メビウスが手掛けたマーベルコミックス~『シルバーサーファー:パラブル』

■シルバーサーファー:パラブル / スタン・リー、メビウス、ジョン・ビュッセマ

シルバーサーファー:パラブル (MARVEL)

世界のアーティストに多大なる影響を与えた巨匠・メビウスが、生前に唯一手掛けたマーベルタイトル『シルバーサーファー:パラブル』。久々にライターに復帰したスタン・リーが紡ぐ寓話的ストーリーを、メビウスがその独特のタッチで形にした、フランスとアメリカのコミック界を代表する両巨頭たった一度のコラボレーションを、メビウス本人の指示によるリカラーリング・バージョンで収録。さらに、制作の裏側に迫るインタビュー、スパイダーマンデアデビルなど、メビウスが描いたマーベルヒーローのポスター集も掲載。また、スタン・リー&ジョン・ビュッセマコンビによるオリジンストーリー『シルバーサーファー』#1(8/1968)も日本版に特別収録。

バンドデシネ界の巨匠メビウスがかつてスタン・リーと共に手掛けたマーベルコミックスがあると知って早速読んでみた。ここでメビウスが描くスーパーヒーローは全身銀色に輝く男、シルバーサーファーだ。

それにしてもシルバーサーファー、名前や姿かたちこそ知ってはいたが、実の所まるで馴染の無いヒーローだ。なにしろ全身が銀色で、白目をひん剥き、そしてこれも銀色のサーフボードに乗っている。なんかこう、LSDの幻覚に出てきそうなサイケデリックなルックスだ。ウルトラマンから赤い縞々を取っ払って禿げ頭にしたらこんな感じかもしれない。

物語はこのシルバーサーファーと突然地球に襲来した宇宙魔人ギャラクタスとの観念的な戦いを描いている。冒頭からホームレスのような恰好をして現れるシルバーサーファーは、既に人類に対する希望を失っている。だが、ひとつの善なる魂に触れることでギャラクタスとの戦いを決意するのだ。読み進めてゆくとかつてシルバーサーファーとギャラクタスとには何らかの因縁があったことがほのめかされる。

このコミックはかねてからメビウスの才能に着目していたスタン・リーが、偶然出会ったメビウスに依頼し製作されたが、同時にメビウスも常日頃アメリカンコミックスを手掛けてみたい、という熱望があったのだという。こうして出来上がった『シルバーサーファー:パラブル』は当然のことだがメビウス的でもありアメコミ的でもあり、バンドデシネとは違うアメコミ制作過程にとまどいながら・あるいは自分のものにしながら、手探りで描いたであろう作品の仕上がりが実に楽しい。

一方、このメビウス作品とは別に、シルバーサーファーの原点を描く『シルバーサーファー』#1(アーティストはジョン・ビュッセマ、1968年作)が特別収録されているが、ここではシルバーサーファー誕生の秘密が描かれており、オレのようなアメコミに暗い人間には非常に参考になった。かつてシルバーサーファーは高度に発展した惑星ゼン・ラの住民ノリン・ラッドだったが、ギャラクタスの侵略を退ける為、彼のしもべとなる契約を結び、それにより超人シルバーサーファーに生まれ変わったのだという。

シルバーサーファー:パラブル (MARVEL)

シルバーサーファー:パラブル (MARVEL)