インド映画『Tezaab』はマサラ風味の『ストリート・オブ・ファイヤー』だったッ!?

■Tezaab (監督:N・チャンドラ 1988年インド映画)


会場は熱気と興奮に包まれていた。ステージに立つ美女は艶やかな声で歌い踊り、観衆を魅了し尽くす。そこに突然バイカー軍団が乱入、美女を連れ去ってしまう!急を告げる事態に、一人の男が立ち上がる。彼はかつて女の恋人であり、そしてある理由から遠くに旅立っていたのだ。暴力渦巻く無法の町に、正義の鉄槌は下るのか!?マイケル・パレダイアン・レイン主演、ウォルター・ヒル監督によるロック・ムービー『ストリート・オブ・ファイヤー』の始まり始まり!…じゃなくて、アニル・カプール、マードゥリー・ディクシト主演、N・チャンドラ監督による1988年公開インド映画、『Tezaab』の始まり始まり!?

というわけで『ストリート・オブ・ファイヤー』そっくりのオープニングを迎えるインド映画『Tezaab』でございます。ただし似ているのはあくまでオープニングのみ、途中『アンタッチャブル』か『戦艦ポチョムキン』かという乳母車階段落ちのシーンが挟まれたりもしますが、その後は実にマサラ〜なインド映画展開が待ち受けるアクション映画なんですな。なんだかブログタイトルに偽りありですな。そこはツカミってことでご容赦ください…。

お話のほうを説明しましょう。主人公の名はムンナ(アニル)、ゴロツキたちの親分を勤める彼でしたが、かつては立派な海軍士官だったのです。彼の運命を変えたのは強盗犯に父母を殺されるという事件でした。復讐を誓う彼でしたが悪党たちにはめられ、裁判により街から追放されていたのです。一方、バイカー軍団にさらわれた人気歌手の名はモヒニー(マードゥリー)。彼女は学生時代に知り合ったムンナと恋仲でしたが、ムンナの追放により哀しみに満ちた毎日を過ごしていました。

その彼女の父親というのが酒好きで金に汚い男シャムラル(アヌパム・ケール)。実は誘拐事件の大元となるのがこのオヤジ。悪党からの借金を娘モヒニーに払わせていたこのオヤジは、その娘から「もうこんなことしたくない!なぜなら私はムンナという素敵な男性と知り合ったから!」と宣言され、ムンナへのあてつけのため、悪党に娘を誘拐させたんですな。全く鬼畜同然のオヤジですな!こんな煮ても焼いても食えない最低オヤジをアヌパム・ケールが好演しています。

そんなこんなでムンナと仲間たちによる救出作戦が展開するというわけなんですが、この作品、冒頭の事件からあとは相当長い回想シーンで構成されており、しかも時間軸が錯綜しながら描かれているため、少々分かり難い部分があります。さらに、熾烈な暴力描写が続いたかと思ったら次はムンナとモヒニーの嬉し恥ずかし出会いのエピソードが歌と踊りを交えながらコミカルに描かれるのものですから、どうも緊張感が持続しません。なにしろマサラ〜ってことなんですが、どうもオレ、マサラ〜が苦手のようです。

しかしその辺納得づくで観るなら個々のエピソードは面白く出来ています。まず盛り沢山のアクション・シーン。結構血塗れぶっ殺し合いシーンが多いです。特に後半、モヒニー救出のためムンナと仲間たちがマフィアの仕切る町に潜入するシーンでは、町ひとつ壊滅させる勢いでドッカンドッカン爆発と破壊が巻き起こります!一方ロマンス・シーンでは、ムンナに恋したモヒニーのあの手この手の誘惑作戦が楽しめます。ムンナは終始無骨でニヒルに振舞い、ダーティーヒーローの面目躍如といったところでしょうか。そしてムンナの仲間となるチンピラたちのウェイウェイぶりがまた愉快で、歌と踊りが彼ら中心で演じられるところが特色でしょう。

それにしてもマードゥリー・ディクシトのダイアン・レインは分かるとしても、アニル・カプールマイケル・パレはどうなんだろう…髭も頭髪ももわもわな上に、体毛が相当に濃いんですよね…。実はインドでアニル・カプールがウケていたのがイマイチよく分かりません…。