最近読んだコミック

■小犬のこいぬ/うかうか

小犬のこいぬ【電子限定特典付き】

小犬のこいぬ【電子限定特典付き】

 

Twitterで人気を呼んでいる”うかうか”さん(@nknk6164)の犬漫画である。マイペース過ぎるうえにちょっとドン臭く、いつも迂闊な行動に出て失敗してしまう、少々残念な「こいぬ」が主人公の漫画なのである。そしてなんだかやらかしてしまった「こいぬ」が「うわああああ」と悲痛な雄たけびを上げるさまを、「ありゃりゃ」と温かい眼差しで眺めつつ笑ってしまうのがこの漫画なのである。なんかこういう人いるよね、というか、自分もこんなことやらかして「うわああああ」とか言っちゃったことがあるよなあ、と思わせる部分に共感を感じるのだ。動物漫画ではあるが可愛いとか愛くるしいとかではなく、このしょうもなさを楽しむのである。

さらに、作品は1ページ読みきりなのだが、多くの作品においてオチらしいオチがなく、なんだか投げっぱなしで終わる新感覚なシュールさがいい。それと、失敗ばかりの迂闊な「こいぬ」ではあるが、周りのキャラ(犬)が最後にやんわりフォローしてくれるのがいい。優しい世界なのだ。そこがまたいい。それにしても、物語の多くが「食べ物」にかかわるお話で、とても食い意地の張った物語とも言え、そこがまた可笑しくていい。オレは好きだ。みんなも読んでくれ。

なお作者の”うかうか”さんは『貼りまわれ!こいぬ』という漫画もWeb連載しているので、こちらもドウゾ。諸星大二郎劇場 第3集 美少女を食べる/諸星 大二郎

諸星大二郎ビックコミックにおいて2019年から2020年まで掲載した作品を収めた短編集。ミステリアスなファンタジー作品が多いが、SF作品や諸星お得意の古代中国を舞台にした怪異譚も収録されている。とはいえ、う~ん、なんだか精度が落ちているというか、可もなく不可もなくといった作品ばかりで、かつてのような強烈な幻視を垣間見せる作品はない。もう諸星も結構なお歳だからなあ、描いてくれるだけでもありがたいか。 

アオイホノオ (24) /島本 和彦

アオイホノオ (24) (ゲッサン少年サンデーコミックス)

アオイホノオ (24) (ゲッサン少年サンデーコミックス)

  • 作者:島本 和彦
  • 発売日: 2020/12/11
  • メディア: コミック
 

ホノオ君、旅立ちの時である。大阪から東京に移り、いよいよ本格的に漫画を描くことを決意したのだ。青年はいつか旅立たねばなら無い時がある。そんなホノオ君の心情を、当時の大衆歌謡に合わせて描いてゆく様は 、同じ昭和生まれのオレ(ほぼ同い年)もなんだかしんみりしちまったよ。この作品の大きなクライマックスともいえる巻で、ここで終わったとしても十分なぐらいだ。続くんだろうけど。それにしても「男おいどん」の9巻が出て来たのは卑怯だぞ!

■食の軍師 (8)完/泉 昌之

食の軍師 8

食の軍師 8

 

泉昌之の食い歩きマンガ最終巻。最終巻とは言えテンションは相変わらず。今回のテーマは「ランチ」ということで東京のあちこちを練り歩いてランチに「食の陣」を敷いているトレンチコートの男である。そしてそこは泉昌之マンガ、多少高めの店に入ると構えちゃうし大衆的な店ではノリの乗って料理を注文する。オチに用意される宿敵力石との掛け合いも相変わらずで○。オレはランチも昼酒もしない人間だが、これは行きたくなっちゃう&飲みたくなっちゃう。最終巻なのが惜しいなあ。またどこかで会いましょう!

