凸凹探偵コンビとやんちゃな美少女が巨悪を追いつめる!〜映画『ナイス・ガイズ!』 + 同監督作『キスキス、バンバン』

■ナイスガイズ! (監督:シェーン・ブラック 2016年アメリカ映画)

〇2017年日本公開予定の『ナイスガイズ!』をフライング視聴

70年代L.A.を舞台にヘタレな酔っぱらい探偵と喧嘩っ早いコワモテ示談屋の凸凹コンビが巨悪を追いつめる!というバディムービー、『ナイスガイズ!』を観ました。これ、2月に日本公開予定なんですが、そんなことも知らずに輸入Blu-rayで視聴しちゃったんですね。でもメチャクチャ面白かったから日本公開されたら劇場でもう一回観よう!というわけでここではざっくりとこの作品の魅力を紹介したいと思います。

・魅力その1:70年代L.A.のレトロポップな雰囲気

まず舞台となる70年代L.A.。映画で登場するファッションはL.A.ならではのドリーミンな雰囲気が漂っています。しかしこの時代のアメリカはベトナム戦争ウォーターゲート事件、石油危機とアメリカ経済の停滞など、あまり色よい世相ではありませんでした。さらに公民権運動をはじめとする60年代の動乱がいまだ暗さを引き摺っていたんですね。
そこから抜け出そうとする奇妙な明るさと、しこりのように残る暗さのその陰影が、ニューエイジ、ドラッグ、ポルノ解禁といった形でこの映画にも現れていました。また、70年代L.A.を舞台とした探偵物語としてポール・トーマス・アンダーソン監督による映画『インヒアレント・ヴァイス』(2014)ともどこか繋がっているように感じましたね。

・魅力その2:酔っぱらい探偵とコワモテ示談屋の凸凹コンビ

そして登場人物。まずシングルファーザーの酔っぱらい探偵マーチ。ヘタレです。負け犬です。何やらせてもダメなポンコツです。そして大抵酔っぱらっています。こんなヤツが事件を解決できるのかよ!?と思っちゃいますが、このヘタレでダメな男が一念発起して事件を解決しようとアタフタするところが面白いんですね。そしてヘタレでダメ男だからこそなんだか応援しちゃいたくなるんですよ。こんな男をライアン・ゴズリングが演じていて、これが実にハマリ役!
もう一人はいつも苦虫噛み潰したようなコワイ顔をして、口より先に手が出ちゃう暴力野郎ジャクソン。演ずるはラッセル・クロウ。示談屋という商売も暴力の臭いがプンプンしますよねえ。ジャクソンはあることからマーチと知り合いますが、出会いの最初はやっぱりゲンコツ!ひでえヤツだなあ!二人は事件を追うため不承不承コンビを組みますが、こんなに釣り合わない同士は見たことないというぐらいギクシャクしてるんです。でも一緒に行動しているうちにお互いの足りない部分を補い合いながら事態を収めてゆくという部分がいいんですね。

・魅力その3:凸凹コンビの手綱を握るやんちゃな美少女登場

でもそれだけだとよくある「凸凹コンビのバディームービー」でしかないんですよ。しかしこの映画では、一人の美少女が登場して凸凹コンビの手綱を握っちゃうんです!その女の子の名はホリー、実は探偵マーチの愛娘なんですね。最初はシングルファーザーという設定の為に出て来る脇役かな、と思わせておいて、どんどん親父であるマーチのやることに口を出してゆき、仕舞いにはなし崩し的に事件捜査の相棒の一人になってしまうんですね。親父が役立たずだから業を煮やしてしまったんだろうなあ……。
ホリーちゃんは「小さな女の子」であることから敵を油断させて凸凹コンビに協力しますが、同時に「小さな女の子」だからこそ危機にも至ってしまいます。これによりより一層物語がサスペンスフルに盛り上がってゆくんですね!そしてこのホリーちゃん、なにしろ可愛い!オレは『タクシー・ドライバー』出演時のジョディー・フォスターを思い出しちゃいました。演じるのはアンガーリー・ライス、『ファイナル・アワーズ』(2013)や『ウォーキングwithダイナソー』(2013)なんて出演作があるようですが、2017年公開予定の『スパイダーマン:ホームカミング』にも出演しており、これからが楽しみな女優さんですね。

