Virgil Finlay幻想画集 復刻版 / 大瀧 啓裕 編・著

伝説の幻想小説誌『ウィアード・テイルズ』を中心に、そうそうたる幻想・SF作家たちの挿絵を手がけ、その精緻を極めた流麗な画風で幻想・SFイラストの最高峰と讃えられたヴァージル・フィンレイの画業を収録した『Virgil Finlay幻想画集』を34年ぶりに復刻刊行!編者による詳細な解説と資料も収録!

ヴァージル・フィンレイといえば大昔SFマガジンでちょっとした紹介がされていてそこで見たのを覚えている。黒を基調とした画面には美女と魔物が点描で描かれ、さらに有機物のような光輪がそちこちに漂い、そこにはまごうことなき異世界が表出し、それら全てに一種異様な暗さと深みがあった。ヴァージル・フィンレイを知らない方でも、創元社から刊行されているラブクラフト全集の表紙の作者、といえばお分かりいただけるであろう。

ヴァージル・フィンレイは20世紀半ばに「ウィアード・テイルズ」などのパルプ雑誌で挿絵画家として活躍したイラストレーターだ。例によって手抜きだがWikipediaによるざっくりした経歴をコピペしてみる。

ヴァージル・ウォードゥン・フィンレイ(Virgil Warden Finlay、1914年7月23日 - 1971年1月18日)は、アメリカのイラストレーター。アメリカ合衆国ニューヨーク州ロチェスター生まれ。戦前から戦後にかけてファンタジー、SF、ホラーのパルプ・マガジンに多くの美麗な挿絵を発表した。フィンレイが得意とした手法は、極細のペンによる高密度の点描とクロスハッチング(密度のある平行の直線を何重にも重ねて陰影に見せる技法)で、これは非常な手間と時間がかかるものであったが、彼は35年の経歴中に2,600以上の作品を残した。作風の特徴としては、当時としては顕著な官能性が挙げられる。
Wikipedia-ヴァージル・フィンレイ

そんなヴァージル・フィンレイの画集がこの度青心社から刊行されたが、これは1981年に刊行された同書の34年振りとなる復刻版なのらしい。解説も含め130ページほどのハードカヴァーで、フィンレイのイラストは100点あまりが収められている。これを内容が薄いと取るか手に取り易い価格帯に収めた良心的な画集と取るかだが、実は編集した大瀧啓裕氏の解説によると、500枚に及ぶ原画から客観的な観点を得るため画家を始めとする大瀧氏の5人の友人の助力を経てこの点数まで絞り込んだ作品集となるのらしい。いわゆるフィンレイのベスト・オブ・ベストともいえるセレクションとなっているのだ。そこまで入れ込んだ大瀧氏の解説がまた素晴らしい。これがフィンレイの生涯を追っただけではなく、20世紀半ばにおけるパルプ・マガジンのちょっとした小歴史を追ったものにもなっていて、これはかなり読み応えがあった。なによりも大瀧氏のフィンレイへの深い敬愛がうかがわれるのだ。
大瀧氏によるとフィンレイは不遇の画家ではあったが、彼は決して早すぎた才能でも遅すぎた才能でもなく、まさに当時のパルプ・マガジンがあったからこそ培われ花開いた才能であると書かれている。なるほど、世にはそういった形でしか現れることの無い才能というものもあるのか、としばし思いを馳せてしまった。というわけで稀代の幻想画家にして唯一無二の駿才、ヴァージル・フィンレイの幻想画集をとくとご覧あれ。




ヴァージル・フィンレイ幻想画集

ヴァージル・フィンレイ幻想画集