犬猿の仲の元夫婦が娘の結婚式阻止のために休戦協定!?/映画『チケット・トゥ・パラダイス』

チケット・トゥ・パラダイス (監督:オル・パーカー 2022年アメリカ映画)

最初はあれほど愛し合い結婚して子供までもうけたのに、いつしかその愛も冷め結婚も解消、今では憎み合いいがみ合いすっかり犬猿の仲の元夫婦が、娘のスピード婚を阻止するために休戦協定を結んじゃう!?というロマンチック・コメディ『チケット・トゥ・パラダイス』です。元夫婦役を「オーシャンズ」シリーズ(観てない)で夫婦役を演じたジョージ・クルーニージュリア・ロバーツ、娘役を『ディア・エヴァン・ハンセン』(観てない)のケイトリン・デバー。監督は『マンマミーア! ヒア・ウィー・ゴー』(観てない)のオル・パーカー

元夫婦のデヴィッドとジョージアは20年前に離婚して以来、必要に迫られて会うことがあっても、いつもいがみ合ってばかりいた。そんな2人の愛娘リリーがロースクールを卒業し、旅行でバリ島へ向かい、数日後に「現地の彼と結婚する」という連絡が入る。弁護士になる夢を捨てて会ったばかりの男と結婚するなどあってはならないと、自分たちと同じ過ちを繰り返してほしくないデヴィッドとジョージアは、現地へ赴き、娘の結婚阻止に向けて協力することになる。

チケット・トゥ・パラダイス : 作品情報 - 映画.com

主人公となる元夫婦がなぜ娘の結婚式を阻止するのか?というとそれは、ロースクールを卒業し栄えある弁護士への道が開けていたはずの娘が、卒業旅行で出掛けたバリ島で現地の青年と恋に落ち、たった1ヶ月ほどで「わたしたち結婚します!」と元両親に告げたからなんですね。あ、離婚してても両親である事は変わらないから元両親とは言わないか。

現地の青年というのは代々海藻の養殖をし、これを海外に輸出するという堅実な事業を行っているのですが(おまけに超イケメン)、職業も生活もアッパークラスの元夫婦にとっては「白人社会のトップで生活できるはずの娘が大自然しかない東南アジアのちっちゃい島で第1次産業を営むどこの馬の骨とも知れないアジア系の男と結婚だとぉ~~ッ!?」と激オコプンプン丸になったわけです。なんだよ激オコプンプン丸って。いったいいつの言葉だよ。

で、納得できない元夫婦は犬猿の仲だったにもかかわらず一旦休戦協定を結び、一致協力して娘の結婚を思い止まらせようと、結婚式が数日後に迫るバリ島へと乗り込んだんですね!あの手この手で結婚を阻止しようと画策する激オコ元夫婦!いやあこれは血の雨が降りそうですね!

……と思いきや、なにしろジョージ・クルーニージュリア・ロバーツが主演のロマンチック・コメディなので、あんまりエゲツナイことは出来ないわけなんですよ。未来の婿にウニョウニョと悲観的なことを吹き込んだり結婚指輪を隠したり、「その程度のことで結婚が阻止できるかよ!?」と思っちゃうような手ぬるい行動しかできないんです。

例えばこれがウィル・フェレルセス・ローゲンのコメディ作品なら、もっと下品で破壊的でエゲツナイ行動に出て大いにドタバタを演じ笑いを取ったんだろうと思います。しかしそれはあくまでスラップスティック作品の話法であり、一方こちらはジョージ・クルーニージュリア・ロバーツが主演のロマンチック・コメディ。もっと常識的で保守的な観客層が鑑賞することを前提としたシナリオにならざるを得ないんです。

なにしろ舞台となるバリ島は世界一の楽園と言ってもいい程に風光明媚で自然の豊かな場所。この島の素晴らしい景観を案内しながらあたかも観光しているかの如き満足感を与え、海と空と密林に囲まれたその土地に住む美しい人々と美しい伝統とを映し出し、環境に優しいオーガニックでサステナブルな生活を魅力的に伝えるのです。サステナブルの使い方合ってますか。ああそうですか。こういった自然に心洗われながら家族というものの在り方に思いを馳せる。これはそういった作品なんです。

