嘘を塗り重ねて窮地に至った男〜『Gol Maal』 / 悪徳不動産屋vsカメラマンのスラップスティック〜『Jaane Bhi Do Yaaro』【インド・コメディ小特集】

■Gol Maal (監督:リシケシュ・ムカジー 1979年インド映画)


面接で嘘をついて就職した男が、次第にバレてきた嘘にさらに嘘を塗り重ねてしまい、にっちもさっちもいかなくなる!?というコメディ作品です。
主人公ランプラサド(アモール・パルカー)は気難しい社長(ウッパル・ダット)に気に入られるために面接で誠実でお堅い男を演じましたが、ある日その社長にだらしない格好でスポーツ観戦する姿を見られてしまいます。問い詰められたランプラサドは「あれは双子の弟です!」と咄嗟に嘘をついてしまいます。しかし社長はその弟を娘ウルミラ(ビンデャ・ゴスワミ)の音楽教師に雇いたいと言い出し、ランプラサドは苦肉の案で付け髭の変装をして社長の娘と会い、今度はその娘と恋に落ちてしまう、といった内容です。
監督は「インドで最も愛された映画監督の一人」と言われるリシケシュ・ムカジー。この作品はその年最大のヒットを飛ばし、現在でもヒンディー・コメディの殿堂入り作品として語り継がれているのだとか。作中ではダルメンドラ&アミターブ・バッチャンの『Sholay』コンビが本人役で客演しているのも見所でしょうか。また、同じタイトルでローヒト・シェッティー監督が3作のコメディ・シリーズを制作していますが、これとは別物です。
さて「嘘に嘘を塗り重ねてさらにドツボにはまる」というのは現在でもインド・コメディの定番的なストーリー展開ですが、この作品はその原型か、ないしはいわゆる決定打としてインド映画ファンに印象付けたものなのかもしれません。ちょっと古い作品なので今観ると結構ユルイ物語展開ですが、なんだかのんびりホンワカした温かみのある雰囲気は決して悪くなく、最後まで面白く観ることができました。物語は後半、遂に嘘がばれ怒り心頭に達した会社社長が拳銃片手に主人公を追い回すばかりかカーチェイスまでが演じられ、思った以上のドタバタが楽しめます。というかこの作品はこの社長の怪演ぶりが最も注目です。
ところで作品を観て気付いたのですが、これって2012年に公開され大ヒットしたローヒト・シェッティー監督によるコメディ作品『Bol Bachchan』の元ネタだったんですね。『Bol Bachchan』でも冒頭でアミターブ・バッチャンが客演していましたが、そういう繋がりがあったのでしょう。

■Jaane Bhi Do Yaaro (監督:クンダン・シャー 1983年インド映画)


悪徳不動産屋とその悪事を追求するカメラマンとの攻防をドタバタのギャグで描いた社会派コメディです。
主人公はムンバイに写真スタジオを開店したヴィノッド(ナッスルディン・シャー)とスディール(ラビ・バスワニ)。彼らはゴシップ専門誌の女編集長ソーバ(バクティー・バーブ)から追っかけカメラマンの仕事を請け負います。そんなある日、ヴィノッドとスディールは撮った写真に殺人事件が偶然写りこんでいるのを発見、調査によりそれが悪徳不動産業者によるものであり、巨大な収賄が絡んでいることを突き止めました。ヴィノッドとスディールは裏付けをとる為ソーバと共に不動産屋の家に潜入しますが、そこでてんやわんやの大騒ぎに…というもの。
主演を演じるナッスルディン・シャーは、個人的には『The Dirty Picture』『Finding Fanny』の渋い老年俳優としてしか知らなかったのですが、この作品では彼が若々しい姿で登場して少々驚きました。また、「偶然写真に写っていた殺人事件」は、イタリアの映画監督セルジオ・レオーニの『欲望』からインスパイアされたものなのだそうです。
この作品で最も印象深かったのは、映像造りが非常にモダンで都会的であり、なおかつ無国籍的であるという部分です。これが例えば南米の都市で撮られた作品だと言われても自分は気付かなかったかもしれません。さらにヒロインが存在しないという物語も目新しかった。それに近いものとして女編集長ソーバが登場しますが、華やかな美人キャラというわけでは決してなく、ロマンスらしきものも描かれないんです。そしてテーマはナンセンスに描かれた汚職収賄にまつわる政治風刺。これらから監督クンダン・シャーのセンスの程を知ることができるでしょう。この作品がインド・コメディの殿堂入りを果たしているのも頷けます。
しかし強烈なスラップスティック・ギャグに彩られた物語ではありますが、そのギャグの設定の在り方に不自然さがあるのは否めません。ヴィノッドとスディールを亡き者にするため悪徳不動産屋が自分の家に爆弾を仕掛ける、なんて考えてみるとなんだか変だし、そもそも射殺された死体を病死と見せかけて犯罪性を隠ぺいする、という発端自体に無理があります。そういった破綻はあるのですが、一つ一つのギャグに光るものがあるので勿体ないんですね。また、ブラックでシニカルなラストもインド映画としては珍しいな、と感じました。