヴォネガット作品のほぼ9割は読破していると思う。このブログでも以前こういった記事を書いたことがある。2008年というから相当昔の記事だが。

また、ヴォネガットの亡くなった時にはオレなりに追悼文を書いた。そうか、あれは2007年の事だったのか。

そんなヴォネガットが生誕100周年だというからびっくりである。ヴォネガットは84歳の時に亡くなられたが、今生きていれば100歳という事である(当たり前だ)。そして同時に思ったのは、そんなオレが今年生誕60周年であるという事だ。あまり意識していなかったが、オレとヴォネガットは丁度40年歳が離れていたんだな。

というわけでSFマガジンの特集号なわけだが、大変面白く読ませてもらった。なにより特筆すべきは【新訳短篇】である『 ロボットヴィルとキャスロウ先生』と【新訳エッセイ】である『 最後のタスマニア人』が読めることだ。実はこの両作は未完成原稿で、だからこれまで単行本収録がなかったのだが、こうして読めるのはたいへん貴重な事だろう。ありがとうSFマガジン。あんた意外と凄い奴だな。

あとは【エッセイ・評論・再録】として円城塔×大森望×小川哲による対談、84年のインタヴューの再録や、さまざまな執筆者による「わたしの好きなヴォネガット」が掲載されている(この「わたしの好きなヴォネガット」、なぜ大ファンであるこのオレに執筆依頼をよこさなかったSFマガジン?)。また、【全邦訳解題】【全邦訳作品リスト】ではヴォネガット作品を丁寧に紹介していた。

そんな中、水上文によるヴォネガット評論『分裂を生きる文学――戦後文学としてのカート・ヴォネガット』が非常に鋭利な視点から書かれた読み応えのある評論となっており、今回の特集をピリッと引き締めてくれていた。

それはそれとして、60歳になってもSFマガジンを購入し、あまつさえ公共交通機関で読むことになるとは思いもしなかったな。初めてSFマガジンを買ったのは小学校4年の時だぜ?福島正実が「未踏の時代」とか連載している時だったんだぜ?連載がクラークの『宇宙のランデヴー』だったんだぜ?

最近観たホラー映画とかソレ的なナニカとか

昔はオレも割とホラー映画を観ていたものだが、ある程度いい年齢になってからまるで観なくなってしまった。それは単純に、「怖くて観ていられない」からである。「キモチ悪い映像に本当にキモチ悪くなってしまう」からである。年を取ってヤワくなってしまったのである。

そんなオレではあるが、SNS等ネットでの評判がいいホラー映画はなんとなく気になってしまい、こうしてこっそり観てはいるのだ。また、ホラーとは言っても、比重がサスペンスや超自然現象にあって、必ずしも恐怖や肉体破壊ではない作品なら観ることはできるのだ。

そんな具合にして最近観たホラー映画作品をなんとなく羅列してみる。

ブラック・フォン(監督:スコット・デリクソン 2021年アメリカ映画)

ジェイソン・ブラム製作、『ドクター・ストレンジ』のスコット・デリクソン監督によるサイコスリラー。マジシャンだという男に拉致され、地下室に閉じ込められた少年・フィニー。すると突然、黒電話のベルが鳴り、死者からのメッセージが聞こえてくる。

S・キングの息子ジョー・ヒル原作のホラーだがオレ実はジョー・ヒルが好きじゃなくてね。アイディアが幼稚だし構成もイビツで素人臭いんだよ。けれどこの映画はジョー・ヒルのそんなイビツな構成力を、逆に目新しい視点として物語に持ち込むことで成功していると思えたな。子供専門の誘拐殺人鬼の話ではあるんだけど、軸足はそこになくて奇妙な超自然現象の話になってゆくんだよ。この「なんか変な流れ」がいいんだ。

TITANE/チタン (監督:ジュリア・デュクルノー 2021年フランス映画)

