最近読んだ本〜『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』『破壊された男』

■とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢 ---ジョイス・キャロル・オーツ傑作選

とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢 ---ジョイス・キャロル・オーツ傑作選

とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢 ---ジョイス・キャロル・オーツ傑作選

美しい金髪の下級生を誘拐する、有名私立中学校の女子三人組(「とうもろこしの乙女」)、屈強で悪魔的な性格の兄にいたぶられる、善良な芸術家肌の弟(「化石の兄弟」)、好色でハンサムな兄に悩まされる、奥手で繊細な弟(「タマゴテングタケ」)、退役傷病軍人の若者に思いを寄せる、裕福な未亡人(「ヘルピング・ハンズ」)、悪夢のような現実に落ちこんでいく、腕利きの美容整形外科医(「頭の穴」)。1995年から2010年にかけて発表された多くの短篇から、著者自らが選んだ悪夢的作品の傑作集。ブラム・ストーカー賞(短篇小説集部門)、世界幻想文学大賞(短篇部門「化石の兄弟」)受賞。

以前アンソロジー『ミステリマガジン700 【海外篇】』を読んだとき一番面白かったのがジョイス・キャロル・オーツが書いた『フルーツセラー』という作品だった。そしてこの作家の他の作品が読みたいと思い、手に取ったのがこの『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢 ---ジョイス・キャロル・オーツ傑作選』、短編集である。
7編の中短編が収録されるが、その内容といえばいわゆる"奇妙な味"の作品といったところだ。ミステリともホラーともファンタジーともいえない、どこか奇妙で薄暗くてじんわりと狂っていて、悪夢を思わせるような後味の悪い作品が多く並んでいる。女性である作者の性別を持ちだすとまたある方面から怒られそうだが、女性でなければここまで描けないだろうなと思わせるような事細かでいつ壊れてしまうか分からない心理描写が独特だ。
特に表題作中編『とうもろこしの乙女 ある愛の物語』は女学生グループによる同級生誘拐監禁事件を描くが、誘拐の背後にある歪んだ愛情や10代独特の肥大しきった自己愛、女学生グループの無自覚な残酷さと容易くカルトに傾く危うさなどが、これがもうチクチクチクチクと子細に描かれており、読んでいて息苦しさを覚えるほどだった。
もう一つ秀逸だった作品は『ヘルピング・ハンズ』。寡婦となった中年女性とリサイクル・ショップに勤める退役傷痍軍人との物語だが、夫の庇護を離れ外の世界と接しなければならなくなった資産家女性の不安と揺れ動く心を描くその細やかな筆致はもはや文学小説の領域であり、作者の並々ならぬ描写力と心理洞察を感ぜずにはいられないのだ。そして主人公女性の心を事細かに描けば描くほど、ラストに用意されたものに重い遣り切れなさを覚えるのである。そしてラスト『頭の穴』はもうこれは十分ホラーで、読んでいてとことん神経を参らせてくれた。

■破壊された男 / アルフレッド・ベスター

時は24世紀、テレパシー能力をもつエスパーの活躍により、いかなる計画犯罪も不可能となり、殺人はすべて未然に防止されていた。だが、顔のない男の悪夢に悩まされるモナーク産業社長ベン・ライクは、エスパーを買収しその協力を得ることで、ライバル企業の社長殺害を決意する…ニューヨーク市警心理捜査局総監パウエルと、完全犯罪をもくろむ殺人者ライクとの息詰まる死闘を描き、第一回ヒューゴー賞に輝いた名作登場!

『虎よ!虎よ!』のアルフレッド・ベスターの処女作であり第1回ヒューゴー賞受賞作品でありSFオールタイムベストでなんちゃらだとかいうSF小説『破壊された男』である。昔は『分解された男』というタイトルで出版されていた。まあ要するに非常に有名な古典SF作ではあるのだが、オレは読んでなかった。それが最近ハヤカワで再発されたので、なんとなく読んでみたという訳である。
で、結論から言うと非常につまらなかった。なにしろ、古臭い。テレパシー能力を持つエスパーが活躍する未来社会でのSFクライム・ノヴェルということなのだが、まず"エスパー"っちゅうのがもう古く感じる。"エスパー"だの"超能力者"だのができることなんて今のSFではテクノロジーで十分代替して描かれるんではないか。だから"エスパー"だなんてなんだかよく分からないものを持ちだすことのほうが陳腐になってしまわないか。まあ、"エスパーとそうでない者が形作る歪な社会"ってぇのは要するに選民思想であったり逆にマイノリティー差別であったりするものの戯画化なんだろうが、それ自体にも50〜60年代アメリカ社会の構図が見え隠れしないか。そういった部分に古臭さを感じるんだよな。
そしてクライム・ノヴェルとしての側面も、やっぱり古臭くしかも乱暴で、どうにも見る所がないんだよな。確かにラストにはびっくりさせられたが、そこに至るまで「いやでも一番怪しいのこいつなんだからなんで別件とかで連行できないの?」とずっと思いながら読んでいた。だいたい「エスパーに心を読ませない方法」として犯人は心の中でずっと無意味な歌を歌うんだけど、エスパーにとってはそんな奴が一番怪しいだろ。お話は、要するにオブセッションについての物語で、そしてそれをべスターらしくひたすらマッチョにファナティックに描くんだが、これも胸焼けを催した。