遺恨のまま別れたカップルの15年振りの再会〜シャー・ルク・カーン主演作『Dilwale』

■Dilwale (監督:ローヒト・シェッティー 2015年インド映画)

■シャールク主演の2015年年末大作

シャー・ルク・カーンの映画が公開されると「ああ年末なんだなあ」と思う。今は年末ではないが、インドでは有名俳優出演の大作が年末に集中して公開されるからだ。2015年の年末はと言うとこの『Dilwale』(12月公開)を始め、サルマーン・カーン主演の『Prem Ratan Dhan Payo』(11月公開)、サンジャイ・リーラー・バンサーリ監督作品『Bajirao Mastani』(12月)と、そうそうたる大作が目白押しとなっていた。このうち『Prem Ratan Dhan Payo』はBlu-rayで観たし、『Bajirao Mastani』は日本の劇場で観ることができたが、この『Dilwale』もやっとBlu-rayが出たので、2015年年末大作はやっと一通り観られたことになる。

今作の監督はローヒト・シェッティー。あの『Singham』(2011)『Singham Returns』(2014)、そしてシャールク&ディーピカーの『チェンナイ・エクスプレス〜愛と勇気のヒーロー参上〜』(2013)を撮った監督だ。アクション映画の得意な監督といったイメージがあるが、初期は『Golmaal』シリーズなどコメディ作品でもヒットを飛ばしていたらしい。

■二組のカップルのロマンスの行方


物語は二組のカップルのラブ・ロマンスを中心に描かれる。まず一組目のカップルは自動車工場を営むラージ(シャールク・カーン)とミーラー(カージョール)との恋。実はこの二人、映画の時間軸から遡る15年前に出会い愛しあっていたのだが、この時ラージはギャングであり、そしてギャング抗争を巡る痛ましい事件をきっかけに二人は別離し、遺恨を残したまま現在に至っているのだ。

もう一組のカップルはラージの弟ヴィール(ヴァルン・ダワン)とイシター(クリティ・サノーン)との恋。二人の恋は順調に進んでいたかに見えたが、イシターの姉がミーラーであることが発覚、兄ラージと姉ミーラーの過去の遺恨があるばかりに、弟ヴィ―ルと妹イシターの恋が暗礁に乗り上げる。

このこじれたロマンスを中心としながら、物語はローヒト監督お得意の熾烈なアクションやコメディ要素を散りばめ、さらに物語の舞台となるブルガリアのロケーションを大いに見せつつ、マサラ・ムービーらしいなんでもありな作品とて完成している。コメディ要素の部分はジャガイモ顔俳優ジョニー・リーヴァル、ラージクマール・ヒラーニー監督作品でもお馴染みのボーマン・イラーニー、さらにムケーシュ・ティワーリーの登場によって支えられ、この辺もある意味豪華かもしれない。

■出演者たち


主演4人の中では、まずカージョールの登場が嬉しかった。実はキャスティングを殆ど知らずに観ていたので彼女が登場した時にびっくりしたのだ。カージョールとシャールクの共演作は多いが、やはりなんといっても『Dilwale Dulhania Le Jayenge』だろう。この二人の共演を再び観られるのも嬉しいが、それよりも大人な女性として登場したカージョールの、その歳を経てなお輝く美貌と張りのある声、そして勝気なキャラに魅せられた。なにしろこのオレ自身がいい歳のおっさんなので、若い女優よりもこうした熟年女優の活躍のほうが嬉しいのだ。俳優としての演技も申し分なく、これからももっと多くの作品に出演してくれればいいのに、とちょっと思った。

ヴァルン・ダワンは今作で大いに活躍していた。シャールク主演映画ではあるが、見せ場こそシャールクが持って行くけれども、出演時間や物語における役割でいえばほぼ半々だったのではないかとすら思わせる活躍ぶりだ。調べてみるとオレはヴァルン・ダワン主演作をかなり観ていた(というか全て)が、こうしたインド映画の明日を支える若手俳優が頑張っているのを見るのはいいことだ。ダワンの相手役だったクリティ・サノーンはよく知らない女優さんなのだが、ネットで調べるとこんな記事があってにやりとさせれた。この記事で出てくる映画こそこの『Dilwale』なのだろう。一方主演のシャールクはアベレージといったところだろうか。

■所々に楽しめる部分はあるのだが…


これはシャールクが精彩を欠いていたというより、この作品におけるローヒト監督の演出に精彩さがなかったからだと言えるのではないか。実はこの『Dilwale』、年末大作映画として期待して観たわりには、結構平凡な出来なのだ。確かに所々では楽しめる部分はある。なによりアクションだ。格闘やカースタント、銃撃戦を描かせればローヒト監督はピカイチだろう。とある戦闘シーンではシャールクが拳銃から軽機関銃へ、そしてショットガンからナイフへ、さらに格闘技へと流れる様な演出で敵を撃破するといったシーンはさすがだった。コメディ・シーンで面白かったのは兄の素性を弟ヴィールが兄の友人に聞くシーンだ(ヴィ―ルは兄が元ギャングだと知らない)。ここではラージの友人がTVに写る映画や番組から連想される出まかせの名前を次々と繰り出して適当な作り話を繰り広げ、大爆笑させられる。歌のシーンでは驚く様なロケーションと演出が目を楽しませてくれた。

だがことロマンス描写となるとこれがどうも今一つで、ロマンス要素が大きなウェイトを占めるこの物語ではそれが仇になってしまっているように感じた。確かにとうとうと切ない気持ちを歌い上げる歌のシーンなどは非常によくできていたが、劇中におけるカップル同士の心のやりとりがとってつけたような演出で観ていて心に響いてこないのだ。そもそもミーラーのある裏切り行為とそれに対する贖罪というのも一人の人間の心理としてどうにも整合感に欠けるように思える。全体的にも登場人物たちがひとつの画面にまとめて現れ、個々に何かを言って状況が展開するといった演出が多く、こういった動きの無い画面が多いのも退屈に感じさせる要因だった。これはロマンスにウェイトを置いたシナリオを、アクション好きのローヒト監督が持て余してしまった結果なのではないだろうか。いっそロマンス展開を4分の1ぐらいに切り詰め、その分アクションとコメディ要素を増したシナリオだったらローヒト監督も物語を生き生きと描けたんじゃないのかなあ。


チェンナイ・エクスプレス~愛と勇気のヒーロー参上~ [DVD]

チェンナイ・エクスプレス~愛と勇気のヒーロー参上~ [DVD]