最近読んだ本あれこれ

アレフ/J・L・ボルヘス
アレフ (岩波文庫)

アレフ (岩波文庫)

 

 途方もない博識と巧緻をきわめたプロット、極度に凝縮された文体ゆえに、〈知の工匠〉〈迷宮の作家〉と呼ばれるJ.L.ボルヘス(1899―1986)による、『伝奇集』とならぶ代表的短篇集。表題作のほか、「不死の人」「神の書跡」「アヴェロエスの探求」「二人の王と二つの迷宮」「戦士と囚われの女の物語」などを収録。

ボルヘスの『伝奇集』は観念性と超現実性が恐るべき密度で濃縮された必読ともいえる奇譚集だったが、 とはいえ自分はボルヘスというとこれしか読んでおらずそろそろもう1冊……と手にしたのが同じ短編奇譚集であるこの『アレフ』である。『伝奇集』が精緻に構築された奇怪でメタフィジカルな物語群だとすると、この『アレフ』は現実と超常とが交錯する仄暗い空間に堕とされたかのような異様な読後感を残す作品が多い。特に表題作「アレフ」の現実世界に問答無用に鋭利な穿孔を開けてしまう手腕には息を呑まされた。また他の作品にはラテンアメリカ独特の暗く熱い血の臭いを漂わせる物語が多いのも特徴的だろう。ただしこの単行本『アレフ』、白水社から出ていた『不死の人』と同一内容じゃないか……。実は『不死の人』を積読したまま所有していたので、ある意味同じ本がダブることになってしまった。これもまたボルへスの織り成す怪異の一端なのか(違う)。

■東方綺譚/マルグリット・ユルスナール
東方綺譚 (白水Uブックス (69))

東方綺譚 (白水Uブックス (69))

 

古典的な雅致のある文体で知られるユルスナールの一風変ったオリエント素材の短篇集。古代中国の或る道教の寓話、中世バルカン半島のバラード、ヒンドゥ教の神話、かつてのギリシアの迷信・風俗・事件、さては源氏物語など、「東方」の物語を素材として、自由自在に、想像力を駆使した珠玉の9篇。

フランスの女性作家マルグリット・ユルスナールによる短編集。実は作家のことは何一つ知らなかったのだが、書籍タイトルに惹かれて読んでみることにした。内容はタイトル通り日本、中国、インド、中東、ギリシャといった「東方」の国々に伝わる奇譚・物語を作者流に翻案したもので、それらオリエンタルな物語は西洋の理では推し量れない不可思議と不条理に満ち溢れたものとなっている。むしろこれら合理で割り切れない物語の数々は、西洋的な知性が届かない場所で昏く輝くもうひとつの世界の仕組みを模索しようとして描かれたものなのかもしれない。ちなみに「源氏の君の最後の恋」はあの「源氏物語」から自由な着想を得て描かれている。

■ホーニヒベルガー博士の秘密/ミルチャ・エリアーデ 
ホーニヒベルガー博士の秘密 (福武文庫)

ホーニヒベルガー博士の秘密 (福武文庫)

 

東洋文化を研究している〈私〉のもとに、ある日一人の使いがやってくる。ヨーガの秘法に習熟したホーニヒベルガー博士の伝記を執筆中に亡くなった夫の代わりに、その仕事を完成してほしいというゼルレンディ夫人の申し出に興味をもった〈私〉は、遺された日記から驚くべき事実を発見する。「セランポーレの夜」併録。

「インドを舞台にしたSF・ファンタジー」をツイッターで募ったところ、知り合いの一人が勧めてくれたのがこの本。作者(故人)はルーマニア出身の作家・学者であり、Wikipediaで調べるとかの岡本太郎が著作に影響を受けていたとか、『コッポラの胡蝶の夢』がこのエリアーデの原作だったなんてことが書かれていて少々勉強になった。さてこの単行本では「ホーニヒベルガー博士の秘密」と「セランポーレの夜」の二つの短編が収録されている。「ホーニヒベルガー~」はインド秘教のタントリズムに憑りつかれた男の怪異譚を、「セランポーレ~」ではインドの都市カルカッタ(現コルカタ)を舞台にした異様な出来事を描くこととなる。どちらもインドを題材にしているのはたまたまなのだと思ったが、作者自身がもともとシャーマニズム、ヨーガ、宇宙論的神話に関する著作を出しているらしく、そもそもがインド的なものにロマンを感じていた人なのらしい。そしてどちらの作品も精緻に書かれた文章を積み上げながら最後に暗黒の虚空に読む者を放り投げるといったもので、非常にカタルシスを感じた。