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  • ヴァンサン・ランドン
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幼い頃に交通事故で頭部を負傷し、頭蓋骨にチタンプレートを埋め込まれたアレクシア。以来、“車”に対して異常な執着を抱くようになっていた。ある日、追われる身となり逃亡を図る彼女は、少年の姿となって孤独な消防士ヴァンサンの前に現れる。ヴァンサンはアレクシアを10年前に失踪した息子と思い込み、2人は奇妙な共同生活を始めるのだったが…。

カンヌ映画祭パルムドール受賞ですがその内容はグログロ変態映画。とはいえ単なるキワモノかと思っていたらそれだけの物語じゃなく、先の読めない展開に最後までグイグイ引き込まれて観てしまい、変態映画だというのにラストは荘厳ですらあった。意味はよく分かんなかったがなんか凄いもん見せられた感じ。ホラーってわけではないんだが、まあホラーでもいいかな。

炎の少女チャーリー (監督:キース・トーマス 2022年アメリカ映画)

『透明人間』のブラムハウスがスティーブン・キングの傑作を再映画化したサイキックススリラー。不思議な能力を持つ少女・チャーリーは、その力を軍事利用しようとする秘密組織から追われる身に。父・アンディはチャーリーを連れて逃げ出すが…。

S・キングの原作はオレの最高に好きなキング作品の1つだけれど、1984年にドリュー・バリモア主演で映画化された作品は相当ガッカリだったよ。特撮がチャチかったのと、ドリュー・バリモアが健康的過ぎてホラー作品の陰鬱さが伝わってこなかったからだな。今作は再映画化という事になるけど、1984年版での不満点が刷新されている分結構面白く観られたよ。

キャメラを止めるな! (監督:ミシェル・アザナビシウス 2022年フランス映画)

日本で大ヒットした映画「ONE CUT OF THE DEAD」がフランスでリメイクされることになり、30分間生放送のワンカット撮影を依頼された監督。監督志望だが空気の読めない彼の娘と、熱中すると現実とフィクションの区別がつかなくなってしまう妻も加わり、撮影現場は大混乱に陥っていく。 

日本で大ヒットしたゾンビ映画カメラを止めるな!』のフランスリメイクだけど、映画のシチュエーション自体が「日本で大ヒットしたゾンビ映画カメラを止めるな!』のフランスリメイクの現場」ってのがまず可笑しくて、そしてオリジナルと違う展開の部分に感心して観ることができたな。これ、映画愛のお話なんだね。

ウォーハント 魔界戦線 (監督:マウロ・ボレッリ 2022年アメリカ映画)

『レスラー』のミッキー・ローク主演による戦争アクションホラー。1945年、墜落した輸送機を捜索する米軍のブリューワー軍曹たちは、墜落機の残骸を発見する。しかしそれ以降、幻覚を見るようになった兵士たちは狂気に捕らわれ…。

「第2次大戦の戦場に超常現象が!?」というお話なんだが、舞台や設定が古臭くアイディアにも別段目新しさはないんだけれども、だからこそ逆にB級ホラーとして安心して観ることができたな。あとミッキー・ロークが出ていたのもポイント高いけど、主役ではなくてチョイ役なので注意。

サイコ・ゴアマン (監督:スティーヴン・コスタンスキ 2020年カナダ映画

サイコ・ゴアマン Blu-ray

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  • ニタ=ジョゼ・ハンナ
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庭で遊んでいた少女ミミと兄のルークは、ひょんなことから宇宙屈指の残虐モンスターの封印を解いてしまう。地球どころか宇宙全体が危機に陥るほどのモンスターだったが、ミミが偶然手にした宝石の持ち主にだけは絶対服従だった。

SNSでやたら評判が良かったのでなんやねん?と思っていた作品で、やっとレンタルで視聴できたんだがこれがもう最高!言ってしまえば「アラジンと魔法のランプ」のゴア・バージョンをひたすらローテクで日本の戦隊ヒーロー的に展開した、という作品なんだが、ギャグと馬鹿馬鹿しさとグロのバランスが絶妙で、あー80年代辺りってこういうホラー多かったよね!てな気にさせられ、これがまた郷愁を誘うんだよな。なにより主人公少女の暴力的なまでの野蛮さがとてつもなくて、宇宙の悪魔すら霞んでしまう部分がイカシていた!

