夫と妻の深い溝〜映画『Shaadi Ke Side Effects』【ヴィディヤー・バーラン特集】

■Shaadi Ke Side Effects (監督:サーケート・チョウドゥリー 2014年インド映画)


順風満帆に過ごしていたはずの結婚生活に大いなる異変が!?それは子供が出来ちゃったことなんです!?あー、今まで通りの生活には戻れないよう…(シクシク)という既婚男性の悩みと苦闘を描いたコメディ、『Shaadi Ke Side Effects』です。タイトルは「結婚の副作用」なのだそうですが、子供の誕生が「副作用」と捉えてる部分で既に旦那の負け犬意識が濃厚ですな。主演に『女神は二度微笑む』のヴィディヤー・バーラン、そして『ミルカ』のファルハーン・アクタル。既に日本公開済の傑作2本の主演俳優、という紹介の仕方ができるのはインド映画好きとしてはなんだか嬉しいですな。

《物語》熱烈な恋愛の末に結ばれ幸せな結婚生活を営んでいたシド(ファルハーン・アクタル)とトリシャー(ヴィディヤー・バーラン)だったが、子供が生まれたことで二人の関係に微妙な変化が訪れる。これまではラブラブだった二人だが、トリシャーはすっかり子供中心の生活をするようになり、家庭にシドの居場所がなくなってきたのだ。おまけに育児の手伝いをしようにも、トンチンカンなシドはトリシャーに叱られてばかり。ああ、こんなはずじゃ…。そこでシドは友人の忠告に従い、妻には仕事と嘘をついて月一回のホテル住まいを始める。ああ!これだよこの解放感だよ!だが子供が成長するにつれそんな散財も難しくなり、シドはまたしても追い詰められてゆくのだ。

「女性には3つの顔がある、それは妻・母・女だ」なーんて言葉がありますが、女性は結婚して子供ができると、それまでの恋人・妻の顔からあっという間に母親の顔に切り替えられちゃうというのはよく聞く話ですね。一方男性のほうはなかなか切り替える事が出来ないものですから、相変わらず子供みたいなことばかりやっていて奥さんの変化についてゆけず、そこから夫婦の溝が生まれてしまう。これなんかもよく聞く話ではあります。映画『Shaadi Ke Side Effects』は、まさしくそんな状況にみまわれた夫婦を夫の目線から描き、「妻と今まで通り上手くやっていきたいし、子育ての手助けもするべきだろうけど、自由にもなりたい…あー!俺いったいどうしたらいいんだ!?」と頭を抱える夫の七転八倒ぶりが可笑しいコメディなんですね。

自分は結婚もしてないし子供もいないので、こういった物語にどこまで感情移入できるのかなあ?と若干心配だったのですが、実際観てみると、これが実に楽しませ、笑わせてくれる作品でした。まずシナリオが意地悪なぐらいにこまごまと男女の行動や考え方の溝を描写していて、その中で男の幼稚さ、しょーも無さをちまちまとえぐり出しており、身に覚えが無いわけでもないそれらの描写に、思わず「アタタタタ…」と心が痛くなってくるのですよ。とはいえそんな行動をとっちゃうシドの気持ちは男として十分分かるし、一方、トリシャーの言い分もやっぱり理解出来るんです。こういう「頭では理解出来るけど気持ちとしては億劫なこと」「相手の言い分は正しいし尊重するべきだけど実際のところこっちが疲れちゃうこと」ってあるんですよねえ。そこをなんとかするのが大人ってもんなんですが、いや、それも理解はできるけど…ああ堂々巡り。

こういった、「結婚問題」「育児問題」といった限定されたテーマに留まらない、いわゆる「男と女の心の溝」を描き出し、それをコメディとして上手くまとめたところが秀逸な作品でしたね。そして「じゃあ男と女はどうやって歩み寄ればいいんだろう?」という解決策を模索しようとするんです。トリシャー役のヴィディヤー・バーランは「妻・母・女」という女性の三つの顔を絶妙に演じ分け、今回も演技派女優の技量を見せつけてくれました。一方シド役のファルハーン・アクタルも「大人になりきれない旦那様」をとても存在感のある演技で見せてくれました。いやしかしファルハーン・アクタル、「体脂肪率を5%まで絞った」という『ミルカ』とはまるで別人でびっくりしましたよ!2014年のインド映画良作はだいたい観たつもりだったのですが、まだまだ見落としていた!と思わせてくれた作品でした。

http://www.youtube.com/watch?v=Iu18_rNpTA0:movie:W620