波よ聞いてくれ(8)/沙村広明

波よ聞いてくれ』8巻は2018年に起こった「北海道胆振東部地震」 をメインに据え主人公らがラジオ番組その他で奮闘する様が描かれる。だから結構シリアスである。バカな事ばっかりやっているように見えてこの作品では以前カルト教団を取り上げたこともあり、やはり沙村って根っこは血生臭いよなあと思わせる。後半はベネディクト・カンバーバッチ似のスケベ英国人が出てきて主人公を悩ませる(?)。 

ヴィンランド・サガ(24)/幸村誠

 「ヴィンランド・サガ」、この24巻目にして主人公らはやっと希望の地「ヴィンランド」を目指すことになる。いやあ、長かったなあ、そしてこれからも長いんだろうなあ。とはいえ、「ヴィンランド」が実は「北アメリカ」のことだということを知ったのはつい今さっき調べた時です、エヘ。 

■わらしのはなし/わだちず

わらしのはなし

わらしのはなし

  • 作者:わだちず
  • 発売日: 2018/07/25
  • メディア: コミック
 

アックスに2016~2018年まで連載していた連作短編を収めた作品集。2018年刊。作者がTwitterに掲載していたグラフィックに興味を覚えこの 作品集を読んでみた。このコミックにおけるグラフィックは絵本のような可愛らしくシンプルなものだが、しかしその内容は「死」を巡る此岸と河岸の物語であり、霧の様にぼんやりと灰色に溶ける「生への執着」と「孤独」が次第にもの悲しさを覚えさせる作品だ。可愛らしい画だがどっしりとした世界観を持ち合わせている。 

■時を超える影 ラヴクラフト傑作集(1)(2)/田辺 剛 

ラブクラフト傑作集」と銘打たれた田辺剛のコミックは全10巻でリリースされているが、オレはこれを思い出した頃にぽつぽつと買って読んでいる。田辺の描くクトルゥフ・コミックは非常にクオリティが高く、特にそのグラフィックにおける「異形のものども」や名状しがたい遺跡群の描写力、造形力が素晴らしい。そして当然だが、コズミック・ホラーとしての恐怖を余すところなく描ききっている。今回読んだ『時を超える影』はラブクラフト後期を代表する中編をコミカライズしたもので、太古に存在した謎の存在「イースの大いなる種族」「盲目のもの」を中心として語られることになる。 例によって狂ったおぞましい物語が展開しており、大いに楽しんだ。オレはこのシリーズを電子書籍で購入し、パソコンの大きな画面でグラフィックの迫力を堪能しながら読んでいる。シリーズはそのうち全巻揃えよう。

追悼 ジョン・ル・カレ/遺作となった『スパイはいまも謀略の地に』を読んだ

スパイはいまも謀略の地に/ジョン・ル・カレ(著)、加賀山 卓朗(訳)

スパイはいまも謀略の地に

追悼 ジョン・ル・カレ 

イギリスのスパイ小説作家、ジョン・ル・カレについては、オレはそれほど熱心な読者というほどではないが、一時は大いに心酔し、スマイリー・シリーズを始めとした作品群の、その迷宮の如き諜報の闇に大いに恐怖したものだった。冷戦終結後は小説テーマに興味が薄れ、彼の小説から離れていたが、ここ数年は『裏切りのサーカス』を始めとした映画化作の出来が良く、オレも再びじんわりとル・カレ熱が戻ってきていたのだ。

そのル・カレが亡くなったのだという。12月12日のことであったらしい。オレは丁度、彼の最新作であった『スパイはいまも謀略の地に』を読んでいて、そしてこの日に読み終わっていたのだ。最新作であったものが遺作を読む事になってしまったという訳だ。オレも長年沢山の作家の色々な本を読んできたが、こんな奇妙なタイミングに出くわしたのも初めてだ。享年89歳というから、まあいいお歳ではあったが、この遺作の完成度の高さを思い知ってみると、まだまだ活躍してもらいたかったという気持ちは否めない。

ブログのほうは少し休むつもりだったのだが、今日はル・カレの追悼を兼ねて、遺作となった『スパイはいまも謀略の地に』の感想を通し、ル・カレがその小説で何をテーマとしてきたのかを振り返ってみたい。