そんなわけですから「結婚式の邪魔」などという生臭い展開は途中で放棄され、一方犬猿の仲だった元夫婦の和解が成し得るか否かを中心的に描く展開へと移行するんです。どうせ最後は仲直りしてお仕舞いだろうな!と予想は付くんですが、それでもこの二人の距離感が縮まるかと思えばまた離れる、というじれったいエピソードの数々が物語に微笑ましい楽しさを生んでいます。で、あれこれ書きましたがこの作品はそれでいいんだと思います。オレは十分楽しめました。ジョージ・クルーニージュリア・ロバーツも実に素敵だったし、バリ島の自然は美しかったし、たまにはこういった作品でほっこりするのもいいのではないかと思います。

ドンソク兄ィがまたまた大暴れするクライムアクション『犯罪都市 THE ROUNDUP』!

犯罪都市 THE ROUNDUP (監督:イ・サンヨン 2022年韓国映画

「悪い奴らはこの俺がぶん殴るッ!」……『新幹線 ファイナル・エクスプレス』『悪人伝』のマ・ドンソク(以下ドンソク兄ィ)が暴力刑事に扮し、悪党どもをちぎっては投げちぎっては投げしてゆく爽快バイオレンス・ムービー『犯罪都市 THE ROUNDUP』です。この映画、2017年製作の『犯罪都市』の続編となるのですが、大ヒットを記録して現在3作目を製作中なのだとか。ドンソク兄ィをはじめ主要となる登場人物は前作から続投ですが、1作目の「あのオッサン」まで出てきて大活躍(?)するので目が離せませんよ!

《物語》クムチョン署の強行犯係に所属する怪物刑事マ・ソクトらは、国外逃亡した容疑者を引き取るためベトナムへ行くよう命じられる。ソクトとチョン・イルマン班長は容疑者から怪しい気配を感じ取り、秘密裏に捜査に乗り出す。やがて、残忍な凶悪犯罪を重ねるカン・ヘサンの存在が浮上。ソクトらは韓国とベトナムを行き来しながらヘサンを追い詰めていくが……。

犯罪都市 THE ROUNDUP : 作品情報 - 映画.com

さて今作でのドンソク兄ィ、犯罪者受け渡しの為にベトナムへ出張!というのがそもそもの始まりとなるんですね。最初は観光気分のドンソク兄ィでしたが、ベトナムで度重なる誘拐殺人事件を巻き起こしている韓国人犯罪者の噂を耳にし、「悪人はこの俺が成敗だッ!」とばかりに捜査を始めてしまうんです!もちろんベトナム側からそんな要請などされていませんから当然違法なんですけどね!だけどドンソク兄ィの正義は誰も止める事なんてできはしねえ!やれ!やったれやドンソク兄ィ!

こんな具合にベトナムが舞台となる『犯罪都市 THE ROUNDUP』ですが、最近の韓国産クライムアクションってこんな国外が舞台となる作品を割と目にするようになりましたね。タイトルもズバリ『国外捜査!』はフィリピンを舞台にしたクライムアクションで、『ただ悪より救いたまえ』はタイを舞台にしたノワール作品でした。実話作品ですが『モガディシュ 脱出までの14日間』ソマリアでのクーデターを題材にしていましたね。今回のベトナムも含め全体的に暑そうな国が多いんですが、基本韓国って寒い国なので暑い国を舞台にすると雰囲気が変わるのかもですね。

物語の流れは1作目『犯罪都市』を綺麗に踏襲しています。まずドンソク兄ィ演じる暴力刑事マ・ソクトと同僚刑事たちとのパートはギャグがふんだんに盛り込まれ、終始笑いが止まらない状態です。一方犯罪者の登場するパートでは実に韓国ノワールらしい暗く血腥い暴力が吹き荒れ、大量の流血と夥しい死体があちこちに転がる、といった塩梅です。しかも今作では、その残虐さと死体の数、さらには畳みかけるアクションの量が、はっきり言って前作の2倍ぐらいはありそうな勢いなんですよ!特に今作における悪玉カン・ヘサンの狂いっぷりが半端なく、韓国ノワール大好きな方にも胸を張ってお勧めできる残虐さなのではないでしょうか!

