タフでアクティヴなリスベットが活躍するシリーズ続編/映画『蜘蛛の巣を払う女』

蜘蛛の巣を払う女 (監督:フェデ・アルバレス 2018年アメリカ映画)

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■映画『ドラゴン・タトゥーの女』の続編はキャスト一新!?

世界的大ベストセラーミステリをデヴィッド・フィンチャー監督により2011年に映画化した『ドラゴン・タトゥーの女』はスウェーデンの凍てついた大地で起こる寒々しい事件を題材にしたダーク際まり無い北欧ノワールだったが、同時にリスベット・サランデルというユニークかつエキセントリックなキャラクターを登場させたことで衆目を浴び、大ヒットした作品だった。

永らく待たされていたその続編がいよいよ公開となりオレも興奮したひとりだが、その予告編を観た時思ったのは、多分誰もと同じように、「えええ~~~ッ!?リスベット役はルーニー・マーラーじゃないのおおお~~~ッ!?」ということだった。なにしろそれほどルーニー・マーラー演じるリスベットは個性的で傑出したキャラだったのだ。

ルーニー・マーラーのみならず、主人公ミカエルを演じたダニエル・クレイグの続投もなく、フィンチャーは製作総指揮に回って監督自体は『死霊のはらわた』(2013)『ドント・ブリーズ』(2016)の新進監督フェデ・アルバレスであるという。物語自体も原作2作目ということではなく4作目に当たるのらしい。オレは不安要素を感じつつ、しかし逆にフェデ監督が新キャストでどこまで見せてくれるのかを期待して劇場に足を運んだのだ。

■『蜘蛛の巣を払う女』の物語

物語はある科学者がリスベットにあるハッキング行為を依頼するところから始まる。その科学者、フランス・バルデルは危険なプログラムを開発しそれを封印しようとしたが、アメリカ国家安全保障局はそれをよしとせずバルデルを追放した。バルデルの依頼はNSAにハッキングしそのプログラムを奪い返して欲しいというものだった。ハッキングは成功したが、そのプログラムを狙う凶悪な集団が現れ、リスベットとバルデルの命を狙う。危機に落ちたリスベットはかつての協力者ミカエルに援軍を要請する。

さらに物語ではリスベットが現在「虐げられた女たちを救う制裁者」として行動していること、そして彼女の幼少時に遡り、忌まわしい過去の秘密、双子の妹との悲痛な別れが描かれる。しかし自殺したと思われていたその妹カミラがリスベットの前に現れ、おぞましい悪事に加担していることもまた明らかになる。こうして過去の因縁と現在とが交錯しつつ物語は冷徹な陰謀術数と凄まじい暴力に彩られながら突き進んでゆく。

■比べちゃいけないと思いつつやはり比べてしまうけれども

さて、観客の興味はこの作品がフィンチャー版と同等に楽しめるのか、フィンチャー版と比べてどうなのか、ということになるのではないだろうか。単純にフィンチャー版を超えたか、というとそれは正直言って否だが、しかしそれだけでこの作品を否定してしまうのはあまりに拙い原理主義的なことのように思う。そういった比較によって面白い・つまらないと判断せずこの作品単体の面白さを見つけ出すことのほうが映画鑑賞として楽しめるはずだ。

とはいえ、やはり比べながら見てしまうのも映画ファンの性であることも理解できる。まあ実際自分もそうだし。だから今回はその辺りをちょっと掘り下げて今作の楽しめる部分を探してみたい。なぜなら、確かにこの作品はフィンチャーの透徹した映画技術に届かない部分もあるが、しかしフィンチャーが描かなかったこと、描けなかったことを可能にしている部分もまた同様にあるからだ。

■今回のリスベットはタフでアクティヴ!

