ブチ切れ除雪作業員の復讐大作戦!?/映画『スノー・ロワイヤル』

■スノー・ロワイヤル (監督:ハンス・ペテル・モランド 2019年アメリカ映画)

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麻薬売買にまつわる事件に巻き込まれ殺された息子の敵を討つため、一人のオッサンが立ち上がる!という映画『スノー・ロワイヤル』でございます。

息子を殺された親父というのをリーアム・ニーソンが務め、「おお!これは『96時間』的な「実は親父はCIA工作員!」とか「名うての殺し屋!」みたいな無双映画なのか!?」と一瞬思わされますが、今回のリーアム父さん、CIAでも殺し屋でもなく、普通に単なるオッサン!強いて言うなら街から模範市民賞を貰っちゃうような真面目な男で、お仕事は除雪作業員!おいおい大丈夫なのか!?除雪車で凶悪マフィアに太刀打ちできるのか!?と心配になってきちゃいますな!

主人公が除雪作業員ってェぐらいですから舞台はロッキー山脈の麓となる大豪雪地帯の街、その名はキーホー。ここで主人公ネルス(リーアム父さん)は家族と幸福に暮らしていましたが、ある日麻薬絡みの事件のとばっちりを受け息子が殺されてしまいます。怒りと悲しみに心を引き裂かれ復讐の鬼と化したネルスは一人また一人と関係するマフィアを屠っていきますが、一方、部下を次々に殺されたマフィアのドンは敵対勢力の仕業と勘違いし、その組織に報復攻撃、いつの間にかマフィア同士の大抗争にまで発展してしまいます。錯綜する状況の中、ネルスの復讐は貫徹されるのか!?

とまあこんなお話なんですが、「普通の除雪作業員だけどオジサンがんばっちゃう!(復讐を)」とばかりに緊迫のスリルとサスペンスがつるべ打ちになった殺戮劇が展開するのか!?と思わせつつ、物語はなんだか妙に脱力したテンポとポカーンとさせられそうなシチュエーションに包まれながら斜め上方向へと脱線してゆくんですな!そう、実はこの『スノー・ロワイヤル』、「おっさん無双映画」と思わせておきながら、その正体は「奇妙なセンスで構成されたブラックユーモア怪作」だったのですよ!

単なる一般市民なのにもかかわらず妙に淡々とかつ律義にマフィア構成員抹殺を続けてゆく主人公ネルスのそこはかとないサイコパス風味はもとより、マフィアの大ボスのイキり過ぎて逆に失笑を買ってしまうキャラクターも実にマイルドだし、その構成員たちもどことなく緊張感が薄く、勘違いから敵対することになった相手というのがネイティブ・アメリカン・ギャングだという部分もなんだか奇妙で可笑しいんです。物語の鍵を握ることになるマフィアボスの小さな息子というがこれまた天真爛漫で緊張感皆無、総じて全員遣る気は満々なんだけどなんだか上滑りしまくっている、というのがこの物語なんですな。

物語の見せ方も独特です。通常ならカットしているような間延びしたシーンや物語に直接関係の無いようなシーンや会話をちょくちょく挿入し、脱力した方向へ脱力した方向へとお話を誘ってゆくのですよ。ある意味ちょっとデヴィッド・リンチ作品を思わせる部分さえありましたね。一応地元警察というのも出てきて事件捜査したりもしますが、これが物語展開にも事件解決にも何の役にも立っておらず、じゃあ何のために出てきたかというとお話を賑やかにする為の一要員だった、というのもまた無意味で楽しい。

実はこの作品、2014年公開のノルウェースウェーデン合作映画『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』という作品のリメイクなんですが、この『スノー・ロワイヤル』自体が同じ監督ハンス・ペテル・モランドのセルフリメイクなんですね。彼自身はノルウェーの出身なんですが、作品全体に立ち込める妙なセンスと妙なテンポというのは、案外監督の持つ北欧らしいセンスという事なのかもしれませんね。ま、北欧のことよく知らないで思い付きで言ってるんですが、意外とそんなことなんじゃないのかなあ?なにしろ止み付きになりそうな変な作品なので一度ご覧になってみるのもよろしいかと思います。

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