そしてひとたびドンソク兄ィと犯罪者が対峙したならば、ドンソク兄ィの無敵の鉄拳が一撃でもって犯罪者どもを地に沈めてしまうんですね!もうドンソク兄ィの一撃がヘヴィー級の重さなんですよ!そしてあの一蹴りで死んでないのがおかしいぐらいなんですよ!溜めに溜めてから発動する「マ・ドンソク無双」とも呼べるようなアクション展開の爽快感が実に素晴らしい!物語後半においてはどんでん返しに次ぐどんでん返しの追跡逃亡劇が描かれ、スピード感あるアクションもきっちり見せています!前作を観ている方も観ていない方も、韓国映画に特に興味ない方にも、アクション映画がお好きだったら是非お勧めしたい作品でしたね!

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パナソニック汐留美術館『つながる琳派スピリット 神坂雪佳』展を観に行った

この間の土曜日はパナソニック留美術館で開催されている『つながる琳派スピリット 神坂雪佳』展を観に行きました。実はこの日は展覧会初日で、オレもいよいよ初日に駆けこんじゃう人になっちゃったかあ、などとどうでもいい事に感嘆していました。ちなみに美術展が最も混み合うのは初日から数日間と最終日前の数日間だというのをどこかで聞いたことがありますが、この日は時間予約が一杯だったものの、会場自体は混み合っているというほどではありませんでしたね。

《展覧会概要》神坂雪佳(1866-1942)は、明治から昭和にかけ、京都を中心に活躍した図案家・画家です。20世紀の幕開けと同時に、欧州で当時最先端の美術工芸を視察したことで、雪佳はあらためて日本古来の装飾芸術の素晴らしさを再認識し、「琳派」の研究に励みました。本展覧会は、「琳派」というテーマを通じて、多岐にわたる神坂雪佳の活動の真髄をひもときます。

つながる琳派スピリット 神坂雪佳 | パナソニック汐留美術館 Panasonic Shiodome Museum of Art | Panasonic

ところで今回の『つながる琳派スピリット 神坂雪佳』展ですが、実はオレ、「神坂雪佳(かみさかせっか)」という画家も「琳派」という流派の事も全く知らない人間だったんですね……最近美術展によく行くようにはなりましたが、実際のところ単なる酔狂でありまして、美術や美術史にたいした詳しいわけじゃないんです!そんな「なんにも知らない人」がなぜ今回の展覧会に行ったかというと、たまたま見かけた展覧会のチラシが、とっても可愛らしかったからなんですね!この絵です!いやもう卑怯なぐらい可愛いでしょ!?

神坂雪佳 《百々世草》より「狗児」

さて「琳派」とは何か、そして神坂雪佳はその中でどういう立ち位置にあるのかというとこういうことらしいのですね。

琳派」の起源は、江戸時代初期にさかのぼります。平安王朝の典雅な美に憧れ、その再興を目指した新しい芸術は、時を経て幕末から近現代にまで至る、世界的にも類まれな芸術の潮流となりました。中でも、本阿弥光悦俵屋宗達尾形光琳尾形乾山、さらに酒井抱一、鈴木其一といった日本美術の歴史を彩る芸術家たちの偉業はよく知られているでしょう。そして明治時代の京都に登場した神坂雪佳は、琳派の芸術に強い関心を寄せ、その表現手法にとどまらず彼らの活動姿勢にも共感し、自ら実践していきました。そのあり方から「近代琳派・神坂雪佳」とも呼ばれています。