スターフィッシュ (監督:A.T.ホワイト 2018年イギリス・アメリカ映画)

スターフィッシュ[Blu-Ray]

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  • ヴァージニア・ガードナー
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親友が亡くなったことによる深い喪失感を抱えるヒロインが、人々が忽然と街から消え、不気味な怪物が徘徊するSF的設定の中で繰り広げる心の再生を、幻想的な映像表現とともに描き出した異色の青春映画。主演は「ハロウィン」のヴァージニア・ガードナー。監督は本作が長編デビューとなるA・T・ホワイト。

なんつーかそのーいわゆるセカイ系のお話でありまして、やたらめったらエモくてナイーブでうんざりさせられました。「かせっとてーぷをあつめてせかいをすくうの」とか言ってるんですが意味不明で、だいたい生きる気力の無い奴に世界を救うとか言われてもなあ。監督にはMMFRを100回観て出直せと言いたい。

ポゼッサー (監督:ブランドン・クローネンバーグ 2020年カナダ/イギリス映画)

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鬼才、デヴィッド・クローネンバーグの息子、ブランドン・クローネンバーグ監督によるSFノワール。第三者の人格を乗っ取り、殺人を行う遠隔殺人システムで任務を完遂する女暗殺者・タシャ。しかし、ある任務をきっかけに彼女の中の何かが狂い始める。

ただただひたすら暗くグロくどんよりしているだけのお話で、観ていて相当うんざりさせられた。描かれる「遠隔殺人システム」というのも随分回りくどい上にこういうテクノロジーがあるならもっとどうにかなる使い道が沢山あるだろうにわざわざ委託殺人というニッチなジャンルかよ、視野狭いよなあとしみじみ思った。

バーバリアン (監督:ザック・クレッガー 2022年アメリカ映画)

面接のためデトロイトに来た若い女性が深夜に予約した宿泊先に到着すると、手違いなのか既に見知らぬ男が泊まっていた。不本意ながらもそこで夜を過ごすことにするが、予期せぬ客より恐ろしいものが待ち受けていた。

Disney+の配信で視聴。これね、最初にホラー映画『IT/イット』のペニーワイズ役、ビル・スカルスガルドが出てきた段階で「おおっ!」と思わされるんですが、その最初の「おおっ!」を無視して思わぬ方向に突き進んじゃう、という部分において面白い作品なんですね。その「思わぬ方向」の設定だけだとこれは特に新味はないんですが、こういった二段構えの驚きを持ってきたことで成功した作品じゃないですかね。

最近聴いたエレクトロニック・ミュージックその他

Jeff Mills

Wonderland / Jeff Mills and The Zanza 22

Jeff Mills、以前はハードミニマルのトップアーチストとしてテクノミュージック界に君臨していたけど、いつの頃からか冨田勲みたいに《宇宙幻想》の彼方へと飛んで行って帰ってこれなくなった人で、オレもある時期から見切ってはいたが、しかしこのニューアルバムは久々に傑作と言っていいんじゃないのか。しかもその音はハードミニマルではなくエレクトロニック・ジャズ。生っぽいパーカッションやギターの音が既にJeff Millsぽくなくて新鮮で、しかしてそれがJeff Millsらしいミニマル展開をしてゆくという面白さ。これは新境地ってやつじゃないか。でもJeff Millsのことだからまた新しい音を探してどこか遠くへ飛んで行ってしまうんだろうけど。

Planets / Jeff Mills

前述のアルバム『Wonderland』が面白かったのでついでにもう一枚とJeff Millsのアルバムを買ってみた。この『Planet』はホルストによる有名なクラシック作品とは別物で、Jeff Mills自身がこの現代において「惑星」を音楽化したらどうなるか、を追求した作品となる。2枚組でCD1がフルオーケストラ、CD2がその原型となるテクノ作品。ただコンセプトとしては面白いのだが、音的にはやはり「宇宙の彼方に飛んで行ったJeff Mills」のままなんだよなあ。

