バンドデシネ・アーチスト、バスティアン・ヴィヴェス特集:その1『年上のひと』

■年上のひと/バスティアン・ヴィヴェス

年上のひと (トーチコミックス)

バスティアン・ヴィヴェスといえば新進バンドデシネ・アーチストとしてかねてから注目を浴びる作家だが、オレは格闘ファンタジーコミック『ラストマン』でしか名前を知らなかった。で、それ以外の作品にも触れてみようということで日本で刊行されている彼の作品をまとめて読んだ。という訳で当ブログでは今日から4日間、バスティアン・ヴィヴェスの作品を集中して紹介する。まず最初は最近刊行された『年上のひと』。

物語はフランスの避暑地を舞台に、ヴァカンスでそこに滞在することになった13歳の少年アントワーヌと16歳の少女エレーナとのひと夏の恋を描いた作品だ。まだ少年でしかないアントワーヌにとって、ちょっと大人びた少女エレーナは最初姉のような存在であり、それが次第に友人となってゆき、後に恋人のような関係へと発展してゆく。この「ちょっと甘酸っぱく、そしてほろ苦い」ティーンの初恋を、優しく暖かな空気感に満ちた風光明媚なロケーションの中、瑞々しい筆致で描いたのが本作である。

まあしかしこう書くと実も蓋もないのだが、これはフランスと言うお国柄なのか10代の少年少女とはいえ想像以上にセクシャルな面において進んでいて、その辺実に「青い体験」な描写が後半に進むほど描かれることになるのだが、これがいやらしく感じさせること無く、むしろそれによって強烈な精神的結びつきを得てしまった二人の、いわく言いがたい切ない想いが物語全体を染め上げてことになるのだ。

こういった作品性を可能にしているのはなんといっても作者スティアン・ヴィヴェスの描くグラフィックの、力の抜けた流れるような描線と、省略が多い淡白とすら感じさせる画面構成の在り方によるものが大だろう。要は、「描かれるもの(物語)」ではなく「描き方(見せ方)」なのだ。そのグラフィックの軽やかさにより、この物語は切なくもあると同時に美しい余韻を残した作品として完成している。シンプルなテーマゆえに掌編といった風情ではあるが、 スティアン・ヴィヴェスの力量を確かめることのできる作品である。