家族の再会が引き起こした大きな波紋〜映画『Kapoor & Sons (since 1921)』

■Kapoor & Sons (since 1921) (監督:シャクン・バトラ 2016年インド映画)

カプールさんと息子たち

最初タイトル「カプール&サンズ」というのを見た時は「そうかそうかプリトヴィラージ・カプールから始まるインドの映画一家カプール一族のドキュメンタリーか、ランビール・カプールやカリーナー・カプールあたりは本人役で出て来るのか、いやポスター見るといないようだから代役と言うことなのか、でもそんなドキュメンタリーあんまり観たくないなあ」などと思っていたのである。ところがそれは全くの勘違いであった。映画一家とはまるで関係ない普通のカプール家を描くフィクションなのらしい、そう知ってやっと観ることにしたのである。
物語は何しろカプール家の人々を描いたものだ。インドのクーヌールという所にカプール家は家を構えていたが、そこのお爺ちゃんが心臓発作を起こす(実はこのお爺ちゃんはホントのカプール映画一族の出であるリシ・カプールが演じている)。お爺ちゃんと同居していたカプール夫妻、スニターとハルシュは急遽海外で生活していた二人の息子、ラーフル(ファワード・カーン)とアルジュン(シッダールト・マルホトラ)を呼び戻した。お爺ちゃんは一命を取り戻し、なんとか安心に見えたのだが、実はカプール家の面々はそれぞれに問題を抱えていて、彼らが一堂に会したことによってその問題が大きく吹き上がってしまうのだ。

■家族の再会

それぞれがばらばらに暮らしていた家族が、身内の入院やら不幸で再び再会し、そこで改めて家族としてのお互いを再認識する。こんなことが自分にも身に覚えがある。一昨年、郷里に住む自分の母親が入院して、それまで殆ど帰ってなかった実家へ里帰りすることになった。そこで10年振りくらいに弟や妹夫婦と会い、さらに叔父や叔母と、これはもう30年振りくらいに会うことになった。彼ら家族親戚とあれこれ話している中で、「自分の血縁とはなんなのだろう」と考える機会ができた。それまでいろいろと理解していなかったものが、するすると理解できるようになった。これまで避けていた血縁との再会は、結果的にはとても素晴らしいものになった。
ところがこの作品におけるカプール家はそうはいかなかったらしい。スニターとハルシュのカプール夫妻は考えの行き違いや女性問題などでギスギスした関係になっていた。ラーフルとアルジュンの兄弟は過去のちょっとした怨恨が収まったように見えながら、今度は地元で出会ったティア(アーリヤー・バット)との三角関係に発展しつつあった。こうして過去の問題と現在の問題がグジュグジュと化学反応を起こし始め、それは次第に大きな破局へと近付いてゆく。そんな中でただ一人、一家の長老であるお爺ちゃんが悲しい目をして右往左往することになってしまうのだ。

■非常に巧みなシナリオ

一見して非常に巧みなシナリオを持つ作品だと感じた。この物語では家族の多くが秘密を抱えている。その秘密は冒頭から様々な伏線を張りながら交錯しあい緊張感を高めてゆきながら、ある日嵐の中のダムのように決壊を起こす。この破局のポイントまでの構成が恐ろしいくらいに巧みなのだ。よくもまあここでここまで繋げたなあ、と思う。そしてこうした破局を経ながらもどうやってもう一度家族の輪を取り戻してゆくのかがこの作品の大きなテーマとなる。彼らの秘密は秘密のままであったほうがよかったものなのかもしれない。だがその秘密が発露したその先でさえも、あくまで誠実な家族同志であろうとするのがこの物語なのだ。
かつてインド映画といえば強権的な父を頂点とした家族主義の物語が多く観られたが、この作品では既にそういったヒエラルキーは存在しない。この作品ではそれぞれが時には間違ったこともする弱い個として描かれ、そして家族であるばかりにより一層強い感情を相手にぶつけ、親も子もなくいがみ合うことになる。ある意味インド的な家族主義が現代においてここまで解体されたと見ることが出来るのと同時に、それでもなお家族を乞い求めようとするする部分に決して変わらない家族愛の在り方を見て取ることが出来る。この物語性の豊かさは日本で公開されても十分受け入れられるものだと思うし、ハリウッドあたりでリメイクしても通用する秀逸さを感じた。

■(余談)ポップアップの女優の意味は?

ちなみにオレにもわかったインドネタを一つ。お爺ちゃんが愛でていた映画の名はラージ・カプール監督最後の作品『Ram Teri Ganga Maili』(1985)で、お爺ちゃんの持っていたポップアップは主演女優マンダキーニ。この映画、何が凄かったかって、当時ですら保守的なインド映画界でヒロインが堂々と乳房を見せちゃってる、という部分だった。ポップアップでのヒロインは白い衣装を着ているけど、本当はあの衣装のシーンではヒロインの乳房が透けまくっていたのだ。だからお爺ちゃんそこが大好きで忘れられなかったんだねー。