子猫を救いにギャングスタのアジトへ!?〜映画『Keanu』

■Keanu (未) (監督:ピーター・アテンチオ 2016年アメリカ映画)


タイトルは「キアヌ」だがあのキアヌ・リーブスとは全然関係ない(実は声の出演アリ)。これ、実は映画に登場する子猫の名前で、この子猫を巡りとんでもない大事件が巻き起こるというのが今作になる。しかも動物が中心だから笑って楽しめる家族ムービーかというと全くそうではなく、麻薬絡みの血で血を洗うマフィア抗争が描かれちゃう、でもコメディ、という面白い構造を成している。主演のジョーダン・ピールとキーガン=マイケル・キーは全く知らない俳優だが、アメリカでは名の売れたコメディアンなのらしい。監督のピーター・アテンチオも全く知らない監督で、過去には『ザ・リグ〜深海からの覚醒〜』(2010)という未公開映画があるらしい。だがこの作品、結構面白かった。

物語はまず麻薬製造所に二人組の殺し屋が現れ大殺戮を繰り広げる所から始まる。そこから逃げ出した一匹の子猫が辿り着いたのがフラれたばかりで意気消沈している男レル(ジョーダン・ピール)の家。その子猫にキアヌという名をつけ飼い始めたレルは次第に心を癒されてゆく。しかしレルの家に空き巣が入りキアヌが奪われてしまう!レルは従兄弟のクラレンス(キーガン=マイケル・キー)と共にキアヌを探すが、なんとキアヌは地元ギャングスタのアジトに飼われていたのだ!レルとクラレンスは一計を案じ、ギャングスタのアジトに自らもギャングスタを名乗って乗り込み、仲間と見せかけてキアヌを奪取しようとしたが、ドラッグビジネスを手伝う羽目になり大弱り!といった内容。

猫を探しに行って狼の巣窟に入り込んでしまうが、主人公らは羊なのに狼の皮を着なければならなかった、というのがこの物語の面白さ。その辺の平凡な市民生活者でしかない連中が、ギャングスタを気取ろうとヒヤヒヤモノで虚勢を張らねばならない、という部分で様々な笑いを生んでゆく。そしてこの物語のもう一つの面白さは、主人公二人が何不自由ない中流層の黒人であるという点であり、それがいわば底辺層である黒人コミューンの中に入って思う存分カルチャー・ギャップを体験してしまう、という部分にある。確かに同じ黒人でも社会的レイヤーが違えばここまで違うというのは当たり前のことなのだろうが、映画という形でその二者のギャップの在り方を提示する作品というのは珍しいかもしれない。だからこその日本未公開作ということも言えるが、逆にこんな斬新な視点を持った作品こそ楽しいんじゃないのかと思う。

そのギャップを端的に示して面白かったのは両者の音楽趣味の違い。ギャングスタ連中は定番の如くヒップホップを聴いてノリノリなんだが、主人公の好きな音楽はなんとジョージ・マイケル!確かに黒人がジョージ・マイケルを聴いて何が悪いという話なんだが、これを観て笑ってしまう自分自身にも黒人に対する固定観念が根強いんだな、と気付かされてしまう。しかも主人公はギャングスタ連中に「ジョージ・マイケルはブラックだぜ!これ聴かなないヤツは遅れてるぜ!」などと豪語し、あまつさえギャングスタ連中が丸め込まれてしまう、という部分には大爆笑。このジョージ・マイケル・ネタは最後までいろんな形で引っ張ってゆくからお楽しみに。それとやはりギャングスタが登場するだけあって後半には思いもよらないとんでもない銃撃戦が巻き起こり、アクション・ファンも大満足するだろう。あとやっぱり子猫が愛くるしい。これは快作だな。

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