小説『スパイはいまも謀略の地に』

『スパイはいまも謀略の地に』は、アメリカで悪名高きトランプ大統領が権勢を誇り、イギリスではブレグジットで国家が二分されていた、近過去が舞台となった物語である。

主人公はイギリス秘密情報部(SIS)のベテラン情報部員ナット。引退間近となった彼は、スパイの吹き溜まりと化した〈ヘイブン〉という名の対ロシア活動部署に移転させられる。部署を建て直すため新たな作戦に従事するナットは、ある日趣味のバドミントン・クラブで、エドという名の若者と知り合う。そんな折、ロシアの大物スパイがイギリスで活動を始めた、という情報がナットの耳に入る。作戦はいつしか紛糾し、もつれ合った糸の中で、ナットは思いもよらぬ真実に突き当たってしまう。

前作『スパイたちの遺産』においてル・カレが描いたのは、かつて冷戦構造の中で、国家の大義のために”汚れ仕事”を遂行してきたスパイたちが、「我々のやってきたことは果たして正しかったのか」と煩悶する様であった。それは平和の名のもとに様々なものを犠牲にし尽くしてきたことへの悔恨だった。それは「戦後」というものへの批評であり、その只中にいたスパイたちの行為の虚無性を浮き彫りにした。では『スパイはいまも謀略の地に』では何を描こうとしたのか。それは国家の走狗として暗躍してきた「スパイ」たちの、その一個の人間としての個人性ではないだろうか。主人公ナットは引退間近であり、まだまだ第一線で活躍する能力はあるものの、スパイ稼業に固執する必要をもはや感じていない。なぜなら彼には家族があり、私人としての家族との生活があり、老年に達した今その家族との生活こそを第一義としていたからだ。そして物語で発覚する「ある事実」は、スパイであるナットと、個人であるナットに、ある判断を迫る事となるのだ。

国家と個人の狭間で

ル・カレのスパイ小説は、スパイという特殊な職業を通じ、国家と個人の狭間で魂を引き裂かれ蹂躙され続ける一個の人間を描いてきた。 彼らは二重生活と二重思考のなかで生きながら、「果実のように充実した一個の自己」として生きられないことの孤独と虚無を体現していた。その「スパイという生」に対する敗北宣言がまさしく『スパイたちの遺産』であったのだと思う。

しかし『スパイはいまも謀略の地に』におけるナットは、もはや「魂を引き裂かれ蹂躙され続ける一個の人間」ではない。彼には愛する家族がいるだけではなく、作戦の中で出会った様々な人間たちとの「個人としての」感情がある。さらに、新しく出会った友情がある。老練なスパイであるナットは、そこで「国家か個人か」の選択に逡巡せず、国家と個人の狭間を巧みに渡り歩く。ここに、「スパイの生という名の敗北」から一歩踏み出した、あるいは逸脱した、もうひとつの「スパイ/個人」像が描かれることになる。

かつて、国家とは巨大な一枚岩の如き〈冷徹なシステム〉であり、スパイたちは〈平和の名のもとに〉そのシステムに奉仕しながら、システムそのものが非人間的であるがゆえに、それに挽き潰されていった。その〈虚無〉が、ル・カレのスパイ小説だった。だが、この『スパイはいまも謀略の地に』において、アメリカにはトランプという名の愚昧な道化が鎮座し、イギリスはその道化の太鼓持ちを演じているばかりか、ブレグジットにより国家は分裂し無秩序と化していた。このような国家に、どのような大義と責務があるというのか。

そして物語は、形骸化したシステムから逃走する、〈個人という名の自由〉をそこに見出すことになるのだ。それは、ル・カレ小説の新たな一歩だったのかもしれない。そして遺作であることを鑑みるなら、「スパイそのものからの解放」が、この物語であったともいえるのだ。

スパイはいまも謀略の地に

スパイはいまも謀略の地に

 
スパイたちの遺産 (早川書房)

スパイたちの遺産 (早川書房)

 

『サイバーパンク2077』が発売されたのでしばらくブログを休みます。

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ゲーム『サイバーパンク2077』が発売されてしまったので1週間ほどブログ休みます。ただし年末はまとめ記事を上げたいので年内に戻ってきます。

ではまた~。 

 

ちなみにオレはストリートキッズの兄ちゃんでプレイしているよ!

