ある日突然怒涛のようにリー・スクラッチ・ペリーにハマりそして"聖なる3部作"に手を出してしまった

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■ある日突然、リー・スクラッチ・ペリーにハマりまくってしまった

ある日……とは言いつつ4月の終り頃だったろうか、オレはそれまでよく聴いていたエレクトロニック・ミュージックになんとなく飽きてきて、唐突にPCのミュージック・ライブラリー内にあるダブ・ミュージック・アルバム10数枚分をポータブル・プレイヤーに突っ込み、それをよく聴いていたのだ。そしてそれらアルバムの中で、なんだか妙に耳に残るアーチストがいた。リー・スクラッチ・ペリーである。

いや、ダブ・ミュージックはこれまで散々聴いていたのでリー・ペリーの事を知らない訳ではないし、アルバムだって何枚か持っていた。しかし実の所、それまでオレにとってのリー・ペリーは「レゲエ/ダブの世界で超有名なおっさんであることは知っているが、周りが絶賛するほどの良さが今一つ分からないアーチスト」だった。

それが、その時、リー・ペリーの音が、百花繚乱な芳醇なうねりとなって、オレの耳に、するすると入ってきたのである。「ああ!これか!こういうことだったのか!」オレはそこで、やっとリー・ペリーの音の本質を、彼が何故レゲエ/ダブの世界で称賛され特別視されるのかが理解できたのだ。音楽というのは時としてこういうことが起こるので本当に不思議なものだ(まあオレの耳がたいしたことなかっただけなのだが)。

それからというもの、オレは手当たり次第にリー・ペリーと彼の関わったアルバムCDを買い漁った。最初はPressure Soundsからのリイシュー物から始まり、次にペリーの有名ダブ作、有名プロデュース作へと手を広げていった。それは至福の時だった。リー・ペリー・ダブの神髄に触れてゆくのは実に豊かな音楽体験だった。

そしてあれこれ調べ、購入しているうちにぶち当たったのがリー・ペリー聖なる3部作(The Holy Trinity)」である。これはリー・ペリーが最も充実した作品を送り出していたブラック・アーク・スタジオ時代の作品を編纂した3つのコンピレーション・アルバムを指す。そのタイトルは『Arkology』『Build The Ark』、そして『Open The Gate』

しかし『Arkology』こそ入手しやすかったが、他の2作、『Build The Ark』と『Open The Gate』は廃盤扱いで、購入にはプレミア価格のついたものに手を出さねばならなかった。プレミア価格の付いたCDを買うこと自体初めてだったし、是非聴きたいとは思っていたが出費は結構痛かった……。とはいえ、それら艱難辛苦を乗り越え、今オレの手元にはこの「聖なる3部作」が存在している。そしてその内容は、「聖なる」と冠されるにふさわしい至高のものだった。

というわけで今回その「3部作」をざっくり紹介してみようと思う。 

■Arkology / Lee Scrach Perry (V.A.)

Arkology

リー・ペリー・サウンドの本質であり核心は、「ブラック・アーク・スタジオ創作期」である1974年から79年に製作された作品だ。実際自分も今回の「リー・ペリー・フィーバー」では殆どこの頃の音しか聴いていない。そしてこの『Arkology』は、そのブラック・アーク期のリー・ペリー・サウンドを、スティーブ・バロウとデヴィッド・カッツという、知る人ぞ知る高名なレゲエ研究家によって編集されたリー・ペリー音源集なのだ。

それはCD3枚組、52曲、235分に渡って繰り広げられるリー・ペリー・サウンドの旅だ。世には幾多のペリー・アルバム、コンピレーションがリリースされているが、そのクオリティーとボリュームという点で、取り敢えず何はなくともこのコンピを入手するべきだろう。初心者にもマニアにも納得の内容であり、なんとなればこれだけ持っていてもいいかもしれないが、入手したならきっと他のリー・ペリー・アルバムにも手を出したくなる、麻薬的な蠱惑に満ちたサウンドの集大成である。

