親の反対を押し切って愛を貫こうとする二人〜映画『Bobby』【ラージ・カプール監督週間】

■Bobby (監督:ラージ・カプール1973年インド映画)


資産家の息子と漁師の娘とが激しい恋に落ち、それぞれの両親の反対を押し切って愛を貫こうとする、というインド映画ではお馴染みのスタイルのラブ・ロマンス映画です。しかしこれ、1973年公開作とはいえ(だからこそ?)非常に面白く出来ているんですね。監督はインド映画界の名匠であり俳優、プロデューサーでも有名なラージ・カプール、主演をその息子であるリシ・カプール、そしてヒロインをディンプル・カパーディヤーが演じています。実はこのディンプルさん、あの『ダバング 大胆不敵』でチュルブルのお母さん役だった人の若い頃なんですね(さらに近作だと『Cocktail』『Finding Fanny』などにも出演あり)。

《物語》富裕なビジネスマンを父に持つラージャー(リシ・カプール)は誕生パーティーのその日、かつての乳母が連れてきた娘ボビー(ディンプル・カパーディヤー)に一目惚れする。ラージャーはボビーの家を訪ね、彼女の父ブラガンザが地元の漁師であることを知る。ラージャーとボビーは恋に落ち、結婚を誓うようになるが、ラージャーの父ナートは身分違いの恋愛を決して許さず、ボビーの家に置し掛けブラガンザに手切れ金をちらつかせた挙句散々罵倒して帰ってゆく。しかもナートはラージャーの縁談を勝手に決めていた。追いつめられたラージャーとボビーは駆け落ちを考える。

とまあ、プロットだけからみると、インドのラブ・ロマンス映画でこれまで散々描かれてきた定番的な物語であり、さらに1973年製作という古い映画なものですから、今観ようとすると新鮮味に乏しく感じるかもしれません。しかも上映時間が169分、3時間近くもありやがります。実際自分も、一応名作と謳われているので退屈覚悟でとりあえず観ておこうかと観始めたのですが、これがなんと、実に面白い。今ではありふれた物語ではあっても、きちんと作られているが故に目が離せないんです。その辺、どういった部分が面白かったか箇条書きで書いてみましょう。

1.古臭い主演男優が逆に新鮮…主演となるリシ・カプールの作品は今まで『Amar Akbar Anthony』と『Naseeb』ぐらいしか見たことが無いんですが、どちらも主演のアミターブ・バッチャンのほうが目立ちまくってて、それほど印象に残ってなかったんですね。そもそもリシ・カプールの顔つきって今見ると「昔風の、古臭い二枚目顔」じゃないですか。しかしこの『Bobby』では、確かに古臭い顔ではありますが、それにより「インド映画クラシック観てるんだぞ」ってな気分になってきますし、それと今作でのリシ・カプール、いかにも世の中を知らないオボッチャマ君てな青臭くてひ弱な雰囲気が溢れていて実に役柄に合ってるんですね。これがシャールクやサルマーン兄貴だとどうしたってイケイケドンドンになっちゃうんですよ。そういった部分で逆に新鮮に感じましたね。

2.健康的なお色気(死語?)のヒロイン…一方ヒロインとなるディンプル・カパーディヤーはいわゆる労働者階級の娘という設定からか、溌剌として健康的な美しさを持った女優さんでした。しかしこのディンプルさん、なんだかやたらと露出が多いんですよ。キリスト教徒の娘ってこともあるんでしょうか、いつも(当時の)現代的な洋服を着ているんですが、なにしろ殆どホットパンツやミニスカート姿でその太腿を大胆に披露しているんです。さらにビキニでのプール・シーンまでありましたよ。今でこそそれほど珍しくないんでしょうけど、1973年のインド映画にしちゃあ意外と挑発的だったんじゃないでしょうか。あと、ヒロインのお父さんが「ウエストの合わないスーツのズボン」を履いてるがためにいつも社会の窓が開いている、というのも別の意味でセクシーでした。

3.きわどいロマンス演出…これも「1973年のインド映画にしちゃあ」って話なんですが、カップル二人のロマンス演出がよく見ると結構きわどいんですね。なんかもう二人してアメリカ映画みたいにベタベタしまくりやがっているんですよ。キスシーンなんかはありませんが、逆光で隠してそれとなくほのめかして見せたりとかね。そしてなにより二人して山荘に閉じ込められたシーンですね。二人して見つめ合い歌いながら一つ一つ窓を閉めドアを閉め最後にベッドに横になるんです。この描写もここまでですが、あからさまに夜のムフフへの気持ちの高まりを描いているんですよね。

4.一途過ぎる恋の行方…「身分違いの恋」を描いたこの物語、まあインド映画だから最後はなんだかんだ上手くやって感動的に盛り上げた後予定調和的にメデタシメデタシってなるんだろうなあ、と思って観ていたんですが、なんだか二人の想いが一途過ぎて、そしてまた二人を引き離そうとする周囲の態度が強硬すぎて、物語がどんどんシリアスになってゆくんですよ。このシリアスさから途中で例の『ロミオトジュリエット』を思い出したぐらいで、いや待て「ロミジュリ」だとお話は悲劇になっちゃうじゃんか、と段々と心配になってきて、物語から目が離せなくなってくるんです。

5.物語の舞台や踊りや衣装…物語の舞台となるのはゴアとその周辺みたいなんですね。だからこそヒロインがキリスト教で親が漁師で、というのがあるんですが、同時にヒンディー臭が薄い分踊りもポリネシア風の衣装だったりするんですよ。さらに二人がカシミールに旅行に行くシーンもあるんですが、ロケが実際カシミールなのかは不明だけど、だとしても今のインド映画で観られるカシミールと雰囲気が違って面白かったですね。それと製作が1973年ということから登場人物たちの衣装が70年代テイストのポップ・サイケ風味で、これが一周回って奇妙にオシャレに見えるんですね。これが80年代だとまだダサく感じちゃうんですよ。

6.しっかりとした構成…とはいえ、俳優に魅力があり、きわどい演出があっても、物語が面白く無ければなんにもなりません。しかしこの作品はストレートとも言えるしっかりとした構成と演出を見せ、楽しめるものとなっているんですよ。いわゆるマサラ・ムービー的な「楽しければいいでしょ!」といった破綻がこの作品には無くて、物語をきちんと見せていこうとする監督・製作者の態度がうかがわれるんですね。この辺やはり名匠と謳われる監督の作品ならではということなんじゃないのかな、と思いました。

それと、作品内容とは関係ないのかもしれませんが、自分の視聴したDVDの映像がとても状態がよく、まあ傷なんかはあるんですが、特に発色が綺麗だったんですね。当時のフィルム形式などは分からないんですが、諧調はそれほどないけれども実にビビッドな発色で、そういった部分でも目を楽しませてくれましたね。