『ミスター・メルセデス』続編となるキングのミステリー長編『ファインダーズ・キーパーズ』

■ファインダーズ・キーパーズ(上)(下)/スティーヴン・キング

f:id:globalhead:20171015215434j:plain

少年ピートが川岸で掘り出したのは札束と革張りのノートが詰まったトランクだった。父が暴走車によって障害を負ったピートの家では、毎晩のように両親がお金をめぐって喧嘩をしていた。このお金があれば、両親も、そして妹も幸せになれるに違いない。ピートはお金を小分けにして、匿名で自宅に郵送しはじめた……  そのカネは強盗モリスが奪ったものだった。アメリカ文学の傑作とされる小説を発表後、筆を断って隠棲する作家ロススティーン。その家を襲い、カネとノートを奪ったのだ。モリスにとって大事なのはカネだけではない。膨大な数のノート。そこには巨匠の未発表の文章が記されている。ロススティーンの小説に執着するモリスにとって、そのノートこそが何ものにも代えられない価値を持っているのだ……  強盗と少年、徐々に近づいてゆく二人の軌跡が交差するとき何が起こるのか? スティーヴン・キングがミステリーに挑んだ傑作『ミスター・メルセデス』続編登場。幻の小説に執着する犯罪者の魔手から、退職刑事ホッジズと仲間たちは家族思いの少年ピートを守ることができるのか?

S・キングの新作長編『ファインダーズ・キーパーズ』は日本では去年発売された『ミスター・メルセデス』の続編になるのだという。『ミスター・メルセデス』は「キング初のミステリー」という触れ込みだったが、そんなわけでこの『ファインダーズ・キーパーズ』もミステリ作品となる。

前作との繋がりは前作と同じく私立探偵ビル・ホッジズとその仲間たちが登場し事件を解決する部分と、前作における"ミスター・メルセデス事件"がこの作品で起こる事件と微妙に関連性を持つという部分だ。また、物語構成においては前作では物語の中心的な存在であったビル・ホッジズが今回ではあくまで探偵という裏方に回り、その分今作の事件に関わる者同士の確執が中心として描かれることになる。

とまあ、そんな『ファインダーズ・キーパーズ』だが、はっきり言って、つまらなかった。ちょっと怒って表現すると、「愚作」だった。実のところ、前作『ミスター・メルセデス』も、相当につまらない作品で、オレは「これはダメなほうのキングだな」と思ったのだが、こうして見ると、「キングのミステリはそもそもつまらない」ということになってしまうかもしれない。そしてどうつまらなかったかというと、これが『ミスター・メルセデス』と全く同じ理由でつまらなかった。

 『ミスター・メルセデス』の感想と全く重複するが、なにしろ「登場人物にまるで魅力が無かった」。「ミステリとして稚拙でうんざりさせられた」。「物語の登場人物ってぇのが退職警官も殺人鬼も含め誰も彼もが愚鈍」。「ミステリなのにもかかわらず、「切れ味のいい所」が全く無い人物像ばかり」。私立探偵ビル・ホッジズとその仲間たちは前作ではまだそれぞれのドラマを背負っていたが、今作では誰も彼もが存在感が薄く探偵稼業に冴えた部分が皆無でそもそも事件に何か役に立ったのかさえ覚束ない。

殺人鬼に至っては前作が「不幸な人生へのルサンチマンに癇癪起こしているだけのマザコン野郎」だったのが、今作では「小説に入れ込み過ぎて作家をぶっ殺してしまう幼稚なこじらせ厨二野郎」というなんともうんざりさせられるキャラだった。要するに単なる薄馬鹿で、黒光りするようなデモーニッシュさや狂気や殺人鬼ならではのカリスマ性が鼻毛の太さ程も無いのである。これでは少しも盛り上がらない。 

 なんといっても解せないのは物語の大元となる天才作家ロススティーンが引退後なぜ書き溜めた小説を発表しなかったかだ。ロススティーンは著作『ランナー』シリーズ3部作でアメリカ文学界に巨大な足跡を残すことになったそうだが、引退後その続編を書きながら発表していなかったという。そして発表していなかったばかりに狂信的ファンであるモリスに強盗に入られ命まで落とすことになる。物語ではそこで奪われた"続編"は相当な完成度だったという。

そこまで完成した作品をなぜ死蔵していたのか。この辺の説明がまるでない。作家の習性などオレには分からないが、成功した作家が精魂掛けて書き上げ、さらに決して不出来ではなかった作品を発表しないなんてことがありえるのだろうか。さらに言ってしまえばそこまで素晴らしい文学作品を書きあげた男が物語の中では実につまらない、年老いた下卑た男でしかない。素晴らしい作品を書く文学作家が誰もが崇高であるとは思わないが、少なくとももう少し知的であってもいい筈ではないか。結局、このとっかかり部分がオレにとって説得力皆無だったせいで、『ランナー』シリーズにとりつかれた狂信的ファンの凶行という物語が最後までずっと白々しかった。

とまあ、徹頭徹尾罵詈雑言しか思いつかない感想なのだが、この「私立探偵ビル・ホッジズ・シリーズ」は3部作になっており、つまりもう1作完結編が残されているという訳なのだ。ここまで文句だらけのシリーズなら第3部など読む気もしないものだが、しかし、なぜかこれが、とても楽しみなのだ。だってさ!?この『ファインダーズ・キーパーズ』のラスト!?あれはキタネエよなあ!?あれじゃあ絶対キング・ファンは「うわあああ続き読みてええええ!!!」ってなっちゃうよな!?なんだよ結局またキングの掌の上で転がされているのかよ!?だから次作も絶対読みますから早く出してください文藝春秋白石朗様!!!!