一言二言付け加えると、この『Arkology』はバロウ&カッツというレゲエ研究者のあらん限りの知見とバランス感覚で編集されており、そのセレクトは非常に生真面目で、全くの破綻も過不足も無い。それはどこか昆虫学者が緻密に学術的に理路整然と分類した昆虫標本を見せられているようで、一つの学問として筋が通っており圧倒される事は必至だ。ある意味A級の編集だが、だからこそ、ペリーのB級にずっこけた面白みのある作品は乏しいという難がある。しかしそれはペリーを徹底的に追い求めた末の余裕の時にあればいいとも言える訳で、入門編としてなによりもまず聴かねばならないアルバムである事は間違いない。

もう一つこの作品の魅力は「入手しやすい」ということだ。 今アマゾンの中古で見ても¥1615なんていう価格からある。この値段で最高の至福体験が得られるんだぜ?安いもんだよな。

Arkology

Arkology

 
 ■Build The Ark / The Uppsetters with Lee Perry & Friends (V.A.)

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 こちらもレゲエ史家スティーブ・バロウによって編まれたリー・ペリー・コンピレーションであり、当然ブラック・アーク期の作品集だ。CDだと2枚組、全34曲、『Arkology』とのダブりは3曲だがどれも別テイク。『Arkology』と比べるとリリース的にはこちらの方が早かったようだ。

さてこの『Build The Ark』の特徴はというと、全曲に渡ってオリジナルとそのダブ曲とが並列して収録されていることだろう。『Arkology』でもそういった作品はあるが、この『Build The Ark』ではそれが徹底しており、即ち一つの曲におけるペリーのプロデュース手腕とそのダブ・ヴァージョンの手腕を骨の髄までとことん味わえる作品集になっているという訳だ。

そしてこの「徹底ぶり」こそが編集者スティーブ・バロウの生真面目さであり、このコンピレーションそれ自体も整理整頓され几帳面に展示された「ガラスケースの中のリー・ペリー」といった趣すらある。現在廃盤で入手は困難だが、他では聞けないレア曲も満載だ。レア曲なら最近リリースされている様々なコンピにも豊富に収録されており、それで満足するという手もあるが、一人の「鬼コンパイラー」が精魂を傾けて編集した匠の技級の編集作業を味わうといった意味でも価値があるだろう。

Build the Ark

Build the Ark

 
 ■Open The Gate / Lee "Scratch" Perry & Friends (V.A.)

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「聖なる3部作」の最後に紹介するこの『Open The Gate』は先の2作とは違いリー・ペリー本人のコンパイルとなる。CDでは2枚組、収録されているのはブラック・アーク期後期の音源だが、 ペリー本人の編集という事もあり先の2作よりもより自由でヴィヴィッドな作品が並んでいるように感じる。

特筆すべきなのはCD1の巻頭を飾るペリー屈指の名曲『Words』だろう。この陰鬱極まりない曲は他のコンピでも様々なヴァージョンを聴くことができるが、この『Open The Gate』で聴くことができるのはオリジナル~トースティング~ダブと繋げられた8分48秒ものロング・ヴァージョンであり、そのレア度は格別だ。さらに2曲目、こちらも陰鬱極まりない曲『Vampire』では『Words』同様の構成で10分11秒もの壮絶なブラック・アーク・サウンドを堪能できる。CD1のラスト曲『Open The Gate』ですらどこか神経症的な異様さに満ちており、ブラック・アーク・サウンドがどこに行きついたのか、その究極の回答を目の当たりにしてしまう。ブラック・アーク後期の凄まじい狂気がうねりまくるこの3曲を聴くことができるだけでもこのコンピは購入必至だ。

とはいえCD2に移ると霧が晴れたようにキャッチーなヴォーカル曲が並び(ペリーのヴォーカル作品も含む)、その天の高みへと昇らんかという極楽浄土なペリー・サウンドを堪能できるのだ。ラスト曲はジュニア・マーヴィンによる『ポリスとコソ泥』別ヴァージョン曲『Bad Weed』。オリジナルも含めやはりこの曲もペリーの最高傑作の一つであり、この至高の幕引きは格別極まりない。このアルバム『Open The Gate』はブラック・アーク・サウンドの天国と地獄の両面を探索できるという点で素晴らしいコンピレーションだ。

そして、リー・ペリー探索の旅はまだまだ続く。

Open the Gate

Open the Gate