つながる琳派スピリット 神坂雪佳 | パナソニック汐留美術館 Panasonic Shiodome Museum of Art | Panasonic

「近代琳派」なんていう呼び名があるように、神坂雪佳は琳派の後期に位置する画家であり、本阿弥光悦俵屋宗達尾形光琳といった有名琳派画家の意匠を継ぎながらも、もっと庶民レベルなアートを目指した画家なんですね。デザインやテキスタイルなど、マスプロダクツに関わる意匠を多く作り上げているんですよ。ある意味「芸術家」というよりも「デザイナー」に近い存在だったように思えます。ですから琳派の画家というより琳派のテイストを上手く拝借したデザイナーが神坂雪佳だったのではないでしょうか。

その辺りが顕著な作品が神坂雪佳の《杜若図屛風》なんですが、これ、見ればわかるように国宝になってる尾形光琳の《燕子花図屏風》から意匠を借りてきた作品なんですね。

神坂雪佳 《杜若図屛風》

参考までに尾形光琳の《燕子花図屏風》を置いてみます(参考作品です。展覧会に展示されているわけではありません)。

尾形光琳 《燕子花図屏風》

尾形光琳の《燕子花図屏風》は「どうだ凄いだろ」とばかりに迫ってきますが、神坂雪佳の《杜若図屛風》はこじんまりとして可愛らしく、「あなたのお部屋にもこんな屏風はいかがですか?」と言ってるようじゃありませんか。こうして比べると分かるように雪佳の作品は綺麗に出来ているしそれらしいけれど、平板で深みはないんですね。でもデザインであり意匠なので、それでいいんですよ。むしろ日常生活に置くものに「深み」や「重々しさ」といった存在感は邪魔になってしまうんです(とはいえ尾形光琳というのも芸術家というよりもデザイナーに近いのではないかと思いますけどね)。

また、雪佳の特徴として挙げられるのは大胆な構図様式とユーモアだと言われています。例えばこの金魚が正面を向いてる掛け軸などは、楽しさが溢れていますよね。

神坂雪佳《金魚玉図》

デザイナー/図案家としての雪佳の魅力を伝える著作には《ちく佐》《滑稽図案》《百々世草》などがあります。どれも綺麗で、そして楽しいんですよ。

神坂雪佳《ちく佐》より

神坂雪佳《滑稽図案》より

神坂雪佳《百々世草》より

雪佳はこうした絵画や図案以外にも工芸品や調度品の意匠を手掛けたりもしています。この《雪庵菓子皿》を展覧会場で見た時は、あまりに可愛らしくて可笑しくて、ついつい笑ってしまいました。

神坂雪佳 図案 河村蜻山 作《雪庵菓子皿》

この蒔絵の煙草箱《帰農之図蒔絵巻煙草箱》にしても、アートとか高級工芸品とかいうよりも、やはりユーモラスな味わいのあるとても温かみを感じさせる作品ですよね。

神坂雪佳 図案 神坂祐吉 作《帰農之図蒔絵巻煙草箱》

若冲光琳の気迫みなぎる作品もそれはそれで見応えがありますが、雪佳の作品の親しみやすさ、楽しさ、ある種の他愛のない美しさというのも、どこか心安らぐものを覚えます。神坂雪佳、ちょっと気にいっちゃったなあ。

もしもH・P・ラヴクラフトがバットマンを描いたら?『バットマン:ゴッサムに到る運命』

バットマンゴッサムに到る運命 / マイク・ミニョーラ (著)、リチャード・ペイス (著)、トロイ・ニクシー (イラスト)、森瀬 繚 (訳)  

バットマン:ゴッサムに到る運命 (ShoPro books)

時は1928年。世界各地を放浪していたブルース・ウェインは、行方不明になったゴッサム大学の遠征隊を捜索するため、南極のケープ・ヴィクトリアを訪れた。そこで一行を待ち受けていたのは、遠征隊員たちの死体と、異形の姿となって氷原を彷徨う教授、そして氷の中に閉じ込められた巨大な怪物であった。異常な事態を前に退却を余儀なくされた捜索隊だったが、それはさらなる悪夢の序章に過ぎなかった……。ゴッサムに災厄が降りかかる時、闇の騎士が立ち上がる!

