粛清!粛清!また粛清!/映画『スターリンの葬送狂騒曲』

スターリンの葬送狂騒曲 (監督アーマンド・イアヌッチ 2017年イギリス・フランス映画)

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いやー【粛清】、コワイ言葉っすよねー。専制的な独裁国家がたてつく連中を芝刈り機で芝刈り取るみたいに右から左へ大量に逮捕!監禁!暴行!殺戮!しちゃうってェんですからね。歴史上幾多の粛清が行われ幾多の惨たらしい行状が成され幾多の命が奪われたのか、考えただけで具合が悪くなってきそうです。この文章書く前にちょいと粛清の歴史を調べようとWikipedia先生のページに行ったんですが、どうにも膨大過ぎてその血生臭さに怖気立ち途中で見るの止めたぐらいです。

そして!粛清と言えばこの人、その悪逆非道さで人類史に名を残すヨシフ・スターリンンさんでありましょう。なんたってアナタ、この人のやった粛清はとんでもなく大規模過ぎて単なる粛清じゃなく【大粛清】と特別に名前が付いているぐらいなんですよ。スターリンさんと配下の秘密警察による大粛清で殺害された人の数は100万人とも言われ、さらに強制収容所や農業政策の失敗で死亡した人が2000万人、第2次大戦の戦死者まで入れたらスターリン体制化の死者は1億1000万人になっちゃうなんて計算もあるらしいですね。これが日本だったら人口が空っぽになっちゃう数ですが、実際当時のソ連の人口統計を見ても気持ちの悪いくらい人間の数が減っているのだそうです。

そしてこんな【恐怖の大魔王】みたいなスターリンさんが死んじゃった!?おいおいどうしたらいいんだ!?と側近連中が上を下への大騒ぎを演じちゃう、という史実をもとにしたブラック・コメディ作品がこの『スターリンの葬送狂騒曲』なんですね。主演はスティーブ・ブシェミ、サイモン・ラッセル・ビール、オルガ・キュリレンコ、ジェフリー・タンバー。この作品、あまりにブラック過ぎてお膝元であるロシアでは上映禁止になったという話があるぐらいですが、製作はイギリスとフランスになっています。原作は ファビアン・ニュリとティエリ・ロビンによる同タイトルのグラフィック・ノベル作品。

お話はまず今日も粛清し放題でルンルン状態のスターリンさんと逮捕監禁拷問虐殺をスキップ踏みながらやってのける(まあ映画ではスキップしてませんが)秘密警察の皆さん、そしてそのスターリンに怯え毎日を戦々恐々として過ごす国民たちとが描かれます。しかーし!そんなある日スターリンさんは自室で脳卒中を起こしぶっ倒れちゃうんですね!

部屋の前で警備していた兵士たちは「なんか今(ぶっ倒れたような)変な音しなかった?」と気付きますがスターリンさんの邪魔しちゃあ処刑されるってんで部屋を見もしません。翌朝メイドのおばさんが小便垂らして昏睡してるスターリンを見つけソビエト連邦共産党の幹部たちが集まってきますが、「とりあえず医者呼ばなきゃ」と思うものの、有能な医者は全員粛清しちゃってるから医者を呼ぶことができないんです(これ、ネタじゃなくて実話)!そしてあれよあれよという間にスターリンさんは死んじゃいます。

スターリンの死の床に集まった幹部の名はフルシチョフスティーブ・ブシェミ)、ベリヤ(サイモン・ラッセル・ビール)、マレンコフ(ジェフリー・タンバー)、モロトフマイケル・ペイリン)、ミコヤン(ポール・ホワイトハウス)。彼らは絶対的独裁者の死を悲しむのと同時に、これからの政権争いを胸中で画策しながら、お互い虚々実々の駆け引きを開始するんですよ。

一応主演となるのは後にソ連の政権を握ることになるフルシチョフ党書記を演じるスティーブ・ブシェミなんですが、あの情けない骸骨顔にさらにつるっぱげメイクをして登場してくるので見た目のセコさもひとしおです。そして主人公とは言えなにしろフルシチョフ、政敵を蹴落とそうとあの手この手のエグイ手段を使って事態を掌握しようとする食えないヤツなんです。

その政敵というのが第一副首相ベリヤ。このベリヤさん、スターリン大粛清の主要な執行者だった人なんですね!テキパキと大量殺戮の陣頭指揮を執っていた忠誠心篤いベリヤさんですが、スターリンが死んじゃった途端に「粛清止めよう」と脱スターリン化を図るんですから歴史とか人間とかホント不思議なものです。一応スターリン死後の最高責任者となったのはマレンコフ首相なんですが、こいつがハリボテみたいな木偶の坊でいつも右往左往ばかりしており、実質的にはベリヤさんが最高責任者として動いていたんですね。

あとまあ他の幹部もあれこれいますが、どれも「勝ち馬に乗ろう」と虎視眈々としている「洞ヶ峠」な日和見主義者ばかり、フルシチョフが優勢と見るとわっとベリヤを裏切り糾弾に走る様は理想も信念も無く、ただ保身と既得権益をひたすら手放すまいとするだけの愚鈍な政治家ぶりをみせてくれます。

こういったスターリン政権時代のおぞましさ、その死後の幹部たちの醜い政権争いの様子を、スターリンの葬儀を中心としてスラップスティックに描いたのがこの『スターリンの葬送狂騒曲』となるわけです。リアルに描こうとするなら相当血生臭く陰鬱極まりないものになるだろう所を、イギリス人監督がイギリスらしいブラックさとクレイジーさで描いた所に面白さがありましたね。同じく実在の独裁者を主人公に据えた『帰って来たヒトラー』という映画もこれまたブラックでオレはたいそう好きなんですが、『帰って来たヒトラー』が歪んだヒトラーの目から歪んだ現実を炙り出していたように、この『スターリン~』は旧ソ連の醜い政権争いを通じて現代の政治世界に跋扈する魑魅魍魎たちの愚劣ぶりを嘲笑おうとする作品の様に思えました。


『スターリンの葬送狂騒曲』予告編

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