万里の長城を舞台にしたシルクパンク・ファンタジー映画『グレートウォール』

■グレートウォール (監督:チャン・イーモウ 2016年中国・アメリカ映画)


映画『グレートウォール』である。「万里の長城」である。最初映画館でこれの予告編がやっているのを観て、「へー、万里の長城を舞台にした中国の歴史合戦モノかー、『レッドクリフ』みたいな映画なんかなー」と思ってると、なんとマット・デイモンが出てきて「ありゃ?」と驚かされる。「まあこの時代の中国に白人が紛れ込んだとしてもおかしくはないかもしれんが……」と心を落ち着けてると、兵士の皆さんが戦っている相手がなんだか変だ。「え?これ、モンスターじゃないかよ!?なんなんだよこの映画!?」こうしてオレの頭は混乱の極みに達したのである。

そう。映画『グレートウォール』は、宋代と呼ばれる当時の中国王朝の兵士たちが、万里の長城を舞台に、大群となって押し寄せるモンスターと熾烈な戦いを繰り広げる、いわば"トンデモ"系の映画だったのである。「いやあ、どうなってんだコレ……」。相当キワモノの臭いがするが、アルバトロス産B級モンスターパニック映画並みの馬鹿馬鹿しさを期待して、そして映画としてはなにも期待せずにオレは劇場へと足を運んだというわけである。

物語としては「黒色火薬を求めてはるばるヨーロッパからやってきたマット・デイモンとその一行がモンスターに追われ万里の長城に辿り着き、そこで長城軍に協力してモンスター討伐に乗り出す」というごく単純なもので、キャラには特に深みは無いし人間関係もお仕着せみたいだしそもそもマット・デイモンが登場する必然性も無い。それよりも万里の長城を舞台にした人間vsモンスターの攻防を徹底的に見せることが中心となっている。万里の長城に雲霞の如くわらわらと攻め入る無数のモンスターの様子は、映画『スターシップ・トゥルーパーズ』のバグや『ワールド・ウォーZ』のゾンビの群れを彷彿させて、そのとんでもない数とスピードに固唾を飲まされる。

それに対する長城軍兵士は、弓矢や槍や爆裂火の玉やなどあらゆる武器を使ってモンスターに応戦する。この人間vsモンスターの万里の長城を守るための戦いは、どこか『ロード・オブ・ザ・リング』で繰り広げられた凄まじい攻城戦を思い出させた。この長城軍兵士たちは、役割に応じて赤青黒と色分けされた凝った意匠の甲冑を着こんでおり、この辺のリアルさにこだわらないデザインセンスはゲーム『真・三国無双』あたりに通じるものがあるなあと思った。

それだけでなく、万里の長城にはあれこれからくりや仕掛けが施してあったり、気球に似た移動装置が登場したり、「女子バンジージャンプ突撃槍隊」という派手な見た目のわりに残念な攻撃力しか持たない戦法を繰り出したりと、荒唐無稽さには益々拍車が掛かる。時代に見合わないこういった奇々怪々な装置の数々が登場する様は、スチームパンクならぬ"シルクパンク"ファンタジー作品としてこの映画を呼びならわしてもいいかもしれない。

"シルクパンク"というのは中国系アメリカ人SF作家ケン・リュウによる造語であり、スチーム=イギリス産業革命により生み出された架空テクノロジーに対する、よりアジア的な架空テクノロジーを指すものだ。映画に登場する架空テクノロジーはケン・リュウの定義よりも外れるが、それでも現実には存在しなかった幻想の万里の長城の戦いには似つかわしい言葉のような気がする。それと併せ、万里の長城の周囲の光景はせり出した岩山など現実に有り得ないものばかりで、「実はこれ、地球外惑星に植民した中華文化圏の人々が歴史を経てテクノロジー的後退を起こし、その中で原生生物と戦いを繰り広げるというSF作品だったんじゃないのか!?」と勝手な妄想までしてしまったぐらいである。SF者というのは基本的に妄想だらけの難儀な人間なのである。
http://www.youtube.com/watch?v=B9xMPUVLjsQ:movie:W620