眠い目つきのアイツはシックスパック!〜アクション映画『Baaghi』

■Baaghi (監督:サッビール・カーン 2016年インド映画)


悪い奴らに奪われた恋人を取り替えせ!とばかりに超絶拳法使いの青年が敵をバッタバッタとなぎ倒してゆくという今年インドで公開された爽快アクション・ムービーです。主演は『Heropanti』(2014)に続いて主演2作目となる新人スター、タイガー・シュロフ。彼はインドの名俳優ジャッキー・シュロフを父とする2世俳優なんですね。インド映画界世襲多いよなあ。共演に『Ek Villain』(2014)、『ABCD 2』(2015)など、最近話題作によく出演してるシュラッダー・カプール

物語はなにしろシンプル。主人公ロニー(タイガー・シュロフ)は武術修行の為赴いた南インドの町でシア(シュラッダー・カプール)という名の娘と恋をします。しかしロニーが入門した道場の息子ラーガヴ(スディール・バーブ)もまたシアに目を付けており、陰謀を巡らせ二人の仲を引き裂きます。2年後、未だ傷心のままでいるロニーに、シアがラーガヴに誘拐されたという知らせが届きます。ロニーはシアとの愛を再び取り戻す為、ラーガヴのいるバンコクに飛びますが、ラーガヴは手下どもを従え要塞のようなビルに立て籠もっていたのです。

この作品、ロマンス要素もたっぷりあるにせよ、なにしろアクションが基本です。道場で鍛えに鍛えた主人公ロニーは鋼の筋肉を持つ強力な拳法使いとして登場しますが、最大の敵ラーガヴもまた道場師範の息子として恐るべき技を兼ね備えた男なのです。そしてラーガヴが従えた部下たちもいずれ劣らぬ拳法使いとしてロニーの前に立ちはだかります。ロニーはこれら強敵を、強靭な肉体を駆使し電光石火の早業で次々と叩き潰してゆくという訳です。インド・アクションは数ありますが、拳法に特化してアクションを見せてゆく作品は珍しいかもしれません。いうなればインド映画を観ながらにして香港アクション、タイ・アクションの醍醐味が味わえるという訳なんですよ。

この作品は主人公ロニーを演じるタイガー・シュロフの魅力をどこまで引き出すかということに力を入れたものなのでしょう。まあなにしろ2世なんで鳴り物入りで売り出したいんでしょう。しかしこのタイガー君、デビュー作の『Heropanti』では、こう言っちゃなんですがちょっと顔がキモくて食指が動かなかったのが正直な所です。なんかこう、眠そうな目をしていて、マコーレ・カルキンに筋肉増強剤を20リットルぐらい投与したらこんなになりましたあ、ってな風情だったんですね。しかしこの『Baaghi』では髭も生やしてワイルドさが増し、鍛えまくったシックスパックをこれ見よがしに披露しているもんですからイメージがだいぶアクション・ヒーローっぽくなりました。しかも身体能力が高く拳法使いの"型"もしっかりしていて、アクション・シーンが実に見栄えがしていいんですね。踊りのシーンもキレがあったなあ。

ただ、逆三角形でシックスパックでアクション抜群で踊りもキレッキレというなら、インド映画にはリティック・ローシャンという人がいますし、おまけに色男ぶりではリティックの方がどう見たって上だし、なんかこうリティックの二番煎じに見えないことも無いんですね。そういった点でどうもタイガー君はB級というか次点のスターに見えてしまうんですよ。とはいえ、リティックが今後こんなアクションに出演することはなさそうだし、その穴を埋めなおかつB級なアクションにガンガン出てその地歩を固めれば、意外といけるかもしれないですね。それと彼、意外と笑顔が可愛いので、かつてシュワやスタローンがミスマッチを狙ったコメディに出演したみたいにコメディ作品に出演する、という手もありますね。

映画として見るなら、物語自体は割とありきたりな上、構成が御都合主義的な部分が多くて雑に思える部分が多いです。そもそも敵役ラーガヴはロニーとシアの仲を引き裂いたのに、なんで2年も待った挙句シアを誘拐したのでしょう。大体このお話、ザックリ言えば女の取り合いといった内容なんですが、悪の帝王みたいなラーガヴなら幾らでもイイ女拾ってこられたでしょうに。とはいえ、兎に角アクションを見せたいんだッ!ということでしょうから、ここはB級と割り切って、スカッとしたアクションを楽しめればいいんじゃないかと思います。特に戦いが熾烈さを増す後半の展開はノリノリになって観られますよ!

この後半、要塞めいたビルを頂上目指して上りながら次から次へと敵を倒してゆく、という構成がインドネシア映画『ザ・レイド』(2011)を彷彿させて盛り上がりますね。『ザ・レイド』ファンも比較の為に観てみるというのもいいかもしれません。これって『ザ・レイド』側から盗作批判もあったようですが、この構成って古くはブルース・リーの『死亡遊戯』(1978)からあったし、『パニッシャー:ウォー・ゾーン』(2008)でも『ジャッジ・ドレッド』(2012)でも使われていましたから、そんなに目くじら立てることないんじゃないっすかねえ。逆にアクション映画のフォーマットの一つとして流行らせると面白いのに。
http://www.youtube.com/watch?v=8HQIKJBUsQk:movie:W620