対称的な二人の男の愛の結末〜映画『Barsaat』【ラージ・カプール監督週間】

■Barsaat (監督:ラージ・カプール 1949年インド映画)


ラージ・カプール主演・監督作品として1949年に公開された映画『Barsaat』は処女作『Aag』(1948)に続く監督第2作目となる。共演はナルギス、プレム・ナス、ニンミ。二組の対称的なカップルの愛の行方を描いた作品だが、後半で奇妙な乱調を見せるのが独特だと言えるかもしれない。タイトルの意味は「雨期」。なお今回は結末まで触れるのでご注意を。

物語の中心となるのは正反対の性格をした二人の男。一人は芸術家肌で気難しいプラン(ラージ・カプール)、もう一人はリアリストで享楽的なゴパル(プレム・ナス)。二人は都会からインドの田舎へ遊びに行くが、車が故障し近くの村で数日過ごすことにする。その間、プランは村の娘レシュマ(ナルギス)と出会い恋をし、結婚まで考えるようになるが、レシュマの父は決してそれを許さず、会うことすら禁止した。一方ゴパルはニーラ(ニンミ)という娘と出会う。ニーラは心の底からゴパルを愛したが、ゴパルにとってそれは行きずり恋のつもりだった。そしてそれぞれのカップルに悲劇が待ち構えていたのだ。

監督第2作目ということからか、ラージ・カプール監督作品としてはテーマの選び方やその話法にまだまだ未熟でぎこちない部分を感じるのは否めない。まず主演となる二人の男だ。一途に愛を信じそれを与えることを惜しまない男プランと、刹那的で浮気性、愛に関しては不誠実な男ゴパル。「愛」に対して正反対な態度を取る二人の男を描くことで、この物語は「愛の本質」を描こうとしたのかもしれないが、どうにも図式的に感じてしまう。ラストはその「愛に対する態度の違い」により、二人は相応の結末を迎えることになるが、これも教訓的過ぎて白けてしまう。また、ナルギス演ずるヒロインの、いちいち鼻をすする演出も余計に感じた。

それと併せ、主演・監督を務めるラージ・カプールが、自らの役柄をてらいもなく格好よく描き過ぎている部分に少々苦笑してしまった。スーツをパリッと着込み、ピアノとバイオリンをたしなみ、憂いのこもった顔で愛こそは至上と語り、そして美女ナルギス演じるヒロインと睦みあうのだ。自身の監督作ならむしろ嫌われ者になるであろう浮気性の男を演じないか?まあ自らの監督主演作で自らの役柄を格好良く描くことが間違いだとはいわないが、こんなラージ・カプールがなんだかお茶目さんだなあ、と思えてしまった。

こういった部分で多少引っ掛かりはあったが、作品自体はそちこちに見所がある。光と影の具合が巧みに計算されたモノクロ映像は十分芸術的であり技巧的であり、そして美しい。この時代の一般的なモノクロのインド映画がどの程度の芸術水準にあったのかは知らないので、この作品だけを取り出して芸術的だとは言えないのかもしれないが、それでもカプール監督の映像に対する意気込みやこだわりのほどは十分に感じた。まあ、見方によれば気取り過ぎとも取れる映像だが、決して悪いとは思えない。先程触れたお茶目ぶりといい、この映像の気取り方と言い、将来の大監督の余裕が見え隠れするともいえるではないか(というか最初から大監督だったのかな?)。

しかし「二人の男の対称的な愛」を描くこの物語は後半異様な方向へと乱調する(ここからクライマックスに触れます)父親に結婚を反対されたレシュマは、流れの早い川を縄だけを伝って川向うのプランのもとに行こうとする。怒り心頭に達した父親は縄を切ってしまい、レシュマはそのまま川に流される。言ってしまえば父親による殺人(未遂)である。半死半生のレシュマは下流である漁師に拾われる。この漁師というのがいかにも独り者の異様な風体の男で、看病から覚めたレシュマを監禁し、自分の嫁にしようとするのだ。プラン恋しさに泣きじゃくるレシュマだがいよいよ結婚式の日がやってくる。だが外で車の事故が。事故車から結婚式場に連れ込まれた男は、なんと瀕死のプランだったのだ。瀕死の男がレシュマの想い人であることを知った漁師はブランを殺そうとする。

とまあ以上のような展開を迎えるのだが、それまで美しく切ない「愛の物語」だったものが一転、暴力と殺人と監禁と強要がドロドロと描かれる猟奇的な物語へと変貌するのである。観ていてなんじゃこれは?と思ったのである。ラストにおいて瀕死のプランはレシュマの愛により命を取戻す。反対にゴパルの愛を得られなかったニーラは自ら命を絶つ。これによって「真実の愛こそが命を助ける」という結論を付けたかったのだろうが、それにしてもシナリオのコントラストが激しすぎる。異様なのだ。ここまで必要だったのかとすら思えるのだ。しかし、この過剰さは後のラージ・カプール作品で随所に見られることになる。それがサービス精神なのかラージ・カプール天性のものなのかは分からないが、ラージ・カプール監督作の特徴ともなるものを垣間見せた初期作であるとは思う。