ちょっと前に「バットマンVS.切り裂きジャック」というコンセプトのコミック『ゴッサム・バイ・ガスライト』が刊行されたが、バットマンの今度の敵はなんとあの「宇宙的恐怖」のクトルゥフ神なのだという。

そう、この『バットマンゴッサムに到る運命』は、「もしもH・P・ラヴクラフトバットマンを描いたら?」というコンセプトのもと、『ヘルボーイ』のマイク・ミニョーラがリチャード・ペイスと共に企画を立てたコミック作品なのである。クトルゥフ神といえばついこの間も「シャーロック・ホームズVS.クトルゥフ神」という小説『シャーロック・ホームズとシャドウェルの影』を読んだばかりで、なんだか妙にクトルゥフ神づいているオレであるがまあ深い理由はない。

さてこの『バットマンゴッサムに到る運命』、1928年が舞台という事になっており、つまりは「バットマン正史」から外れた「バットマンのifの世界」を扱ったものとなる。これはラヴクラフト小説の主な時間軸となっているのがこの時代だからという事なのだろう。冒頭にブルース・ウェイン南極大陸を訪れる描写があるが、これなどはクトルゥフ小説『狂気の山脈にて』を踏襲したものだ。

そしてこの南極大陸に眠っていたクトルゥフの邪神がゴッサム・シティに上陸し災いを成すというのがこの物語となる。物語にはバットマン・コミックの名物ヴィラン、ペンギンやミスター・フリーズトゥーフェイスラーズ・アル・グールなども登場するが、彼らは皆一様にクトルゥフ神に憑依され、名状しがたい相貌へと変身している様子もまた不気味さを盛り上げる。バットマンゴッサム・シティを守るため、これら人外と化した者たちと戦う事になるのだ。

しかしてこのバットマン、原作のミニョーラが「バットマンには興味は無い」と断言しているように、結構な部分において「バットマンらしさ」から逸脱することになる。もっさりしたコスチュームは「時代だから」で済ますことはできるとしても、バットマンが銃を持ち、これでもってヴィランと戦うなど正規のバットマンならあり得ないことだ。そしてあの唖然とするラストなどは、そもそもがバットマンに思い入れの無い者だからこそ作り上げられたのだろう。とはいえこの勝手放題なバットマン造形はそれはそれで面白い。

そしてやはり思うのは、これは『ヘルボーイ』のマイク・ミニョーラらしい物語であり、『ヘルボーイ』的オカルト展開をバットマンでやってみたのがこの作品だということなのだろう。そういった部分でバットマンである必然性に乏しい部分を感じるが、むしろ軸足はクトルゥフ神話にあったと考えればよいのだ。もともとがクトルゥフ好きのミニョーラの原作によるものだから、クトルゥフ神話としての面白さ、その不気味さなどはなかなかのものであったと思う。

映画『アムステルダム』はオールスター・キャストが何より楽しい作品だった!

アムステルダム (監督:デビッド・O・ラッセル 2022年アメリカ映画)

映画『アムステルダム』は1930年代のニューヨークを舞台に、深い友情で結ばれた3人の男女が殺人の濡れ衣を晴らすために奔走する!という物語なんですね。実話を元にした物語なのだそうですが、それは実は強大な陰謀に関わる事だったのです。監督は『アメリカン・ハッスル』『世界に一つのプレイブック』のデビッド・O・ラッセル

《物語》1930年代のニューヨーク。かつて第1次世界大戦の戦地で知り合い、終戦後にオランダのアムステルダムで一緒の時間を過ごし、親友となったバート、ハロルド、ヴァレリー。3人は「何があってもお互いを守り合う」と誓い合い、固い友情で結ばれていた。ある時、バートとハロルドがひょんなことから殺人事件に巻き込まれ、容疑者にされてしまう。濡れ衣を着せられた彼らは、疑いを晴らすためにある作戦を思いつくが、次第に自分たちが世界に渦巻く巨大な陰謀の中心にいることに気づく。

