世界26ヶ所の名だたる廃墟を収めた写真集『世界の廃墟』

■世界の廃墟 / 佐藤健寿

世界の廃墟
以前このブログで紹介した『バイコヌール宇宙基地の廃墟』を読んでからなんだか"廃墟の本"が気になり、あれこれ探したところ見つけたのがこの写真集『世界の廃墟』。監修者はベストセラーとなった『奇界遺産』を著した佐藤健寿。『奇界遺産』は自分も所蔵しており、その奇怪な光景の数々を堪能した記憶がある。そしてこの『世界の廃墟』は世界各地26ヵ所に散らばる名だたる廃墟を紹介し、その写真と廃墟となったその理由を解説している。

収録された廃墟には、知っているものも知らないものもある。例えば日本人には長崎の軍艦島はお馴染みだろうし、世界で最も有名な廃墟といえばチェルノブイリ原発事故により無人の街と化したプリピャチということになるだろう。もちろん知らなかった廃墟のほうが多くて、例えば表紙になったブルガリア共産党ホールや、ベルギーのパワープラントIMなどは、異様な形状と巨大さの中の空虚さというのがなにか異次元世界の建物のようにすら思わせる。ショッキングだったのは国際紛争により閉鎖されたキプロス島の幽霊リゾートビーチであったり、南極探検で全滅したスコット隊の小屋であったり、ナチスにより住民全員が虐殺されたまま廃墟と化したフランスの村であったりする。やはり「死」の匂いのする場所は一種凄みがある。

これら廃墟写真はネットを探せば幾らでも見つかるものなのかもしれない。だがこのようにある程度の廃墟写真が1冊の本として網羅的にまとめられ、きちんと説明が加えられていて、大判の書籍ならではの大きな写真でじっくり眺められるはやはり醍醐味がある。1つの廃墟につき4ページが割かれており、それが少ないという意見もあるようだが、むしろこのぐらいのボリュームで定価1900円余りと手に取りやすく購入し易い価格に設定されていることも嬉しい。

それにしてもなぜ人は廃墟などというものに惹かれるのだろう。監修を務めた佐藤健寿はこの著作の中で「廃墟が生じた理由」の4つの種類を挙げている。1.冷戦構造も含めた戦災の廃墟。2.エネルギーと産業を巡る廃墟。3.都市と経済を巡る廃墟。4.自然災害による廃墟。そして佐藤はそれらを、「昨日までそこに存在し、今日も存在していたかもしれぬ、(中略)私たちが廃棄した未来の一部」と表現している。人はその「廃棄した未来」の光景の中に、ある種のメランコリイを覚えるのではないだろうか。

○参考:
人間が消えた村、幽霊塔… 日本初の写真集『世界の廃墟』がすごい!/ KAI-YOU.net
世界の「有名廃墟」がヤバイ! SNSで話題の写真集ついに刊行!/ ダヴィンチニュース

■収録された廃墟

・ワンダーランド(中国)――トウモロコシ畑の中にそびえる、不思議の国のシンデレラ城
・レッド・サンズ要塞(イギリス)――謎の独立国家が領土を主張する、無人のトーチカ群
・コールマンスコップ(ナミビア)――ダイヤの砂時計に埋もれた、忘れられた街
・スコット隊の小屋(南極)――南極の雪原から発掘された、時を止めた部屋
ブルガリア共産党ビル(ブルガリア)――山の上にひっそりと佇む、忘却されぬ過去
・第309航空整備再生場(アメリカ)――アリゾナの大地に眠る、空飛ぶ鋼鉄の塊
端島(日本)――人々の歴史を護り続けた、絶海に浮かぶ軍艦
・サトーン・ユニーク・タワー(タイ)――最高の立地に立ちすくむ幽霊マンション
・セントラリア(アメリカ)――地熱70度オーバー、50年以上、燃え続けている街
・ヴァローシャ(キプロス)――有刺鉄線で覆われた世界有数のリゾート・ビーチ
・ジーゲル駅(ベルギー)――ずさんな都市計画で生まれた線路なき地下鉄駅
・ボディ(アメリカ)――ワイルドウエストの果て、兵どもの夢の跡
・オラドゥール=シュル=グラヌ(フランス)――第二次世界大戦の悪夢。一夜にして人間が消えた村
・パワープラント IM(ベルギー)――幾何学的構造に満たされた、廃墟マニアの夢
・ベーリッツ・サナトリウム(ドイツ)2つの大戦で軍人を収容した、「病院」廃墟の最高峰
・バラクラヴァ原子力潜水艦基地(ウクライナ)――世界が滅びても存続する黒海のシェルター
大久野島(日本)――廃墟の中でウサギが遊ぶ、「地図から消された島」の現在
・ディスコ・インフェルノ(オーストリア)――壊れた壁から差し込む光を乱反射するミラー・ボール
・トイフェルスベルク(ドイツ)――ベルリンを見渡す、瓦礫の上の「悪魔の山
・バーントン採石場の秘密地下壕(イギリス)――採石場にオブラートされた、英国の超機密施設
・プリピャチ(ウクライナ)――人類史上最大のディストピアと化した、科学のユートピア
・柳京ホテル(北朝鮮)――ー世界最高のビルを目指した、北朝鮮のバベル
・フェルクリンゲン製鉄所(ドイツ)――重厚長大、ドイツ鉄鋼業を象徴する鋼鉄製のカテドラル
・クラーコ(イタリア)――2000年以上の歴史を持つ幻想的な丘の上の廃墟
・ブラッシュ・パーク(アメリカ)――優美な建築が立ち並ぶ高級ゴーストタウン
・医師の家(ドイツ)――主の消えた家に横たわる、失われた未来





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