デイヴィッド・ゴードンの『用心棒』を読んだ

■用心棒/デイヴィッド・ゴードン

用心棒 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

ジョー・ブロディーは異色の用心棒―ハーバード中退、元陸軍特殊部隊、愛読書はドストエフスキー。心優しいジョーだが、凄腕のその評判に偽りはない。ある晩、彼が勤務するストリップ・クラブをFBIが急襲する。理由も告げられずに逮捕されたジョーは、NYの名だたるならず者で溢れかえる留置場へ。一斉手入れがあったのだ。捜査機関はいったい誰を捜していたのか?ジョーはそこで再会した中国系マフィアから、あるヤマに誘われるが…。ミステリ・ランキング三冠『二流小説家』著者の新境地。

ちょいとクライム・ノベルでも読むべえか、と最近翻訳ミステリ界隈で割と評判がいいデイヴィッド・ゴードンの『用心棒』を読んでみた。このデイヴィッド・ゴードン、デビュー作『二流小説家』はミステリ・ランキング三冠を獲得、日本で映画化もされたという作家だが、これまで読んだことはない。

主人公はストリップ・クラブの用心棒、ジョー。彼はとある強盗計画に関わることになるが、そこで盗み出したブツの為に危険極まりない状況に置かれてしまう、というお話。ウリとなってるのはこの主人公ジョーの異色なキャラクターで、「ハーバード中退、元陸軍特殊部隊、愛読書はドストエフスキー」なんてェ背景が説明されたりする。

でまあ読んでみたが、言っちゃあ悪いが作者のデビュー作タイトル同様「二流小説家」の書いたもんだなあ、という感想。なんというか主人公を始め登場人物たちの肩書や背景ばかりポンと投げ出されはするけれども、物語内の行動にその実質が伴っていない、描写によってそれが肉付けされていない、ということ、それと、物語を膨らませたかったのか本筋と関係ない枝葉の描写は挿入されるがどれも投げっ放しになっていること、が不満の原因だった。

主人公の”異色さ”を際立たさせるためにハーバードがどうとか元特殊部隊がこうとかドストエフスキーがナニとか書き出されはするが、それを裏付けるような内実が描かれる事なく実際の物語内においては”単なるトッポい兄ちゃん”に過ぎないのだ。彼と関わる女性FBI捜査官とやらも迂闊に主人公に惚れてドキドキしちゃうような女学生みたいなキャラ、敵役のテロリストとかいうヤツはなにやら外地でとんでもない血生臭い殺しなんぞをやりましたあ、なんてことは書かれはするが、物語内での印象は単に誇大妄想をこじらせた残念なヒトでしかなかったりする。

要するに【自己紹介乙】なキャラクターばかりで、キャラ説明したあとはそれを裏付ける様な血肉を伴ったキャラとして描かれはしない。自己紹介の後のキャラの行動も思考も少しも”異色”ではない、なんだか三文漫画を読んでいるような薄っぺらさなのである。

枝葉のエピソードが投げっ放し、というのはさっきのFBI捜査官のヨロメキ展開が特に物語的に発展しないということや、そのFBI女子のシングルマザー生活や元旦那のストーカー気質とかいう性格描写も、実の所物語に少しも貢献していないことだったりする。それとか主人公の幼馴染というマフィアのドンが、幼馴染という設定にもかかわらず主人公と雇用関係以上の描かれ方をせず、さらのこのドンの風変わりな性的嗜好というのも、やっぱり本筋とはなーんも関係なく、ドンの嫁がそれを探ろうとした結果すらも、それでどうすんの?と思わせたまま尻切れトンボなのである。主人公の元陸軍特殊部隊時代の隠されたヒミツに至っては、結局最後までヒミツだとさ!おーいどーなってんだー!?

これらの設定は多分続編で生かそうと目論んだものと思われもするが、どっかの巨匠みたいな余裕ぶっこいた勿体付けなんかせずに、この作品でキチンとしたオチを付けてくれよ、完結させてくれよ、それもできないで続編もなにもあるかよ、と読んでいてイライラしてしまった。

アクションはよく描けている。しかしそのアクションにしても、昨今のハリウッドの傑作アクション映画と比べるなら見劣りする。なんだかこの小説を読む暇があったら良質なハリウッド・アクションをガッツリ1本堪能したほうがまだ時間が有効活用できたな、と思ってしまったぐらいだ。そんなわけで残念な完成度の作品であった。

用心棒 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

用心棒 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 
用心棒 (ハヤカワ・ミステリ)

用心棒 (ハヤカワ・ミステリ)