アムステルダム : 作品情報 - 映画.com

とはいえなにしろこの作品、物語云々への興味というよりも、よくもこれだけ集めたな!とびっくりさせられるほどの豪華キャストにそそられる作品なんですよ。

まず主演となる3人がノーラン版「バットマン」3部作のクリスチャン・ベール。『アイ・トーニャ』『ザ・スーサイド・スクワッド』の マーゴット・ロビー。『TENET/テネット』『ブラック・クランズマン』のジョン・デヴィッド・ワシントン。この3人だけでも十分凄いんですがそれだけじゃない。

他にもロバート・デ・ニーロ、アニャ・テイラー=ジョイ、ラミ・マレックゾーイ・サルダナマイク・マイヤーズマイケル・シャノンクリス・ロックテイラー・スウィフト、……と、「いったい何がどうしたらこんな豪華キャストにできるんだ」っていうぐらいとんでもないメンツなんですよ。いやもう一つの画面にクリスチャン・ベールマーゴット・ロビーとジョン・デヴィッド・ワシントンとロバート・デ・ニーロとアニャ・テイラー=ジョイとラミ・マレックが出てきたときにゃあ卒倒するかと思いましたよ(しませんけど)!

肝心のお話の方なんですが、とりあえず「巨大な陰謀が背後に横たわる殺人事件の嫌疑を晴らせ!」という事になっています。これは1933年に発覚した「ビジネス・プロット事件」をモチーフにしているらしいんですね。

ビジネス プロット(ウォール街の反乱やホワイト ハウスの反乱とも呼ばれる) は、1933 年にアメリカ合衆国でフランクリン D. ルーズベルト大統領の政府を打倒し、独裁者を設置するための政治的陰謀とされていた。退役海兵隊少将スメドリー・バトラーは、裕福なビジネスマンが、バトラーをリーダーとするファシスト退役軍人の組織を作り、ルーズベルト打倒のためのクーデターに利用しようとしていると主張した。(英文Wikipediaから機械翻訳

Business Plot - Wikipedia

映画の舞台となる1930年代は第1時世界大戦の後、第2時世界大戦の前。この両大戦間期ならではのきな臭い世界情勢が物語の背後にあるわけです。とはいえ、実際観てみるとこの粗筋から想像するようなスリルとサスペンス!といったものとは微妙に異なるんですよ。

この映画の要となるのはこういった物語性というよりも、《クセの強い主人公たちが薄気味悪い陰謀に関わってしまい、胡散臭い連中の助けを借りながら解決しようとするが、所々で「俺たちの友情!」と馬鹿の一つ覚えみたいに盛り上がって脱線し続ける》という「なんだか微妙に変な人たちの変なお話」なんですね。つまり俳優たちの「怪演」を見せ続けるのがこの映画の真の趣旨じゃないかと思うんですよ。

まずクリスチャン・ベール演じるバートは戦傷により義眼でコルセットなしではいられないボロボロの体をしています。マーゴット・ロビー演じるヴァレリー神経症持ちのエキセントリックなアーチストです。ジョン・デヴィッド・ワシントン演じるハロルドは普通ですが実はこの映画では黒人だけが皆普通です。この3人が頼るアニャ・テイラー=ジョイとラミ・マレックの演じる富豪夫妻は慇懃で気持ちの悪い連中です。マイク・マイヤーズマイケル・シャノン演じる諜報部員はひたすら胡散臭いです。こんな彼らが醸し出すスラップスティックさが作品の主眼だったんじゃないでしょうか。

物語的に言うなら途中までの謎めいた展開こそ引き込まれましたが、ラストの「真実を元にした顛末」に辿り着くまでが少々捻りに乏しく、締めくくり方にしても安直に感じる部分もあります。しかし出演者の存在感とコミカルな演出の良さがそれを帳消しにしてくれて、楽しい気分で劇場を出ることができました。