ドアーズ、あるいは「死」という名の強迫観念

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ドアーズのボックス・セットを買った

ロック・バンド「ドアーズ」のボックス・セットを買った。ドアーズ、60年代中期から70年代初頭にかけてアメリカで活躍、ヴォーカルであるジム・モリソンのカリスマ性によりセンセ―ショナルな人気を誇ったバンドである。そしてそのジム・モリソンの死により伝説と化したバンドでもある。バンド・メンバーはジム・モリソン (Vo)、 レイ・マンザレク (Key)、 ロビー・クリーガー (G) 、ジョン・デンズモア (Ds)。

Doors - Collection Box Set (6cd)

Doors - Collection Box Set (6cd)

 

ドアーズとオレとの出会いは10代の半ばまで遡る。ちょっと長いが、このことを書いた過去のブログ記事があるので引用しておく。

ドアーズの曲を始めて聴いたのは10代の半ば、FMラジオの音楽番組でだった。多分雑誌か何かを読みながら流していたそのラジオから、異様な音楽が流れ始めたのだ。野太い声で絶叫するヴォーカルとドロドロと鳴り渡る演奏。これはなんだ?と慌ててラジカセ(そう、当時はラジカセが一般的だった)にカセットテープを突っ込み、録音を始めることにした。音楽が終り、DJは今の演奏がドアーズというバンドのライブであることを告げた。その音源は、既に発売されていたドアーズの『アブソルートリー・ライブ』というアルバムのものだった。ドアーズ、1965年結成、そして1971年、ヴォーカルであるジム・モリスンの死により、活動を停止したバンドである。

当時の、10代の頃のオレにとって、ドアーズの魅力とは何か?というとそれはヴォーカルであるジム・モリソンの礫岩の様に荒々しく激しくザラザラとした歌声、その彼が表出させる濃厚な死の匂いとあたかも彼岸の情景のような美しく危険な幻惑性、それを引き立てるアメリカの荒野を想起させるが如き乾ききった音を出すバンド演奏だった。なにより、ジム・モリソンの書いた歌詞、その詩の世界が圧倒的なまでに心を鷲掴みにした。オレはあの頃、彼の書いた詩に感化されて、自分も詩を書いていたぐらいだった(黒歴史)。

ジム・モリソンはドアーズとしてライブ作品を含む7枚のアルバムを発表したあと、1971年7月3日、27歳という若さで謎の死を遂げる。当時、ブライアン・ジョーンズ(69年没)、ジミ・ヘンドリックス(70年没)、ジャニス・ジョプリン(70年没)といったロック・スターがどれも27歳で死没していたことから「27クラブ」という言葉まで作られた。あのカート・コバーンも94年、27歳で死没している。実の所、単なる偶然でしかないのだろうが、「死」というのはかつて生きていた時のその存在を神格化させる。ジョイ・ディヴィジョンイアン・カーティスもそうだ。彼は80年、23歳没だが。このジョイ・ディビジョンはある評者に「80年代版オルガン抜きドアーズ」と言われていた。

「死」にまつわる強迫観念

死の匂いというのは人を惹き付ける。それは生けとし生ける者にとって最大の恐怖であると同時に最大の謎だからだ。その感情はあまりに強烈だからこそ強迫観念化する。

オレは以前、目前で鉄道自殺を目撃したことがある。朝の通勤時間、その若い男は列車がホームに入ってくる寸前、ホームから線路にぴょんと飛び降り、あらかじめ予定してたかのようにうつぶせになって線路に身を横たえた。オレは目の前でそれを見て「ああ、こいつは今まさに自殺しようとしているのだな」と奇妙に冷静に理解した。だからこそ、急ブレーキを掛けた電車が線路上の彼の上を通ろうとするまさにその時は顔を背けた。その瞬間に、電車待ちをしていた大勢の人達は騒然となって身を固まらせていた。だがオレは「電車は暫く動かないだろうからここを抜けて会社に行く別ルートを探そう」と思い、さっさと駅の改札を抜けることにした。誰もが皆凍り付いて動けなくなっている中を、オレ一人が駅の階段を上っていた。その時改札の駅員に「自殺がありましたよ」と告げたのも覚えている。この時の、異様に覚めていた自分が今でも奇妙でしょうがない。自分はこういうメンタルの人間なんだな、となぜだか再発見した。

しかし、会社が終わり、電車に乗って再びこのホームに降り立った時、オレは吸い寄せられるようふらふらとあの男がホームから飛び降りた場所へ向かったのだ。事故のことなど何も知らない多くの乗客が足早に歩く中、オレはその場所に立ち尽くし、誰とも知らないその男が死んだ場所を、30分近くも見つめ続けていた。何か、強力な磁場に吸い寄せられるようだった。死、というのは、あまりにも容易く、簡単なものなのだな、と思った。今まさにこのオレが、あの男と同じように死ぬのも、容易く、簡単なものなのだと思えた。そしてそこでオレはふと我に返った。これが、目の前の死、という強烈な体験が生み出した強迫観念なのだな、とその時理解した。理由の不明な後追い自殺というのもこうした強迫観念が理由なのだろうということも。

