放擲されたソ連宇宙計画の残骸〜『バイコヌール宇宙基地の廃墟』

■バイコヌール宇宙基地の廃墟 / ラルフ・ミレーブズ

バイコヌール宇宙基地の廃墟
バイコヌール宇宙基地はカザフスタンに存在するロシア連邦宇宙局の管理するロケット発射場である。その広大な敷地の片隅に、半ば廃墟と化したロケット格納庫と関連施設が佇んでいる。そこには、冷戦時代のソビエト連邦が開発し、建造されたスペースシャトル・タイプの有翼往復宇宙船と打ち上げロケットとが、朽ち果てながら眠っているのだという。ロシア在住のラルフ・ミレーブズが著した『バイコヌール宇宙基地の廃墟』は、その宇宙計画の残骸を、多数の写真により構成したルポルタージュである。

有翼往復宇宙船計画とその宇宙船の名前は「ブラン」。1974年から1993年にかけて計画は推進され、1988年に打ち上げられた最初の「ブラン」は4時間足らずで地球を2周し、バイコヌール宇宙基地に帰還したという。最初の打ち上げによる「ブラン」は遠隔操作による無人飛行であったが、これは米スペースシャトルでは不可能なことであった。ただし、有人飛行の危険性をおそれた措置でもあったらしい。計画の間、ブランは7機余りが建造されたが、91年8月のソ連クーデター事件を皮切りとした政治的混乱の中計画は頓挫、その後整備棟の中に放置されたまま現在に至っているのだ。

この『バイコヌール宇宙基地の廃墟』では、整備棟に眠る廃船・ブランの外観、コックピット内部等数々の写真を始めとして、打ち上げ補助ロケット「エネルギア」やその格納棟の写真等が収められている。当時最先端の技術と莫大な資金、人員を注ぎ込まれ作られた宇宙船ブランは今や誰も省みることの無いスクラップとしてバイコヌールの荒野に捨て置かれている。耐熱タイルははがれ、積年の埃に薄汚れたその姿はしかし今だ威容を誇り、その姿はあたかもまどろむ巨人のようですらある。そしてそれは、「未来の廃墟」とでも表現したくなるような、息を呑む廃墟感に満ち溢れているのだ。

参考:
幻の「ソ連版スペースシャトル」放置されてホコリだらけに(画像)- The Huffington Post Japan
旧ソ連版スペースシャトル「ブラン」、野ざらしの今と華やかな過去の画像 - GIGAZINE
ブラン (オービタ) - Wikipedia






バイコヌール宇宙基地の廃墟

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