極悪犯罪組織と戦う正義の兄弟!『Shaan』 / 病魔に冒された患者と医者との友情『Anand』【アミターブ・バッチャン特集 その3】

■極悪犯罪組織と戦う正義の兄弟!〜映画『Shaan』 (監督:ラメーシュ・シッピー 1980年インド映画)


極悪な犯罪組織と戦う正義の兄弟!という1980年公開のアクション映画です。主演はスニール・ダット、アミターブ・バッチャン、シャシ・カプール、シャトゥルガン・シンハー。そして監督はあの『Sholay』(1975)のラメーシュ・シッピー。『Sholay』は西部劇へのオマージュでしたが、この作品はなんと「007」に触発されたフィルムなのだとか。しかし確かにオープニングこそ「007」ぽいのですが、決してスパイ・アクションという訳ではありません。
物語の主人公はボンベイに住むシヴ(スニール)とビジェイ(アミターブ)とラヴィ(シャシ)のクマール兄弟。シヴは熱血警官でしたが、ビジェイとラヴィは詐欺師までやっちゃうボンクラコンビでした。しかしシヴが謎の犯罪組織に命を狙われるようになってから彼らの生活は一変します。犯罪組織の首領シャカール(クルブーシャン・カルバンダ)はサディスティックな冷血漢であり、遂にシブは殺害されます。怒り心頭に達したビジェイとラヴィは復讐に燃え、ボンベイ沖合の孤島にあるシャカールの秘密基地へと潜入するのです。
この作品で見所となるのは非常に緊迫感に満ちたアクションの演出でしょう。インドの古めなアクション映画を観ると結構がっかりさせられることが多いのですが、この作品では巧いなあ、と同時に欧米作品をよく研究しているなあ、と感心させられました(当時のインド映画にしては、ということですが)。まず、アクションに限らず、この作品ではどんな場面でも描写が細かいんですね。その細かさが執拗さにも繋がって、緊張感を途切れさせないんです。この執拗さ・しつこさは確かに『Sholay』の演出と非常に共通するものを感じました。前半こそアミターブとシャシのユルい詐欺シーンや恋愛シーンが入って、この辺は当時のマサラ映画だからしゃーねーなーと思いながら観ることになるのですが、物語が進むにつれ一人また一人と死んでゆく兄弟や仲間たちの描写に段々と固唾を呑むことになります。追い詰め方が情け容赦ないんですよ。意外にグロなシーンもきちんと描いており、この辺の思い切りのよさも監督の力量だという気がします。
それと同時に、敵となる犯罪組織の首領シャカールの異常さと風貌も見所です。そのサディスティックな性格はそのまんま『Sholay』における山賊の首領ガッバル・シンなんですよ。その風貌はなんと「007」に出てくるスペクターの首領プロフェルドそのもの。ツルッパゲッでマオカラーのスーツを着てるんです。そして窓の外が海底になった秘密基地で部下を円卓に着かせ犯罪計画を練ってるんですね。任務に失敗した部下が椅子ごと恐ろしい生き物の待つ水底に落される、というのも007ぽい。しか窓の外の海底にはサメがうようよ泳いでいるのに、椅子が落とされた先にはワニが待っている、というのがなんだかよくワカラナイ(しかもこのワニ、「がおーっ」と鳴きます)。どちらにしろこの秘密基地の円卓にはいろんなガジェットが付けられ、結構力が入ってるんですね。クライマックスは仕掛けだらけのこの秘密基地でラメーシュ監督らしいひたすらしつこい演出のアクションが展開し盛り上がってゆきます。

■病魔に冒された患者と医者との友情〜映画『Anand』 (監督:リシケーシュ・ムカルジー 1971年インド映画)


病魔に冒された患者と一人の医者との友情を描いた1971年公開のインド映画です。主演は当時絶大な人気を誇っていた男優ラージェーシュ・カンナーとデビュー間もない頃のアミターブ・バッチャン。物語の語り部となるのは癌の専門医バースカル(アミターブ)。彼はある日アナン(ラージェーシュ)という末期癌患者と出会いますが、彼は自分の病を知っているにもかかわらず、驚くほど陽気で快活な男でした。人々はそんな彼に魅了されてゆきますが、否応なしに死の時は迫ってきて…というもの。
インド映画の難病モノというとシャー・ルク・カーン主演の『たとえ明日が来なくても(Kal Ho Naa Ho)』(2003)を思い浮かべますが、己の死期を悟りつつ精一杯明るく生きようと努力する主人公の姿を描いている点で共通しています。というよりもこの作品の主人公アナン、明るく元気というよりは、いつも落ち着きが無くやかましいほどにペラペラとまくし立て、本当にこの人病気なの?と思えてしまう程です。だからこそ周囲が彼の病気を知った時の驚きと哀しみも一層深いものになってゆくんですね。
難病モノ映画におけるこういった「快活な難病患者」は昨今では割とよくある手法なんですが、当時は十分心をえぐるものだったのかもしれません。それよりも死期を悟っている主人公が度々劇中において語るその死生観にどこかインド的なものを感じました。また、そんな主人公の為に周囲の人たちがヒンドゥーイスラム、キリストと、それぞれの神に祈る場面などもインド映画独特でしたね。とはいえ主人公の死期が近付き、病の床に臥せるようになるとどうしても悲劇性を強調することになってしまい、個人的にはそういった部分で通俗的に思えてしまったのが残念。ラージェーシュ・カンナーの陰影に富んだ演技がリードしてゆく作品でしたが、アミターブもまた実に医者らしく思わせる落ち着いた演技で抜群でした。