『ゲーム・オブ・スローンズ』原作者ジョージ・R・R・マーティンの『ナイトフライヤー』はエゲツナイSF短編集だったッ!?

ナイトフライヤージョージ・R・R・マーティン

ナイトフライヤー (ハヤカワ文庫SF)

最近のアメリカTVドラマで最大の話題となったのは『ゲーム・オブ・スローンズ(GOT)』最終章の公開でしょう。いやー『GOT』、オレも大好きなシリーズでしてねえ、一応シーズン7までは観てるんだが最終章であるこのシーズン8はまだ観ていません。課金無しになってからでもいいだろうというセコイ理由からなんですが……。

その『GOT』の原作ファンタジー・シリーズ『氷と炎の歌』の原作者となるのがジョージ・R・R・マーティン。今回紹介する『ナイトフライヤー』は彼のSF短編集で、表題作はNetflixでドラマ化されているから観たことのある方・タイトルだけでも知ってる方も多いでしょう。この短編集は作者の第5短編集であり、オリジナルの刊行は1985年、収録作は6編となります。

で、まあ、読んだ感想なんですがね。

いやあ、エゲツナイ話ばっかりだったなあ。

考えてみりゃあ『GOT』のナニが面白いって、そのエゲツなさじゃないですか。もうちょっと平易な言葉を使うなら苛烈さとか情け容赦なさってことなんだけど、まあなんていうか、性格悪いっちゅうか性格暗いっちゅうか、登場人物を虫みたいに徹底的に追い詰めてウシシ……と笑っているような厭らしさがある。そういや以前読んだ彼の短編集『サンドキングス』や『洋梨形の男』も心根の暗さが見え隠れするイヤったらしい話ばっかりだったことまで思い出したぞ。

まず表題作ナイトフライヤー。太古から航行する謎の異星人宇宙船を調査するため宇宙船ナイトフライヤーに乗り込んだクルーが次々と惨殺されてゆく、というSFホラーなんだが、まあ途中から真相は想像付いちゃう。しかしこの「真相」なんぞよりも作者が描きたかったのはクルーが一人また一人と惨たらしく殺されてゆく様子なんだろうなあ、という気が如実にします。それに、そもそもこのお話、「謎の異星人宇宙船」関係ないやん。密室化した宇宙船内の連続殺人ということなら映画『イベント・ホライズン』のほうがSFホラーに振り切ってたし犯人推理ではムア・ラファティのSF長編『六つの航跡』 のほうがまだ面白い。で、この内容でページ数が200ページ近くと無意味に長い。そもそもジョージ・R・R・マーティンというのは描写がクドイ作家だが、この短編でもクドさ炸裂といった所か。

『オーバーライド』。異星の鉱石採掘にまつわる一悶着を描いたものだが、ここで採掘に使役されるというのが【屍人】。いやーなにも銀河の星々を経巡るテクノロジーが存在する世界でわざわざゾンビ使うのかよ。別にロボットでも異星生物でも構わんだろこれ。作者【屍人】を出して屍人屍人言いたかっただけだろ?

『ウィークエンドは戦場で』。戦争がレクリエーションとなり本当に殺し合いを行うという未来で嫌々戦場に行く羽目になった男の不条理劇。この主人公というのが言葉の汚い下品でさもしい男で読んでてうんざりさせられる。要するにエゲツナイ。ていうか嫌なら最初から行くなよ?

『七たび戒めん、人を殺めるなかれと』。異星において原住民族を大量殺戮に追いやる軍事教団とそれを阻止しようとするある商人の話。まあ要するにネイティブアメリカン迫害のSF版なんだろうが、冒頭の屍累々の描写から既にエゲツナイ。はいはいマーティンちゃん殺戮死体いっぱい描きたかったんだね。そして軍事教団とかいう連中が単なるキチガイ。あーマーティンちゃんキチガイ描写も好きなんだあ。

『スター・リングの彩炎をもってしても』。どことも知れぬ【虚無】に繋がったワームホールを観測するチームの話。主人公はこの【虚無】に魅せられてしまうが、なにしろこんな性向が既に性格暗い。ある意味実存的不安の投影といえるけれども、そーゆーのはな!書生の時分にやっとけッ!

『この歌を、ライアに』。太古から存在するある宇宙種族は一定の年齢に達すると全員が寄生生物に食われる自殺を選ぶ宗教の信奉者で、主人公はその理由を調べに来た地球人カップル。まあこの冒頭の設定だけで既にオチが読める。マーティンちゃんがエゲツナイ方向へエゲツナイ方向へと話を引き摺って行きたい様子がオレにはありありと見えたからだ。この物語でもいわゆる実存的不安が描かれるわけだが、こーゆーのってさあ、キリスト教史観に毒された欧米白人独特のもんじゃないのか。解説を読んだらマーティンちゃんはもともと敬虔なカトリックの家庭で生まれて今は無神論者らしいが、子供の頃に刷り込まれたおっかない耶蘇教の話におしっこちびらせてたんだろうなあ。物語自体はインド・マヌ法典が定めるバラモン階級老齢者の準則、家族や世俗を捨て林住や遍歴を行う(そして野垂れ死ぬ)決まりにちょっと似てるかなと思ったな。

とまあ性格暗い・エゲツナイが綴れ織りになったマーティンちゃんの珠玉の短編集、ほぼうんざりしながら読まされたが、『GOT』最終章は楽しみにしてるよ!

ナイトフライヤー (ハヤカワ文庫SF)

ナイトフライヤー (ハヤカワ文庫SF)