ドアーズが高い評価を得ていたのは、別にジム・モリソンの死があったからだけではない。同じように、ジョイ・ディヴィジョンが評価を得ていたのも、イアン・カーティスの死があったからだけではない。彼らは独特の音楽性があったらばこそ評価されていたのだ。しかしドアーズにしてもジョイ・ディヴィジョンにしても、活動中に製作されたその作品の中に、濃厚な死の匂いが横溢していたのは否めない。それは彼らにとって、ひとつの強迫観念として内在するものだったのではないか。そして強烈な死への希求は、同時に、強烈な生への希求の裏返しでもあるのだ。その生と死との輪郭が鮮やかに際立っていたからこそ、彼らの音楽は神格化されたのだろうと思う。

ドアーズのアルバムへの一口コメント

話が思いっきりヘヴィーな方向へ振り切ってしまったので、ここで話を変えて、ボックス・セットに収められているドアーズのアルバムについてそれぞれ一口コメントを付けてお茶を濁したい(なおアルバムのリンクは50thアニバーサリーとかありますが、ボックス・セットの中身は単なる通常版です。お間違いの無きよう)。

The Doors

とりあえずロック史に残っちゃうであろうドアーズの1st。「Break on Through」「Soul Kitchen」「Crystal Ships」「Light My Fire」と名曲が目白押しで、ここにドアーズの全てが詰まっていると言っても過言ではないだろう。映画『地獄の黙示録』で使われた「The End」も収録。10代の頃はこの曲ばかり延々聴いていた根暗な少年だったオレ。

◎Strange Days

1stアルバムと双璧をなす名盤の誉れ高い2nd。中でも延々ドロドロと演奏される「When the Music's Over」は「The End」に匹敵するドアーズの代表曲であり名曲だろう。「Moonlight Drive」「People are Strange」も好きだなあ。ジャケットのフリークさもいい。

◎Waiting For The Sun

WAITING FOR THE SUN (EXPANDED EDITION) [2CD] (50TH ANNIVERSARY)

WAITING FOR THE SUN (EXPANDED EDITION) [2CD] (50TH ANNIVERSARY)

 

初のアルバム1位、「Hello, I Love You」というナンバーワンヒットを収録した3rdアルバムだが、1st、2ndと比べると音楽的には失速、演奏も凡庸で、惰性で作られたような印象すらあり、あまり好きなアルバムではないんだよな。

◎The Soft Parade

Soft Parade

Soft Parade

 

ヒット作「Touch Me」収録、他にもホーン・セクションやストリングスを取り入れテコ入れ図ったポップな4作目だが、 これが「音楽の作り方忘れちゃったんじゃないのか?」と思ってしまうような退屈極まりない凡作。きっとジム・モリソンが酒に溺れすぎて適当に作ってしまったのに違いない。

◎Morrison Hotel

Morrison Hotel by The Doors (2013-03-26)

Morrison Hotel by The Doors (2013-03-26)

 

パッとしない前作の反省からか、もう一度原点回帰して製作された5作目は結構な佳作で、1曲目「Roadhouse Blues」からゴリゴリに荒々しいドアーズが聴けるのが嬉しい。 「Waiting For The Sun」はドアーズらしい荒っぽさと幻想味の同居した曲、そして何より「Indian Summer」の限りない美しさ、これがまた本当に素晴らしい。演奏も堅実。

◎L.A.Woman

L.A.ウーマン(40周年記念エディション)

L.A.ウーマン(40周年記念エディション)

 

ジム・モリソンが生前最後に参加したドアーズのアルバム。この後残されたメンバーで2枚のアルバムが発表されているが、実質ドアーズのラスト・アルバムだと認識していいと思う。そしてこれが1st・2ndに匹敵する名盤なのだ。殆どの曲が一発録りに近い形式での録音というが、そのせいかタイトで疾走感に溢れた曲が多く、特にタイトル曲「L.A. Woman」は消失点へと突っ走っていくような軽快さと凄味に満ちた曲だ。そしてなんと言ってもラスト曲「Riders on the Storm」。雷雨のSEで始まるこの曲の、たゆたうような寂寥感と孤独感はジム・モリソンの死を予感させてなお一層の哀惜を感じる。

その他

なおボックス・セットは6枚のオリジナル・アルバムが収録されているが、他にジム・モリソン存命中のライブ・アルバムとして『Absolutely Live』がリリースされている。このライブもいい。

Absolutely Live (Remastered)

Absolutely Live (Remastered)

 

他にジム・モリソンの死後、生前彼が録音していた詩の朗読にドアーズのメンバーがオケを入れた『American Prayer』というアルバムも素晴らしい。ジム・モリソンの詩の世界をたっぷり堪能できる。ジム・モリソン・ドアーズの(ライブを含めた)8枚目のアルバムという位置づけすらできる作品だ。

アメリカン・プレイヤー

アメリカン・プレイヤー

 

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