「マンガ+バンドデシネ」の「格闘+魔法」コミック、『ラストマン』が凄くいい!

■ラストマン (1) / バスティアン・ヴィヴェス、バラック、ミカエル・サンラヴィル

ラストマン1 (EURO MANGA COLLECTION)

大友克洋先生 絶賛! ! ! 新時代のバンド・デシネ『ラストマン』、上陸!!2013年に第1巻が発売されるや、たちまちフランス・バンド・デシネ界の話題をさらったバトル・アクション『ラストマン』が、ついにユーロマンガ・コレクションに登場!
とある王国で行われる毎年恒例の格闘技トーナメント。二人一組で行われるこの競技に、今年は武術学校の落ちこぼれ生徒アドリアンも参加することになる。はやる気持ちを抑えられない彼だが、大会当日、パートナーの欠席で出場できなくなってしまう。落胆する彼に、謎めいた旅人リシャール・アルダナが救いの手を差し伸べる。かくして幼いアドリアンは、リシャールとの急造チームで、並みいる強敵が参戦するトーナメントに臨むことになる――。
2015年アングレーム国際漫画フェスティバル“最優秀シリーズ賞"受賞! フランスでは、アニメ、ゲームとメディアミックス展開中! バスティアン・ヴィヴェス、バラック、ミカエル・サンラヴィルのトリオがつむぎ出すマンガ×バンド・デシネのハイブリッドを見逃すな!

いい。フランス産コミック『ラストマン』が実にいい。どんな風にいいのか?それをこれから説明する。そしてこの説明を読み終わったらあなたも『ラストマン』を買いに走るといい。アマゾンでポチってもいいが。

1.「マンガ+バンドデシネ」という風通しの良さ

この『ラストマン』、「マンガ+バンドデシネ」という謳い文句になっている。日本の「マンガ」とフランスのコミック「バンドデシネ」のハイブリッドというわけだ。ハイブリッドになることによりどんな効果を上げているのか?まず日本の「マンガ」の多くはコマからコマへのスピード感で読ませる。大ゴマやアップ、俯瞰、変幻自在のコマ運びとアングルの変化、時間の遅延と加速、それらは「止め絵」を見ているのではなくどこか映像媒体を視聴しているようだ。
一方「バンドデシネ」は、これはもう圧倒的に「絵」を見せようとする。一コマ一コマの描き込みが半端ない。その一コマだけで立派なアートとして通用するものもあるほどだ。カラー彩色された「絵」はなおさらそれを格調高いものにする。そして「絵」にしろ世界観にしろ実に個性的で場合によっては入り込めないほど異質ですらある。さらに、背景にあるヨーロッパの匂いだろう。それは美術であり風俗であり歴史性ということだ。反面、動きに乏しく、重々しく、それにより取っ付き難く感じさせる。
その「マンガ+バンドデシネ」ハイブリッドである『ラストマン』はどういうことになっているのか。まずは動きのあるコマ運びはスピード感に溢れ、簡略化されたグラフィックは風通しがよくて読み易い。これは「マンガ」の良い所だ。しかしその物語は濃厚なヨーロッパの香りと奇妙に異質な世界観によって成り立っている。これは「バンドデシネ」の良い所だ。こうして『ラストマン』はバンドデシネのようにエキセントリックでありながらマンガのように読み易いという稀有な作品として成り立っているのである。

2.格闘アクション+魔法世界という物語

『ラストマン』はどことも知れぬ異世界の、どことも知れぬ王国で開催される格闘大会を中心に物語られる。しかし面白いのはそこにさらに「魔法」が持ち込まれることだ。これはジャンプ漫画あたりに多く見られる、超常的な力を持った者同士の熾烈なガチンコバトルを参考にしたのだろうが、『ラストマン』ではその「超常的な力」をあくまで「魔法」として描いている部分でどこかヨーロッパ的だ。競技会選手は、力だけあってもダメだし、魔法に長けているだけでもダメだ。さらに、競技会であることから、スポーツ的なルールが存在する。反則や技術点といった評価があるのだ。単なる潰し合いではないのである。この"ルール"が意図的に明示されないため、競技の流れがなかなか読めず、主人公と敵との戦略がどこにあるのか固唾を飲んで読み進めることになるのだ。

3.少年を取り巻く父性と母性の確執

主人公は一人の弱弱しい少年だ。彼がその脆弱さを乗り越えて格闘技トーナメントでどう戦うのか?どう成長してゆくのか?が物語の主軸であるが、これは少年少女の活躍が中心となる日本のマンガのセオリーだろう。しかしこのこの『ラストマン』には"大人"の存在と彼らの庇護が濃厚となっている。まず少年の母の存在。少年は母子家庭だ。そしてこの母の、優しく美しく、時には息子を守ろうと憤怒に燃える強さ逞しさ、これらが強烈な母性を感じさせるものになっているのだ。
そこに現れる一人の謎の男。彼は格闘技トーナメントのパートナーとして少年を選び、それまで母性の優しく穏やかな庇護しか知らなかった少年に、大人の男の荒々しさと理不尽さ、同時に全能にも似た圧倒的な力強さ、説明抜きの明快さ、それら全てを総じた「男の世界」を垣間見せるのである。男は、男親を知らない少年に、父性というものを垣間見せるのだ。
少年の母はそんな男に野蛮さと卑俗さを感じ対立する。一方男はと言うとそんな少年の母の気持ちなどどこ吹く風だ。だがこんな水と油の筈の二人がなぜか惹かれあうようになり……という展開は日本の少年マンガにはない大人の世界だ。ここには父性と母性の確執があり、どちらだけが正しい、悪い、というものがない。そしてある意味、少年の成長には、この二つが必要なのだ、というのがこの作品のテーマなのではないかと思う。

4.第2巻が待ち遠しい!!!

これらが物語られる世界は、その街並みにしても服装にしても、さらに思考の根本にあるものにしても実にヨーロッパ的であり、同テーマの作品が日本で生み出されても決して同じものには成り難かっただろう。ただしグラフィックは日本のマンガのようにモノクロで、発売は単行本形式であり、それによりバンドデシネにもかかわらず1冊の価格が740円という驚きの料金なのがまたしても嬉しい!バンドデシネには興味があるが敷居も価格も高くて……と思っていた方にも手に取り易いだろう。
こうして少年+怪しげな男との格闘トーナメントが突き進んでゆくわけだが……あああ!なんだこのラストはぁ〜〜〜〜ッ!?物語はそのクライマックスで驚くべき展開を迎え、そして10月発売予定の第2巻に持ち越されるのだ!このクリフハンガーなところも日本のマンガっぽいな!少年+怪しげな男の運命やいかに!?第2巻が待ち遠しい!!!

ラストマン1 (EURO MANGA COLLECTION)

ラストマン1 (EURO MANGA COLLECTION)