地獄は愉快なアミューズメント・パーク/映画『神と共に 第一章:罪と罰』

神と共に 第一章:罪と罰 (監督:キム・ヨンファ 2018年韓国映画

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人命救助中に命を落とした消防士ジャホンの前に現れた3人の男女。彼らは冥界で裁判を受けることになるジャホンの弁護士と護衛者だった!彼らに随行し地獄の7つの裁判を受けることになるジャホン。生前善人として生きていたジャホンだったが、地獄の裁判は情け容赦なく彼の過去を暴く。それだけではない。怨霊と化したジャホンの肉親が、現世と冥界にとてつもない猛威を振るい始める。果たしてジャホンの判決は如何に!?

ハイ。韓国映画『神と共に 第一章:罪と罰』です。物語の大枠は死んだ人間が冥界において生前犯した罪の審判を受ける、という、数多の宗教で取りあげられる「地獄と死後の世界」の物語です。「今時地獄とか審判とか抹香臭い題材で映画一丁上りって、いったいどこの新興宗教映画?」と思われるかもしれませんが、実はそれだけの映画ではありません。

まずこの作品、VFXで想像力たっぷりに作り込まれた7つの地獄のヴィジュアルが楽しい!7つの地獄はそれぞれ火・水・鉄・氷・鏡・重力・砂といった代表的なエレメンタルによって構成され、次々と登場するそれら地獄の様相は確かに恐ろしげではあるにせよ、逆に7つの異世界をかわるがわる見せられているような驚くべき光景に満ち溢れておるのですよ。それはあたかも死と幻想に彩られたアミューズメント・パークの如き情景なんです。

主人公ジャホンと冥界の使者たちはそれら地獄とその道行きの中で様々な困難や襲撃に出遭い、戦い抜きながら次の地獄を目指すのです。つまり冥界なんですがアクション・シーン満載!ということなんですね。こういった地獄のヴィジュアルのみならず、そこに登場する地獄の官吏たちのそれぞれに違う凝った衣装がまた楽しく、そのデザイン性の高さに思わず「フィギュアがあったら欲しい!」と思わせたぐらいです。

さらに現世にジャホンと所縁のある者の怨霊が現れ、その凄まじい怨念が冥界の裁判にまで影響を及ぼします。冥界の使者はこれを阻止するため現世へ飛び、ここに怨霊対冥界の使者との超絶的な戦いが繰り広げられるのですが、ここにおける地を駆け宙を飛ぶ壮絶なアクション・シーンはあたかも『マトリックス』もかくやと思わせる重力無視のぶつかり合い!冥界の使者たちがロングコート的なコスチュームなのでなおさらそう感じさせます。

そういった中で描かれるのは主人公ジャホンの秘められた過去であったり決して明かすこと無かった思いであったり、家族に対する深い愛情とそれをきちんと示すことの出来なかった悔恨であったりします。ここで描かれるジャホンの数奇な生い立ちとそのドラマは物語を単なる道徳説話やVFXアクションのみのものに留めていません。また、物語には兵役中のジャホンの弟の軍隊生活も登場し、徴兵制国家韓国の一端を垣間見せたりもします。

こうして物語は終局へと突っ走りある結末を迎えるのですが、実はこの作品はまだ第一章、続く『第二章:因と縁』で物語の真の全貌が明らかにされるようです。なんでも話によるとこの第二章、「まさかまさかの怒涛の展開」を見せるのらしく、第一章の面白さのさらに上を行く物語が楽しめそうです。言ってみれば『バーフバリ』の第一章と第二章のような関係でしょうか!?

ところでこの作品における「7つの地獄/罪業」というのはそれぞれ「殺人、不義、暴力、怠惰、嘘、裏切り、天倫(親に対する不実)」に分かれます。なんだか日本人の知ってる地獄とちょっと違いますね。日本の仏教における地獄の劫罰は「殺生、盗み、邪淫、飲酒、妄語、邪見、犯持戒人、父母・阿羅漢(聖者)殺害」の8つになります。ついでにキリスト教における7つの大罪は「傲慢、貪欲、邪淫、憤怒、貪食、嫉妬、怠惰」。さらにインドのマヌ法典では21種類もの地獄が列挙されてるんですよオクサマ!?やっぱインド人ハンパねえ!?

それぞれ宗教が違えば罪業となるものも変わってくるものなのでしょうが、韓国における仏教と日本のそれが違うのは、韓国仏教には多大に儒教的要素が加味されているからなのでしょうね。文化によるそういった「何を尊び何を罪と考えるか」の違いを顕した部分でも面白い作品でした。

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