今作で驚かされるのはリスベットの成長振りだろう。前作から3年後という時代設定となるらしいが、ここで彼女は女性虐待者への制裁者として闇で活動し当局に追われており、さらに高難易度なハッキング稼業の請負もやっているのだ。前作では社会に自分の居所が無いのけ者でありあぶれ者であることからハッキングに傾倒し、被虐待者という痛々しい状況から窮鼠猫を噛む復讐を遂げるという、あくまで「社会的弱者の逆襲」というキャラクターであった彼女が、この作品では能動的な行動者として立ち振る舞い、非合法的とはいえ社会に自らの場所を見出しているのである。

さらに映画では彼女のアクションや大立ち回りがふんだんに盛り込まれる。とはいえ線の細い彼女がマッチョに戦えるはずもなく、常に満身創痍であり容易く肉体的危機に追い込まれる。しかしだ。そこを高い知性に裏打ちされた的確な判断力とハッキングのスキルとを生かして果敢に乗り越え、八面六臂の活躍を見せるのだ。前作において脆く壊れやすくいつもヤマアラシのように社会に棘を突き出していた彼女はここにはいない。前作と同じリスベットを期待するのではなく、こうして成長したタフでアクティヴでストロングなリスベットにエールを送りながら鑑賞するのが今作の醍醐味なのだ。

■いよいよ物語の中心的存在となるリスベット

こうした「成長したリスベット」を徹底的に描き出す今作は、前作における「ミカエルの協力者としてのリスベット」といったような、あくまで物語におけるサブキャラクター的な立場を脱し、いよいよ主役中の主役として活躍しまくってくれるのである。これはリスベット・ファンにとっては嬉しいことの筈ではないか。逆に、前作で中心的な存在だったミカエルは今作では一歩引いた影の薄い存在として登場し、「リスベットの協力者としてのミカエル」としか描かれない逆転現象が面白い。

とはいえ、こうして「タフなリスベット」となったその背景には、「ミカエルという世界で唯一最も信頼できる者」という存在があったればこそだったのかもしれない。一度はミカエルに失恋したリスベットだが、今作でも一瞬イイ雰囲気になるところが微笑ましいし、女房が怪しみまくっているその最中にリスベットからの電話に矢も盾もたまらなくなるミカエルというのも可愛らしい。なにより、この作品で一番最初にグッとくるのは、3年間音信不通だった二人が、ようやく対面するシーンなのだ。この作品は、99.999%ツンなリスベットの0.001%のデレを愛でる映画でもあるのだ。

■呪われた過去の因縁

こういったリスベットの成長振り以外にも、物語のそちこちで描かれる「こんなことまでできてしまうのか!?」と驚かされるハッキング技術の凄まじさもまた楽しめる作品だ。天才ハッカー、リスベットが次から次に繰り出すハッキングの技も唸らされるが、敵集団もまた同様にいやらしいハッキング技術でリスベットを追い詰める。こういったハッキングvsハッキングの応酬が実にスリリングなのだ。1作目が古典的ですらあるサイコ・スリラー的な作品であったことを考えると、突出したハイテク・スリラーとしての側面を持つこの作品はよりモダンでありスマートな物語性を兼ね備えているのだ。

そこに加味されるのがリスベットの呪われた過去の因縁である。そしてその過去の因縁は死んだと思われていた妹カミラが邪悪な存在となって立ちはだかることにより、リスベットの「今」に清算を迫るのだ。能動的でタフな行動者として成長したリスベットの、最後に残されたたったひとつのウィークポイントが、彼女がまだ乗り越えていない過去に存在していたのである。彼女がこの「過去」とどう清算を付けるのか。それがどんな形となり、どんなクライマックスを迎えるにせよ、そしてそれが望むにせよ望まないにせよ、物語の最後には、またもうひとつ大人となったリスベットが、この無情の世界で生きる姿を見られる筈だ。そしてそんなリスベットの姿に、オレはたまらなく心ときめかされるのである。

だからね。キャスト変わったってなんだっていいから、また再び、リスベットの活躍が観たいんだよオレは!続編が出たらまた観るよ!


蜘蛛の巣を払う女 - 映画予告編

ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 19-1)

ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 19-1)

 
ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女 (下) (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 19-2)

ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女 (下) (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 19-2)