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【PS4】サイバーパンク2077

【PS4】サイバーパンク2077

  • 発売日: 2020/12/10
  • メディア: Video Game
 

最近ダラ観した韓国映画あれこれ

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■サスペクト 哀しき容疑者 (監督:ウォン・シニョン 2013年韓国映画

うおおおお韓国映画『サスペクト 哀しき容疑者』が滅茶苦茶面白かったぞ!脱北した北朝鮮最高の特殊工作員が巻き込まれた巨大なる陰謀!緊迫の逃走劇と白熱するアクション、迫真のカーチェイス!次々に巻き起こる危機を卓越した戦闘スキルで乗り越える主人公!これは韓国版「ジェイソン・ボーン」だ!緊張感と共にスピーディーな爽快感もあり、残酷な運命を描いたものだけれど決して陰鬱な作品じゃない。ラストまで楽しませきっちり満足させる娯楽アクションだ!アクション好きは観れ!ニヒルな主人公も良かったけど警官役のガサツなオッサンもよかったなあ!これもオレの中の韓国映画ベストになりそうだ!

親切なクムジャさん (監督:パク・チャヌク 2005年韓国映画 

誘拐殺人事件の犯人として投獄されたクムジャさんが計画した壮絶な復讐劇とは!?韓国映画親切なクムジャさん』は綿密に計画された復讐を遂行するクムジャさんの透徹した意思に捻じ伏せられる作品であると同時にキリスト教社会韓国における一つの贖罪の在り方を描いた作品だとも言えるな。さらに美しい美術と撮影にうっとりさせられる。 

■江南ブルース (監督:ユ・ハ 2015年韓国映画

江南ブルース  通常版 【Blu-ray】

江南ブルース 通常版 【Blu-ray】

  • 発売日: 2016/03/30
  • メディア: Blu-ray
 

土地再開発に群がる政治家とヤクザの思惑の中でもがき回る兄弟の運命、韓国映画『江南ブルース』を観たけどウットリするぐらいいいじゃんかよ。俳優がいい、撮影がいい、音楽がいい。そして中盤、めくるめくような『ゴッドファーザー』オマージュが炸裂してるじゃんかよ!血みどろの抗争と腐敗した権力構造、やるせない家族関係を渇いた詩情で描き、高いドラマ性とロマンとを感じさせる傑作だった!オレはこういうのが好きなんだ!

■高地戦 (監督:チャン・フン 2011年韓国映画

停戦合意もままならないまま膠着する朝鮮戦争の泥沼を描いた韓国映画『高地戦』を観た!南北朝鮮軍が前線の”高地 ”を取ったり取られたりを繰り返し、そこで奇妙な交流が生まれる様はどこかシュールであり不条理劇めいたものも感じさせるが、それはこの戦争が「同胞同士の戦い」であり、だからこそ世界大戦やベトナム戦争とはまた違う悲劇性を帯びていたということなのだ。その一点において秀作戦争映画となっていると思う。 

■ビューティーインサイド (監督:ペク 2015年韓国映画

ビューティー・インサイド [Blu-ray]

ビューティー・インサイド [Blu-ray]

  • 発売日: 2017/07/04
  • メディア: Blu-ray
 

「朝目覚めると顔も性別も年齢も人種も違う人間になってしまう」 という青年が、一人の女性に恋をしてしまう。なにしろこの設定だけで秀逸なSF作品ともいえ、オレは名作SF短編『ここがウィネトカなら、君はジュディ』を思い出してしまったぐらいだ。「いつも違う人物になってしまう男」の恋は成就するのか?という前半は実にハラハラさせられたが、恋が成就してからの後半は飛躍も無く退屈なラブロマンスになってしまった部分が大変惜しい作品。 

