キュートなメルヘンなんかじゃない!?映画『ピーターラビット』は実はスラップスティック・バトル・コメディだった!?

ピーターラビット (監督:ウィル・グラック オーストラリア・アメリカ・イギリス映画)

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ピーターラビット」といえば英国風に格調高い水彩画のウサギのイラストとこのキャラを使ったクッキーの缶と何かのCMぐらいしか知らない。ピーターラビットのクッキーは大昔実家にいた小学生の頃の妹によく送っていた。可愛らしいから女の子が喜ぶと思っていた。ちゃんと調べるとこのウサちゃんはビアトリクス・ポターの児童書に登場する主役キャラクターということらしい。

で、この可愛らしいウサちゃんのCG実写化映画を後頭部の毛髪が減少し歯周病と加齢臭に悩まされどこもかしこも臭いまくっているクソジジイのオレ様ごときが何故観に行く事になったかというと、ひとえにオレの愛する相方が是非観に行きたいからとオレにせがんだからである。

以前このブログの『パディントン2』の記事でも書いたがオレの相方はモフモフフカフカしたものが好きである。だからきっとピーターラビットのモフモフフカフカしたCG描写に惹かれたのであろう。後から聴いた話だと絵本も全部読んでいたらしい。オレも実際の所、相方の影響でモフモフフカフカしたものがそれほど嫌いでもないので、じゃあ、ということで映画『ピーターラビット』を観に行く事にしたわけである。

お話はというとイギリスの風光明媚な田園地帯で今日も明るく楽しく朗らかに過ごすピーターラビットと仲間たちの心温まる愛と勇気と冒険の物語……というのとは実はちょっと違った。まあ全然違っているわけではないが、観始めてみるとふわふわひよひよした子供向けだけの作品という訳では決して無かったのだ。

実はこの物語、イギリスの田舎町にある家庭菜園付き屋敷に越してきた男トーマス(ドーナル・グリーソン)と家庭菜園の野菜を狙う害獣ピーターラビット一派の血で血を洗う抗争劇が描かれているのである。「血で血を洗う」はちょっと盛っちゃったが、殴打や投擲や電撃など、様々な暴力行為と戦闘行為が次々に描かれ、しまいには爆破作戦まで決行されてしまうのである。まあ過激!

主人公トーマスとピーターたちとの大立ち回りはほとんどアニメ『トムとジェリー』状態だ。このスラップスティックさを大いに笑うのがこの作品のキモとなっているのである確かに登場する動物たちのCGは愛くるしいが、実際観てみると愛くるしいというよりも憎々しいのだ。決してハートウォーミングでラブリーな(だけの)映画じゃないんだぜ!?もちろん子供が観ても安心な程度のマイルドさで描かれているから家族連れで観ても全然OK。むしろ劇場では小さな子供たちがキャッキャ言って喜んでたよ!そういうこのオレ(a.k.a.クソジジイ)もキャッキャ言って喜んでたね!キャッキャ!

そう、この作品、格調高い英国田園風子供絵本ピーターラビットからは想像もつかないやんちゃな動物たちの暴れまわるドタバタ映画だったのである。それだけではない。人間の登場人物たちが誰も彼も変人なのだ。トーマスは潔癖症で半ばサイコだしピーターたちを庇護する地元の女性ビア(ローズ・バーン)も理解不能の抽象画を描きこじらせ気味のナチュラリストだったりする。その他の人間たちも大なり小なりどこか変だ。「変人だけど本当は善人」ではなく、「善人なんだろうが所詮変人」な連中ばかりなのである。

しかし面白いけどなんなんだこの映画?と思ったのだが、これは「コンサバティブな一般市民」と「パンクだったりフーリガンだったりするアナーキーな若者(=ピーターラビット)」との対立(と和解)を暗喩的に物語に持ち込んだんじゃないかなと解釈してみた。コンサバな一般市民は変人としておちょくり、一方ピーターたちはアナーキーさゆえに人間ではなく動物(的)な存在として描かれるのだ。そういった微妙に意地悪な視点がこの作品のそこかしこに見られ、それが可笑しさを生んでいる。しかし決してシニカルに過ぎたりニヒリスティックだったりはせず、きちんとファミリームービーの範疇に落とし込んでいるところがこの作品の良さだろう。

これは製作者側の、「喋るだけではなく服まで着てる動物をCG映像化し人間と絡ませるというのはどういうことか?」「それはなんでもアリのファンタジーとして成り立たせるのか、だとしてもその中でリアリティの基準はどこまであればいいのか?」という葛藤があったからこその結果なのではないかと思うのだ。つまり「子供と家族向けに製作されるであろう映画だけれどもだからといって誤魔化しや方便はなるべく使いたくない」という気概がそこにあったのだろう。作品内ではこういった作品にありがちな予定調和的な描写にあえて「これって予定調和的だよね」とわざわざ自らを茶化している箇所まである。こういった部分でできるだけ誠意のこもった作品にしたいという製作者側の意気がこの作品を良質なコメディ作品として成立させているのだ。


映画『ピーターラビット』予告 

ピーターラビットのおはなし (ピーターラビットの絵本 1)

ピーターラビットのおはなし (ピーターラビットの絵本 1)