・魅力その4:思いもよらぬ展開を見せる意表を突くシナリオ

舞台と演者が揃い、そして物語です。最初は失踪人探しだった筈の捜査が、ポルノ・フィルムにまつわる連続死へと繋がってゆき、仕舞いには凶悪な殺し屋の登場する緊張感に満ちた大アクションへと発展してゆくんです。しかしこの映画はただそれだけではなく、物語が所々で妙な方向へ転がり始め、「それってありかよ!?」という唖然とする展開や、「そりゃありえねーぞ!?」という無茶な展開を見せつけてゆくんです。それもこれもマーチがこじらせ過ぎのヘタレで、ジャクソンが単細胞な暴力野郎だからということもあるんですが、それだけではない、「狙った」としか思えない絶妙な強引さや呆気の無さがプロットに盛り込まれているんですね。この「思いもよらなさ」がこの物語を一層面白くしてゆくんですよ。
監督のシェーン・ブラックは『リーサル・ウェポン』シリーズや『ラスト・アクション・ヒーロー』(1993)、『ロング・キス・グッドナイト』(1993)のシナリオを手掛けたこともある才人ですから、その才能を活かしまくった今回のシナリオということなんでしょうね。さらに監督としては『キスキス,バンバン』(2005)、『アイアンマン3』(2013)を手掛けており、特に『アイアンマン3』の大ヒットぶりを見ると演出にも才を見出したということが出来るでしょう。物語展開もそうですが、会話も楽しいんだよなあ。
という訳で舞台よし俳優よしシナリオよしの映画『ナイス・ガイズ!』、日本公開が待ち遠しい1作です。

NICE GUYS

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■キスキス、バンバン (監督:シェーン・ブラック 2005年アメリカ映画)


『ナイス・ガイズ!』がとても面白かったので、同じシェーン・ブラック監督による2005年アメリカ公開映画『キスキス、バンバン』も観てしまいました。するとこれまたL.A.を舞台にした『ナイス・ガイズ!』とよく似た構成のバディムービーだったんで実に興味深かったですね。『ナイス・ガイズ!』と『キスキス、バンバン』の共通項はこんな感じ。

・L.A.が舞台。
・凸凹探偵コンビによるバディムービー。そこにさらに女性が加わってくる。
・主人公たちにはどこか負け犬の匂いが染みついている。
・人探しだった事件が巨大な陰謀へと繋がってゆく。
・思いもよらない絶妙なプロット。

こうなるともはや『キスキス、バンバン』は『ナイス・ガイズ!』の作品的双子と言ってもいいでしょう。『ナイス・ガイズ!』は『キスキス、バンバン』の豪華版とも言えるし、『キスキス、バンバン』の発展形が『ナイス・ガイズ!』だと言えるかもしれません。だからどちらかの作品だけを観られて気にいった方は是非もう片方もご覧になるといいと思います。
主人公は元コソ泥の俳優の卵ハリー(ロバート・ダウニーJr.)と周囲からゲイ呼ばわりされてる私立探偵ベリー(ヴァル・キルマー)。そこにハリーの幼馴染で鳴かず飛ばずの女優ハーモニー(ミシェル・モナハン)が絡み、単純な人探しだった筈の事件がL.A.の闇に蠢く陰謀へと繋がってしまう、という物語になっています。しかし単なるサスペンス作品としての面白さだけではなく、生き生きとしたキャラクターと彼らのふざけた会話の応酬とが非常に楽しい作品となっているんですよ。もちろん唖然とするようなとんでもない事態が突然持ちあがるのも『ナイス・ガイズ!』っぽい!
ここでも俳優陣がいい。まず『アイアンマン』でブレイクする以前のロバート・ダウニーJr.が実に若々しく、マヌケだけどもどこか純な男を好演します。対するヴァル・キルマーは鷹揚ながら癖のあるゲイ探偵を貫録たっぷり(体格も含め)に演じていました。そしてミシェル・モナハン。映画を観ながら「え、なにこの美人!?」と心ときめかせまくっていたんですが、調べると結構彼女の出演作観ていたにもかかわらずそれほど印象に残っていなかったみたいなんですね。つまりそれだけこの作品での役どころを魅力いっぱいに演じていたということなんでしょう。そしてこの作品でも『ナイスガイズ!』同様凸凹探偵コンビにミシェル・モナハン演じるハーモニーの役割が重要性を持っているんです。
そして主人公の子供時代から描かれる人物設定の妙でしょう。ハリーは子供の頃からハーモニーに憧れていて、でも鼻も引っ掛けてもらえないまま二人はバラバラになります。そんな二人がL.A.の胡散臭い映画業界で再会してしまうんです。俳優の卵とはいえ実はつまらないコソ泥になってしまていたハリー。女優に憧れてハリウッドに来たもののたいした役も貰えず夢破れたハーモニー。人生の負け犬になってしまった二人が事件をきっかけに次第に近付いてゆき、愛という大切なものを見出してゆくんです。とはいえそこに至るまでには相当にとんでもないドタバタが繰り広げられるんですけどね。なんたってハリーの指が!さらに二人が子供時代に慣れ親しんできた「マジシャン」「探偵小説」といったキーワードが後半絶妙のタイミングで生かされ、ここでもシナリオの巧さに痺れさせられました。2005年公開で今まで全然知らなかった作品なんですがこれは良作ですね。