インドのリーサル・ウェポン、サニー・デーオールが暴れ狂うアクション映画『Ghayal Once Again』!

■Ghayal Once Again (監督:サニー・デーオール 2016年インド映画)


サニー・デーオールといえばオレの中では映画『Gadar: Ek Prem Katha』(2001)がなにより記憶に残っている。印パ分離の悲劇を狂ったような大殺戮アクションに変えてしまったトンデモストーリーにも唖然とさせられたが、なによりサニー・デーオールの手負いの熊みたいな手の付けられない激情ぶりに度肝を抜かれたのだ。なんなんだこの俳優は……と思っていたがどうやらそういった激情タイプのトンデモアクションを得意とする人なのらしい。

そのサニー・デーオールの久々の新作アクションが到着したというからこれは観ねばなるまい、と思った次第である。ただし今作は『Ghayal』(1990)という作品の続編なのらしいがそっちは観ていない。

《物語》過去の恐ろしい事件(これが前作なのらしい)により精神を病み療養していたアジャイ・メーラ(サニー・デーオール)はなんとか社会復帰できるまでに回復し、今は新聞社に勤めていた。そんな彼は社会の敵を撲滅する秘密結社で働くというもう一つの顔も持っていた。ある日彼の恩師である警察官ジョー・デスーザ(オーム・プリー)の交通事故死を知り涙に暮れるアジャイだったが、実はそれが事故に見せかけた謀殺だったことを知る。その殺人現場をたまたま撮影していた若者たちがいたのだ。しかしその殺人に関わっていたのは州首相のラージ・バンサル(ナレンドラ・ジャー)とその息子であり、証拠隠滅の為にビデオを持つ若者たちの誘拐を私兵たちに命じていた。アジャイは絶体絶命の危機にある若者たちを救うことが出来るのか、そしてビデオを手に入れられるのか。

実に痛快なアクション娯楽作だった。前半まではアジャイの過去の事件に対する葛藤や、フラッシュバックに苦しめられる様子が描かれ、この辺前作の経緯を知らない自分は若干置いてけぼりを食らったが、「なんかいろいろ辛いことがあった」程度のことは理解できた。また、裏の秘密結社の様子もこの前半部では物語られる。ただしここまでは状況説明に終始してしまう為にもっさりとした展開が暫く続いてしまうのは否めない。しかし、中盤も間もなくになり、州首相バンサルの悪事が発覚し、こいつが己の権力をあらん限り駆使して証拠隠滅に走り出す頃から物語に強烈なドライブが掛かり始める。なにしろこのバンサルという男、政府機関を私物化し、さらに黒スーツに身を包んだ私兵まで擁しているから始末に負えない。身の危険を察したブロガーの少年少女は逃走を始めるが、バンサルの魔の手は執拗に彼らを追跡する!

そしてここからの止められない止まらないアジャイのノンストップ・アクションがとてつもなく素晴らしい!GPSや監視カメラを駆使した悪党どもの追撃とカーチェイス、追いつめられるブロガー少年少女、そこに登場したアジャイによる反撃、そして一個のHDを巡っての、アジャイと残忍な私兵たちとの市街を縦横無尽に駆け巡る追跡逃走劇が展開する。車にはねられ電車に接触し、しまいには突き進む鉄道に飛び乗っての鉄拳の応酬、このシークエンスだけでなんと30分以上だ!アクション演出は手堅くそつがなく、インドアクションにありがちな大袈裟で見栄えのいいワイヤーやCGに頼ることなく、ただひたすら肉体の限界に挑み拳のパワーを駆使しながら、満身創痍になりつつも走り飛び敵に鉄拳を打ち込む!もう王道とも言えるアクションが展開しているのだ。

確かに物語には新しいものは無く、地道なアクション描写はとりたてて画期的なものだということはないにしても、この手堅い王道さにはちょっと昔のハリウッドB級アクション作品の爽快さを感じてしまったのだ。実の所インドアクションは飛び道具的な面白演出はあっても通常はどこか一本調子で、ボリウッド大御所出演作を除けばこういった作り込まれたアクションはこれまで少なかったように思う。これをしてハリウッドに追いついたような言い方はしたくないが、それにしてもよく研究してここまで遜色のないアクション演出まで到達することが出来なたあ、と感心したのだ。そういった部分でこの『Ghayal Once Again』はインドアクションの新たなる叩き台として非常に価値のある作品だと感じたのだ。

そしてなにより主演のサニー・デーオールがいい。熊みたいなもっさり体形のしょぼいオッサンが、髭面の顔を苦悶で歪ませ、生傷だらけの身体を限界までふりしぼりつつ敵を追い続ける!この、「見た目はしょぼいがやるときはやるオッサン」の雄々しさが、画面の隅々から臭いたってくるのである。もとより、サニー・デーオールのどこか草臥れたその風情は、フランスのノワール映画にしょっちゅう登場する小汚いヨーロッパ人主人公と相通じるものを感じるのだ。なにも映画の主人公はジムで作ったガチムチ体形をみせびらかす水も滴る若い男ばかりである必要などどこにもないのだ。そしてこの映画における主人公アジャイの石に齧りついてでも敵を追い続けるしつこさと体力は、ある意味オッサンの持つしつこさと持久力に他ならないのではないか。こういった「小汚く素晴らしいオッサン」像としてサニー・デーオールは輝いていた。
http://www.youtube.com/watch?v=7fD0dWZFg0A:movie:W620