友へ チング (監督:クァク・キョンテク 2001年韓国映画 

友へ チング Blu-ray

友へ チング Blu-ray

  • 発売日: 2016/02/17
  • メディア: Blu-ray
 

幼馴染の4人の男たちがそれぞれヤクザと真っ当な人間へと分かれながらも友情を忘れない、という話なんだが、本来なら別々の道に分かたれ出会う事のなくなるであろう者同士が「幼馴染」という名の「呪縛」と「親友/チング」という名の「呪文」から逃れられずにもがき苦しむ、というある種の「強迫観念」の物語のように思えてしまった。女は殆ど重要な役割が無く、ただ男たちのホモ・ソーシャルな呻吟と喘ぎ声ばかりが響き渡る映画。

トンマッコルへようこそ (監督:パク・クァンヒョン 2005年韓国映画

トンマッコルへようこそ [DVD]

トンマッコルへようこそ [DVD]

  • 発売日: 2007/03/02
  • メディア: DVD
 

朝鮮戦争の最中、山奥で道に迷った南北兵士たちが辿り着いたのは仙郷と見紛うばかりの美しい村だった……という物語。確執しあう南北兵士と戦争が行われていることすら知らぬ村人たちとの対比からはイデオロギーの無効化が描かれ、無原罪の地にある村は一つの理想郷として存在する。非常にアレゴリカルなファンタジーとして機能するこの作品は同時に冷徹なリアリティーをそこに差し挟むことで単なる夢物語として終わらせず、戦争の無意味さを鮮烈に浮き上がらせる。これもまたオレの韓国映画ベストに入る作品だな。 

母なる証明 (監督:ポン・ジュノ 2009年韓国映画 

母なる証明 [Blu-ray]

母なる証明 [Blu-ray]

  • 発売日: 2010/04/23
  • メディア: Blu-ray
 

殺人で起訴された息子を救うため死に物狂いで奔走する母の姿を描いたドラマ。実はオレが永らく韓国映画を避けていたのは、昔この作品を観て最初の30分で辟易したからだった。その時は貧困家庭にある不幸な母子が巻き込まれた暗い犯罪というベタなリアリズムに観ていてうんざりさせられたのだ。同時に主人公たる母子にイライラさせられたのもあった。しかし今回観て、そんな最初のイメージが覆された。まず物語がどうこういう以前に、撮影に独特の美しさがある。そこにまず引き込まれる。そして一見「強烈な母の愛」をテーマにしているように思わせて、この作品は実はそんな母の「盲愛」をアイロニカルに描いたものだということが分かってくる。なるほど、この突き放し方は家族主義的な韓国映画では異色なのではないか。善悪の彼岸を描くように見せかけて善も悪も無い濁った灰色のような結末も絶妙だ。やはりポン・ジュノ監督はどこかひとつ頭抜けた感覚を持った監督であることが伝わってくる作品だ。

駄菓子みたいなスリラー小説、ディーン・クーンツの『闇の眼』

■闇の眼 / ディーン・クーンツ

闇の眼 (光文社文庫)

雪のシエラ山中でバス転落。搭乗のボーイスカウト全員死亡…ラスベカスの舞台プロデューサー、ティナが一人息子のダニーを亡くしたのは1年前。が、ティナはまだその死を信じられずにいた。それて、傷心の彼女の身辺に次々と不可解な出来事が…子供部屋が荒らされ、黒板には“シンデハイナイ”のなぐり書き、コンピュータの画面には“ココカラダシテ”の文字…。―ベストセラー作家クーンツが放つモダンホラー

スティーヴン・キングの短編集2冊ととんでもなく長い長編上下巻2冊を読破し、非常に面白かったのは確かだが若干体力奪われ気味でもあったので、「次はちょっと軽めのヤツ読みたい……」と星に願いを掛けたオレなのである。すると空から『ハッピー・デス・デイ』みたいなお面を被った妖精さん( ↓ )が現れて「クーンツとか読めば。知らんけど」と投げやり気味にのたまったのだ。

