青林工藝舎刊で、アックスに連載されていた、ということだからもうそういうマンガだと思ってもらって構わない。作者である
逆柱いみりの作品は結構お気に入りで、『空の巻貝』『働く河童』と『赤タイツ男』と割と読んでいるほうだと思う。自慢だがイラスト集『臍の緒街道』も持ってるぞ。うわオレひょっとして大ファン?
逆柱いみりのマンガは要するに「昭和少年
夢日記」といった作品で、
つげ義春と
杉浦茂と
稲垣足穂が合体し、「世界の怪奇とふしぎ」みたいなタイトルの子供向け単行本を描いたらこうなった、というような内容になる。なにしろ夢の中の光景をそのまま描いたようなものだからこれといった物語は無い。今作は若干
つげ義春からの
剽窃が多めに感じたのでオリジナリティ自体は若干低めだが、この怪しげなB級テイストはちょっぴり癖になる。
仁義無き非情の世界を渡り歩くズべ公連中を描いた『ベア
ゲルダー』3巻、前巻までがいわゆる世界観設定の説明だったみたいで、この第3巻では殺し屋VSズべ公主人公らの凄まじい戦いが描かれてゆく。作者あとがきによるとこの作品のコンセプトは「派手な動きの外連味のある格闘技を描きたかった」ということで、そこでこの3巻なのかあ、と実に納得いった。なんにしろ日本の生んだ天才漫画家の一人であろう作者が生んだ『ベア
ゲルダー』、今後に待っているであろう血で血を洗う展開が実に楽しみだ。
その『ベア
ゲルダー』作者、
沙村広明の描く『
波よ聞いてくれ』はラジオ放送業界を描くコメディとなり、これがまた異様に面白いのでまたしても作者の天才ぶりを見せつけられる思いだ。その面白さは高濃度に圧縮され凄まじい情報量の台詞と会話にあり、コミック1冊なのにもかかわらずオレなどは読み終わるのに1時間を要した。そしてコメディなのにもかかわらず作者の陰惨な資質があらゆるところで散見し、むしろこの陰惨さを笑いに持って行ったという
発想の転換がこの物語なんだなと思った。
中世ヨーロッパの
アルプス山脈地帯を舞台に、地元民である森林同盟三邦と施政者
ハプスブルク家との血塗れの抗争を描いた歴史ドラマ『
狼の口』遂に完結。物語的には血も涙もない悪魔の如き代官ヴォルフラムが討ち取られた段階で一段落付いたように思えた為、残りの物語展開は物語を畳むための残務処理的に見えてしまったが、真の
勝利を描くこの完結巻において「現在のスイスをスイスたらしめたのは何か」という歴史的転換点を詳らかにした部分でやはり優れた物語であったと感じた。
■BOX 〜箱の中に何かいる〜(1) / 諸星大二郎
「モロボシセンセ、いつの間にこんなの描いてたんすか!?」とびっくりさせられた
諸星大二郎の完全新作(いや、最近リニューアル新刊ばかりだったし、『
西遊妖猿伝』も全然出ないしさ)。物語は謎のパズルを届けられた者同士が集まり謎の館に閉じ込められそこで怪異に遭遇する、といったものだが、これまでの諸星の伝奇的要素とは全く違うテーマの持って行き方に「まだまだこんな新機軸を打ち出せるのか」と感嘆した。しかも作中のパズルは作者自ら考案しているようで、そういった部分でも面白い。
お鼻ツヤツヤ柴犬ムーコの楽しく穏やかな毎日を描く動物漫画第10巻。この幸福は多分終わることなく永遠で、そしてこの永遠の幸福を垣間見せていると言った部分で『
いとしのムーコ』はどこまでも素晴らしい漫画なのだと思う。柴犬はなんとも思っていなかったオレだが、柴犬飼いたくなってしまった。でも動物って死ぬんだよね。そして漫画のムーコは多分不死なんだよね。それは素晴らしい思い出が不死のようなものなんだよね。