兎角世知辛い世の中でございます〜映画『ジーサンズ はじめての強盗』

■ジーサンズ はじめての強盗 (監督:ザック・ブラフ 2017年アメリカ映画)


今年で55歳になるオレにとって、最大の心配事は老後のことである。あと5年もすれば停年だ。さらに還暦だ。年金支給は65歳からだし、その支給額にしたって微々たるものだし、貯金だってそんなにあるわけでもない。なにがしか仕事をして糊口をしのぐにしても、60過ぎからの健康がどうなっているのかもわからない。思えばたいした人生設計もしてこなかったつけが回ってきているのであり、自業自得と言えばそれまでだが、そう自分を戒めたところでお金が天から降ってくるわけでもない。世知辛い。ああ世知辛い。もはや将来に残された道は生活保護か、野垂れ死にか……あとは銀行強盗でもするか?

映画『ジーサンズ はじめての強盗』は、それまでつましく生きていた3人の老人たちが、年金を止められ銀行にも騙され、明日の生活にも困り果て、遂に追いつめられて銀行強盗を計画しちゃう!?というコメディである。この3人の老人を演じる俳優というのがいい。まず『サイダーハウス・ルール』、『ダークナイト』シリーズのマイケル・ケイン(84歳)。『ミリオンダラー・ベイビー』、『ショーシャンクの空に』のモーガン・フリーマン(80歳)。『リトル・ミス・サンシャイン』、『アルゴ』のアラン・アーキン(83歳)という全員80オーバーのいずれ劣らぬジジイ俳優が出演している。

さらに脇を固めるのが『Tommy トミー』、『愛の狩人』のアン=マーグレット。76歳とは思えない色っぽさが堪らない。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズのクリストファー・ロイドも出演しているぞ。78歳なのに主演3人よりも年食って見えるのは何故だ。しかもボケ老人役だ。3人を追う警官役で出演している『クラッシュ』、『ドラッグストア・カウボーイ』のマット・ディロンは53歳なるが、この出演陣の中ではまだまだ嘴の青いひよっこだな!監督のザック・ブラフは他に『終わりで始まりの4日間』という監督作があるが、『マンハッタン殺人ミステリー』や『ブロークン・ハーツ・クラブ』なんてェ作品で俳優もやっていた人らしい。実はなんとこの監督が一番若くて42歳だ。ちなみに映画は1973年に公開された『お達者コメディ/シルバー・ギャング』という映画のリメイクらしい。

物語に出て来る3人の老人は単に生活に困窮したから犯罪を犯したというわけでもない。彼らはそれまで真面目に仕事を務めあげてきたが、会社の合併により、どういうからくりか年金が差し止められてしまったのだ。こうなると人生設計もへったくれもあったもんじゃない。しかもその裏側ではとある銀行の悪どい思惑が動いていたのらしい。こんな酷いことが許されるか!ジジイたちの強盗計画の背後には、阿漕で悪辣な銀行への怒りもあったのだ。同時にそこには、真っ当に働いて生きてきた筈なのに最後に残されたものが不幸でしかなかったという世の中への遣り切れなさもあったのだろう。

しかし、そういった社会の不条理が根底にある物語なのだけれども、全体のトーンが決して暗かったり主人公たちが絶望的に描かれることが無かったのは、ひとえに彼らが豊かな人間関係を持っていたからなのだ。まず3人の主人公たちはお互いに気の置けない間柄であり、他のジジイとの交遊もきちんとあり、さらにそれぞれに愛する家族がいたり、年寄とはいえ新しい恋人を見つけ愛が花開いていたりする。年金は毟り取られてしまったし、将来はまるで明るいとは言えないのだけれども、それでも少なくとも孤独ではないのだ。要するに、お金はないけれども人間関係という財産はたっぷり持てていたのだ。

オレはこの映画、ここが重要ポイントなのではないかと思ったのだ。確かに将来は不透明だし、世の中世知辛いし、お金はいつ無くなってしまうのか分かったものではない。しかし、長年掛けて築き上げてきた人間関係や愛情は、そんな不安を少しでも和らげてくれて、そして生きる力にもなってくれる。だからオレはこの映画を観ながら思ったのだ。相方さんは絶対大事にしよう。介護もしてもらわないといかんからな。それから、ネットで知り合ってたまに遊んでくれるあの人やこの人も、これからも大事にしよう。そして将来困ったことがあったら、家に飯食いに行ったり、酒奢ってもらったり、図々しく無心しに行こう。その為には今の少ない交友関係を絶やさないようにしよう。というわけで、オレのお知り合いの皆さんこれからもどうぞよろしくお願いします(いいのかよそれで)。

http://www.youtube.com/watch?v=AauAN-XeSTA:movie:W620