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という訳でディーン・クーンツ作『闇の眼』である。クーンツといえば『闇のシャドウファイア』とか『ウォッチャー』とかが有名だが「読んだ後何も残らない」という評判もまた確かでかつてキングと並ぶモダンホラーの書き手とまで言われたことがあったような無かったようなホラー作家なのである。それでも以前、クーンツの『これほど昏い場所に』を読んだときはとても面白かったので、「じゃあ今度はクーンツ行ってみっか」と思ったオレなのだ。

物語の主人公はラスベガスで舞台演出家として成功した女性ティナ。しかし彼女は1年前、愛する我が子を雪山のバス事故で亡くすという悲しい過去を背負っていた。そんな彼女の身辺で異変が起きる。「シンデハイナイ」という文字が亡き息子の部屋やパソコンの画面で踊り、さらにはポルターガイスト現象まで起るのだ!いったいこれはなんなのか、悪質ないたずらなのかそれとも霊の仕業なのか?

とまあそんなお話であるが、「へえ、死んだ息子のメッセージにポルターガイストって、要するに幽霊とかそーゆーお話の心霊ホラーなのね」と思ってたら大違い、実はその背後には巨大な陰謀が!?という流れになってくる。こう書くと勘のいい人ばかりが揃ったオレのブログ読者の皆さんは「じゃあそっち系の話?」と思うだろうが実はその通りである。もう「陰謀」って書いちゃったしな!

でまあネタバレはしたくないんだがその「陰謀系」の流れがまた予想の域を出ないまま続く。「陰謀系」に出てきそうな人たちが現れあれやこれやと恐ろしいことをし、主人公ティナの命を脅かすんだがそこに助っ人参上!最初は「ティナの弁護士」として登場するこのおっさんは実は過去特殊工作員だった!?という『96時間』とか『イコライザー』とか『ジェイソン・ボーン』シリーズみたいな安易な驚愕の設定!?そしてまたもや予想通りの展開で突き進むクライマックス!?

といった具合で、実のところレヴュー書く必要も感じないある意味「書き飛ばし小説」といった内容ではある。お勧めもしないしこれ読んだら忘れてくれていい。しかしだ。そうは言いつつ、オレ、これ、結構楽しんで読んだんだよな。なんていうんだろう、ありがちな設定や展開とご都合主義で組み立てられた新味も何も無い三文お手軽サスペンスなんだが、だからこそ逆に安心して読めたという部分があるんだよな。気持ちよく読み飛ばせるんだよ。

それは主人公の不安や願い、人となりを(ありきたりとは言え)きちんと書いているからなんだよな。超絶的に面白いわけではないが途中でぶん投げたくなるほど退屈ではないんだよ。そもそも最後まで飽きずに読めたし、そういった作品を悪しざまに言うことはできないんだよなあ。なんか、世の中にはありません?駄菓子みたいにパクパク食べられてお腹に何も残らないけど、読んでいる間は楽しかったからいいんじゃない?みたいなそういう位置にある小説、物語ってのが。映画でもあるよな。なんだかそういう小説だったよ。

カルビー かっぱえびせん 85g ×12袋

カルビー かっぱえびせん 85g ×12袋

  • 発売日: 2019/07/22
  • メディア: 食品&飲料
 

ただ問題はこの小説の宣伝のされ方で、この作品って98年に書かれ日本では90年に刊行されたんだけど、96年に作中にある「ソ連製のウイルス」というくだりを作者が「武漢製のウイルス」に書き換えていて、それを今「新型コロナの予言だ!」とか言ってるのね。多分書き直しの点はソ連崩壊に合わせただけだと思うし武漢という地名はもともとウイルス研究所があったからでしょう。で、実際の物語も確かにウイルスの言及はあるけどパンデミックと何の関係もないのよ。要するに単なるこじつけでしかないので、アマゾンの紹介ページ読んでも誰も真に受けないでね!

闇の眼 (光文社文庫)

闇の眼 (光文社文庫)