77 Million / Brian Eno

以前京都で開催されていたBrian Eno展を記念して再発売されたレアアルバム。2006年に原宿の展覧会で1000枚限定発売されていた作品リイシューなのだとか。アンビエント作品ではなく、Enoらしい実験的エレクトロニックミュージック集。

What I Breathe / Mall Grab

What I Breathe [Explicit]

What I Breathe [Explicit]

  • Looking For Trouble, distributed by LG105
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オーストラリア出身、UKを中心に活躍するMall Grabのニューアルバム。ローファイ・ハウスと呼ばれるジャンルとなるのだが、おそらく古いレア機材を使ってハウス・サウンドを構築していると思われ。奇妙に懐かしい感じがするのはそのせいか。

Cry Sugar / Hudson Mohawke 

マシュマロマンと半裸の女性の後ろ姿を描いた変なジャケットに惹かれて聴いてみたが、音自体は奇妙な明るさと性急な高揚感に溢れたエレクトロニック・ミュージックで、こういった曲調を「アンセミック・サウンド」というのらしい。祝歌や讃美歌という意味だが、パンデミックで打撃を受けたクラブ・シーンのモチベーションを高めたいという作者の意図があるのらしい。

Infinite Window / Kuedo 

Infinite Window

Infinite Window

  • Brainfeeder
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ダブステップエレクトロニカを融合させたというKuedoのアルバム。美しいストリングス音の狭間に響き渡る重低音。

The Essential Matt Bianco: Re-Imagined, Re-Loved / Matt Bianco

マット・ビアンコは1980年代にファンカラティーナ・バンド、ブルー・ロンド・ア・ラ・タークとしてデビューし、その後マット・ビアンコと改名。現在はジャズ・テイストの音を送り出すユニットとして活躍するが、そのマット・ビアンコの過去のヒット曲をニューアレンジとミックスで製作したアルバムが本作。

Global Underground: Adapt #5 / Various Artists

UKの老舗ダンス・ミュージック・レーベルGlobal Undergroundの新作ミックスは定番のテックハウス/プログレッシヴハウス。D/L版はアンミックス曲も含めて4時間26分の大ボリューム。

Global Underground: Afterhours 9  /  Various Artists

またしてもGlobal Undergroundの新作ミックス。こちらもミックス/アンミックス含め7時間余りの大ボリューム。当然テックハウス/プログレッシヴハウス(実は両者の違いがよく分からない)。

Collapsed in Sunbeams / Arlo Parks

Collapsed in Sunbeams

Collapsed in Sunbeams

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そういえば一時Arlo Parksのこのデビューアルバムばかり聴いていた時期があった。Arlo Parks、サウス・ロンドン出身のシンガーソングライターで、まだ20代の若さにも関わらず、その高い才能から2022年第64回グラミー賞にノミネートされた経歴を持つ。音自体は90sオルタナティヴ・サウンドの匂いがするが、聴いていて、とても和むのだ。そのどこかあどけない歌声は、何か記憶に無いはずの懐かしさを想起させる。夢見がちな繊細さと同時に、揺るぎない確固たる自己も持ち合わせているように感じる。それとネグロイドの血を引く彼女だが、奇妙に人種を感じさせない歌声がいい。人種的偏見に聞こえるかもしれないが、つまり黒人女性シンガーというのは黒人女性シンガーの歌声を期待されてしまうと思うのだ。しかし彼女は奇跡的にそこから逸脱し、なおかつ彼女独自の才能を持っているのである。これはUK出身だから成し得たことで、アメリカのショービズでデビューしようとしたらこうはいかなかったかもしれない。

Super Sad Generation / Arlo Parks

Super Sad Generation

Super Sad Generation

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そのArlo Parksのシングル曲と未発表曲を集めたアルバム。そしてこれが暗い。暗くて悲しくて、とても切ない歌声だ。しかしデビューアルバムから振り返りながら聴いてみると、この暗さと悲しさと切なさが、デビューアルバムの持つ仄かな希望と安らぎへと結実したのかと思うと感慨深い。