目くるめくようなSFイメージの奔流に陶然としろ!/映画『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』

ヴァレリアン 千の惑星の救世主 (監督:リュック・ベッソン 2017年フランス・中国・アメリカ・アラブ首長国連邦・ドイツ映画)

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ヴァレリアン 千の惑星の救世主』観た!うおおおおおおメチャクチャ傑作じゃないっすかコレ!楽しい!楽しい映画だよこれは!

確かに最初は不安材料はあった。公開前のヴィジュアルを始めて観た時には「これはイケるでしょ!?」と一瞬思ったんだ。でも監督が、ええと、リュック・ベッソンじゃないですか。あの人フィルモグラフィ支離滅裂だからなあ。さらにアメリカで大コケしたという情報が。でもさ、オレ、ベッソンの『フィフス・エレメント』は好きだったんだ。この『ヴァレリアン』も圧倒的に『フィフス・エレメント』テイスト全開で、これを信じて劇場に観に行こうと思ったんだ。

(『ヴァレリアン』が『フィフス・エレメント』テイストだってェのは、もともと『ヴァレリアン』の原作者が『フィフス・エレメント』に携わっていたかららしい。ベッソンはずっと『ヴァレリアン』を撮りたくて、それがやっと念願叶ったという事らしい)

で、映画が始まってみると、そんな不安材料なんて木っ端微塵に消し飛びましたよ!冒頭のボウイの『スペース・オディティ』まるまる1曲再生とか相当あざといけど、普通「いやこれあざといよね」って思ってやらないよね!?それから続く惑星ミュールの描写も、どこか70年代SFテイストなんだけど、普通「いやこれ野暮ったいよね」って思ってやらないよね!?それをやっちゃってる部分で一周回ったツキヌケ感を感じたんだよ!

もうそこからは一気呵成、次から次に立ち現れる鮮やかなSFイメージの数々に上映中終始うっとりしまくりだった!まとまりがないって意見もあるけど、違うんだよ!一瞬一瞬のイメージの積み重ねをその時々の刹那に感嘆し続ける、それが重要なんだよ!ビジュアルに魅惑され続け延々と続く視覚的快楽に身体と精神を委ねる事、それがこの映画だ!無駄なんかじゃなくてお徳なテンコ盛りぶりこそ楽しむべきなんだよ!考えるな!感じろ!

主演の二人も最高!デイン・デハーンのちょいと陰のある美少年ぶり、カーラ・デルヴィーヌの凛とした美少女ぶり、この美少年美少女の蠱惑にひたすら眼福しながら映画を体験し続けることの喜び!ああまさに法悦!

少年みたいな顔してドンファンな性格のヴァレリアン(デイン・デハーン)とか見た目に反比例してシビアな性格のローレリーヌ(カーラ・デルヴィーヌ)とか、これがアメリカSFだったらあまり考えられないようなキャラクターだったのもよかったな。主人公二人の恋の行方というのもどこかドライなんだよね。ローレリーヌがヴァレリアンに説く国家や集団を超えた真実の愛というのはどこかフランス的な個人主義を感じたよ。やはりバンドデシネ原作ってことでヨーロッパぽいんですよ。

実はシナリオも意外としっかりしていて楽しめた!もっと支離滅裂でご都合主義で出まかせ三昧かと思ってたら結構誠意のあるシナリオなんだよ。特に主人公たちのちょっとした台詞が物語の展開にきちんと回収されていて(「ビーチ」のくだりとか鳥肌モンだった)、こんな好き放題やってる映画の割には考えてんじゃんか!と思ったよ。

で、ハチャメチャのように見えてその世界観もしっかりしてるんだよな。舞台となる「アルファ宇宙ステーション」ってのは宇宙全域から数千の種族が集まる”千の惑星の都市”ってな設定なんだけれど、まず原作がフランスのバンドデシネであることを鑑みるなら、この中に住まう人間族ってのは欧州諸国の事を揶揄してるんだよ。その他のエイリアン種族は中東とかアジアってことになるんだろうな。

そして冒頭に出て来る滅亡した惑星ミュールというのは、その欧州諸国がかつて植民地化し大いなる暴虐を働いたアフリカのことなんだよ。惑星ミュールのパール人のヴィジュアルというのは実に分かりやすくアフリカ人だしね。そして、この映画の物語というのは、かつて暴虐を働いたアフリカの再生の為に、ヨーロッパ人たちが贖罪の行動を起こす、という筋書きなんだよ。これ、物凄く理路整然としたテーマだよね。

この『ヴァレリアン』はアメリカでは大コケしたらしいけど、それもむべなるかなって感じだよね。なぜって非常にヨーロッパ的なこの物語は単純なアメリカ人の皆様が望むようなSF映画じゃないもの。

そしてこの映画の最大の勝因はプロデューサーも務める監督リュック・ベッソンが湯水のように資金を使い、自分の好き放題にこの映画を撮ったという事にあるんじゃないかな。某超有名スペースオペラシリーズや某超人気アメコミヒーローシリーズみたいにあちこちいろんなところに気を遣いまくって一番折衷したらこうなりました!だから観る方も気を遣ってること評価しろよな!みたいな部分が一切無くて、ただ単に「俺はこれが好きだ好きだ好きなんだあああ!」というのがあるだけで、そしてそれこそがベッソンという一人のアーチストが最大限己の才能を引き延ばせた要因だったじゃないのかな。

(あ……ジョン・トラボルタが製作主演で好き放題の限りを尽くした『バトルフィールド・アース』って超退屈なSF映画もあるけど……そもそもトラボルタはアーチストじゃねえからこの範疇に入らないってことでいい?)

さらにこの作品は大作の割には肩肘張らずに観られるって部分がいいんだよな。まあ結果的にそうなっちゃいました、とも言えるんだけどさ。つまり金のかかったB級映画という評価で十分で、しかしだからこそ楽しめし、愛着の湧く映画なんだよな。しかももう一度観てあの世界で遊んでいたくなる。決して地雷映画じゃないしSF映画の好きな人は観て損はないと思うよ。

ところでオレはこの映画字幕で観たけど、吹き替え版では物語に出てくるガーゴイルみたいな格好の3匹のエイリアンをThe Alfeeがやってるって、なんかいろいろ謎過ぎるんだが……。


『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』本予告 

ヴァレリアン (ShoPro Books)

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